第一話・はじめまして神社でワクワクコンコン♪①

 ラグナ六区学園の夏休み──魔王城【マオーガ】にある真緒のプライベートルームで、コレクションしている『閃光王女狐狸姫』のDVD整理をしていた魔王真緒が。

 部屋の掃除をしている瑠璃子に言った。

「瑠璃子さん、休憩して一緒に狐狸姫のDVD第一話、観てみない?」

 掃除の手を休めた瑠璃子が、一ミリも興味が無さそうな顔で言った。

「それ、前にも一度観ましたけれど」

「そんなコト言わないでさ、何度観ても面白いんだから……満丸くんなんて、ワザワザ柱に頭をぶつけて一話の記憶を脳内から飛ばして観て、楽しんでいるよ」

「そこまでして観る気にはなりませんが……休憩は賛成ですね、ミルクと紅茶とクッキーを用意します」

 ティータイムの準備が整い『閃光王女狐狸姫』第一話の観賞がはじまった。


 オープニングのテーマ曲が流れる、アニメ画面を観ていた瑠璃子は、違和感を覚えた。

(あれ? 前に観た時……あんな、子ギツネの妖精みたいなのが空から落ちてきて、主人公と顔面激突するシーンなんてあったっけ?)


 アニメの冒頭は、引っ越してきた主人公の女の子──『狐尾ゆるり』が自分の部屋で引っ越し荷物を、段ボール箱から出して、整理をしている場面だった。


 瑠璃子は、自分の目をゴシゴシこする。

(なんか……棚に置いてあるヌイグルミが違う、床に散らかった衣服の中に以前観た時には無かった、スクール水着が混じっている? なに、これって間違い探し?)


 主人公の女の子が、額の汗を手の甲で拭きながら呟く。

「明日から新しい中学校か、頑張るぞ」

 女の子がバトルアックス、みたいなのから花を咲かせる。

 目が白抜き点目になる瑠璃子。

(手品ステッキじゃないの? そもそも、あのバトルアックスどこから出したの?)

 瑠璃子は、アニメの次の展開は、台所から母親が娘に声がけをするシーンだとわかりながら観ていた……だが、次のシーンは瑠璃子が観た第一話とは異なっていた。


 エプロンをした母親だったシーンが、パンツ一丁でエプロンをした祖父が孫を呼ぶシーンに変わっていた。 

「ゆるりやぁ、すまんが背中の膏薬を貼り直してくれんかのぅ」

「は~~いっ」


 瑠璃子は、パニックになって心の中で絶叫する。

(え────っ!?)

 シーンは変わり、近所の散策をしていた主人公が、鎮守の神社に立ち寄るシーンになった。

 神社の石段上がる主人公。

(この神社は、狛犬の代わりにキツネが両側に……って!? 片方の狛犬、タヌキになっとるがな?)


 主人公が神社の石段を上がりきって、神社に詣る。

「ワクワク、コンコンな出会いがありますように」

 主人公が祈っているのは金剛力士像だった。

 思わずツッコミを入れる瑠璃子。

(なんで、金剛力士像! 前観た時は普通の神社だったでしょうが? いつの間に神仏混合の神社に?)


 主人公が何気なく神社の裏に回ると、定番の流れで傷ついた子ギツネの妖精みたいなのが、何者かに吹っ飛ばされて地面に転がる。

 その時、変身アイテムみたいなモノが主人公の足元に転がってきた。

(うん、このシーンは前に観た時と同じ)


 お決まりの敵登場。

 太ったコアラみたいな敵が不敵な笑みを浮かべながら、子ギツネの妖精に言った。

「いい加減に諦めて、この邪魔々じゃままの『ヌケガケ』さまに『神器】を渡すのじゃ……伝説の戦士『閃光王女』なんて、この腐れきった人間の世に、いるはずねぇんだからよじゃ……オレが有効に神器を使ってやるからよじゃ」 


(ちがう……セリフに不自然な「じゃ」っていう語尾が追加されている。敵の名前は変わってないけれど……あんな太ったコアラみたいなヤツじゃなかた、なにこのアニメ)

 主人公の、狐尾ゆるりに向かって、傷ついた子ギツネが言った。

「その、狐狸姫変身ベルトを拾って装着してにゃ、早くにゃ!」

 主人公の足元に転がってきた、女の子が好きそうなアイテムは、いつの間にか変身ベルトに変わっていた。


(すでにカオス状態……キツネの語尾が「にゃ」って何よ? 急に変身ベルトって?)


 主人公の女の子が、変身ベルトを拾おうとした時、太ったコアラの敵が言った。

「いいのかい、それを手にしたら普通の中学生の生活はできなくなるぜ……じゃ」

 拾うのをためらう主人公。


(ここから定番の「なんだかさっぱり分からないけれど、このままにしておけない」みたいなセリフを言って、初変身シーンだね)

 だが次の展開は、瑠璃子の予想を遥かに越えていた。


 主人公がケロッとした顔で言った。

「そうだね、なんか面倒くさそうだね……拾うのをや~めたぁ」


(え──────っ!? ヒロインになるのを否定したぁ)

 そして、なぜかいきなり戦闘シーン……主人公の女の子は、顔に変な化粧をして敵の方の幹部になっていた。

(主人公、悪落ちしたぁぁぁぁぁぁ! もう、ワケわかんない)


 悪落ちした主人公が、楽しげなイベントが開催されている会場で叫ぶ。

「夢も希望も未来も元気も、とにかくなんでも奪い取れ!」

 ランダムに選ばれた、ストーリーに脈略の無い、人生に不満を抱いていそうな顔をした犠牲者。


 悪落ちした主人公が、どこからか取り出したのは。白い大福にカエルのような手足が生えていて、半月型の目をした目つきが悪い生き物だった。

 真緒がコソッと瑠璃子に解説する。

「あれは、原始精霊だよ。本来は純朴で人に無害な存在だったんだけど……人間の歪みの感情やエゴを受けて、あんな姿に……【邪魔々の子】って呼ばれている、狐狸姫の敵の邪魔々は。あの原始精霊が成長した姿なんだ」 


 犠牲者に投げつけられた【邪魔々の子】が、犠牲者の口から体内に侵入して、犠牲者の体が化け物〔邪魔スルナヤ〕に変貌する。

「邪魔スルナヤ~っ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る