④食物怪人は……美味しすぎる・ラスト

 小倉モナカに、寿司職人ロボットが話しかけてきた。

《ゴ注文ヲドウゾ》

 考え事をしているモナカは答えない。

 離れた席に座っている半面仮面の『チョコパフェ生徒会長』と、名乗るコトになる会社員は、うっかりレーンからとってしまった、赤ん坊並みのサイズがある、赤身マグロ寿司にかぶりついている。


《ゴ注文ハ?》

 無意識に呟くモナカ。

「アクの……組織」

《アク? ソシキ? 店内ノ寿司ネタ検索中》

 精密で真面目すぎる寿司職人ロボットは理解不能な注文に、回路がショートして耳の穴から白煙が噴き出す。

《ガガガガ……アクノ組織……ノットルン! ノットルン! バンザーイ! バンザーイ!》

 暴走した寿司職人ロボットは、次々と寿司から戦闘員を作り出して、ここにアクの組織【ノットルン】が爆誕した。


 ティラミス書記の回想は続く。

 崖がある採石場のような場所で、勢力を徐々に拡大してきたノットルンと、人気上昇中の大奥戦隊【タマノコシンジャー】が激突した。

 その昔、時の将軍、徳多吉宗に暇を出され大奥を、悔し涙を流して去った者たちの末裔で結成されたタマノコシンジャー。

「おのれ! 吉宗!」

「今こそ、上様のご寵愛を」

 を合言葉に、時の権力者に媚びて、寵愛を受けて玉の輿に乗ることを目的としたスーパー戦隊だった。

 タマノコレッドが、尻込みしているグリーンの尻を叩く。

「ほら、グリーンあんたが先に攻撃しなさいよ……目立たないと、上様から、ご寵愛してもらえないわよ」

「だって、ボク男だよ、無理矢理に女装やらされている男のだよ……今の上様って、青年実業家の男性だよ」

 ブルーが言った。

「男でもなんでも、ご寵愛を受けるコトがあたしたちの目的なの」

「そんなぁ、ボクいやだよぅ……好きでもない男同士でキスするなんて」


 タマノコシンジャー が、モメているのを見ていたティラミス書記が、横に立つハンバーガーの食物怪人『バーガード軍曹』に言った。

「バーガード軍曹、戦隊の登場口上前だけれど……やっちゃって」

 バーガード軍曹が、頭の巨大ハンバーガーの口開く、口の中には上下に人間の歯が並んでいて舌が肉パテになっていた。

「がってんだぁ! 食らいやがれ! オレのハラペコ光線」

 人間を空腹にする光線が、バーガード軍曹から タマノコシンジャーに浴びせられる。

 空腹に腹部を押さえる タマノコシンジャー。

「急にお腹が減って」

「お腹すいたぁ」


 バーガード軍曹は、地面に胡座をかいて座ると、腹を鳴らしているタマノコシンジャーに言った。

「さあ、オレの辛口バーガー頭を食べやがれ……オレの頭は辛味がクセになる美味さだぜ」

 フラフラとバーガード軍曹に近づいた、タマノコシンジャーの女性たちはヘルメットを外して、バーガード軍曹の頭にかぶりつく。

 長髪のレッドが言った。

「おいしい……怪人の頭って美味しい」

 ショートヘアーのブルーが言った。

「クセになる辛さ……もう食べるのが止まらない」

 肩口までのミディアムヘヤーのイエローが、バンズを千切って食べる。

「おいしい、おいしい、パンの部分も辛くておいしい」


 数分後──頭が食べられて無くなった、バーガード軍曹の体がドッと後方に倒れ。

 軍曹の頭を食べたタマノコシンジャーたちの唇は、タラコのように腫れ上がる。

「ひっ! アヒル口じゃなくてタラコ唇に!?」

「こんな顔じゃ、恥ずかしくて戦隊マスクで顔を隠して生活するしかない……ひーっ」

 戦隊マスクで顔を隠したタマノコシンジャーたちは、慌てて逃げていった。

 ティラミス書記は、首なし怪人になった。バーガード軍曹がどうなるのか心配して見ていると、

首無しの体が立ち上がり、UFOのように飛んできた新しいハンバーガーがバーガード軍曹の体にくっついてバーガードは復活した。

 バーガード軍曹改め、バーガード曹長そうちょうが天を指差して言った。

「新作、バーガード曹長! ここに降臨!」

 ティラミス書記が、感心しながら拍手をして言った。

「自分の身を犠牲にして敵をタラコ唇に変える……ノットルンのかがみです」


 回想が続けていたティラミス書記は、ダンゴ怪人の言葉で現実にもどってきた。

 ダンゴ怪人が、焼き上がったクッキーをオーブンの中から出しているティラミス書記に訊ねる。

「前から疑問だったんですが、自然消滅してしまったノットルンについて二~三質問してもいいですか?」

「なに?」

「質問その一、ノットルンっていったい何やっていたんですか? 秘密組織過ぎてよくわからないんですが」

「あたしも詳しくは知らないけれど……鍋やっている家に勝手に押しかけて灰汁取りしたり……食材のアク抜きをしたり、他の質問は?」


「質問その二、亜区野組織の魔王が組織の統合話しを持ちかけてきた時に。どうして、うちの首領は首を縦に振らなかったんですか?」

「あぁ、アレね……メンテナンス不備で首が縦に動かなかったのよ、潤滑油を差したら動くようになったけれど」


「質問その三、その首を縦に振らなかった首領は……今どこに?」

「なんでも遊園地の、回転木馬メリーゴーランドの屋根の中央で回っているみたいよ」

「首領も大変ですね」


 ダンゴ怪人とティラミス書記がそんな会話をしていると、私服姿のアメコミヒーローっぽい人たちがゾロゾロと店に入ってきて、コッペパンを注文した。

 にわかに忙しくなる店内から、ダンゴ怪人はティラミス書記の接客を邪魔しないように無言で店を出ると、青い空に浮かぶ白い雲を見上げて。

 平凡な日々に感謝した。

「平和だなぁ」 


 その頃、裏地球を望む宇宙空間の小惑星に座っていた宇宙邪神『ワスレナ・ミソラ』が立ち上がって呟いた。

「さてと、相棒パートナーの『色即のリグレット』を覚醒させるのに必要な宝珠は四つ……そらの宝珠、地の宝珠、海の宝珠、天の宝珠……どの宝珠から奪うとするかな、覚悟しろ魔王真緒」



 いつもは平々凡々なマオマオくんの世界に、大変なコトが起ころうとしていました。


第五章・美味しそうなカニ宇宙人の姉妹と知的な青い雨怪獣と秘密すぎる食物組織~おわり~

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