どうしようもない話たち

卵粥

第1話 信仰の話

 かつて団子とは神聖なものであり、崇め奉られる存在であった。

 人々は恐れ敬い、団子を口にすることを禁じていたはずであった。しかしいつしか団子の神聖視は廃れ、気が付けば人々は団子を当たり前のように食べていた。

 そう、大福の登場により団子の神性は薄れてしまったのだ。いまや団子を崇拝する人間はおらず、各地で製作されていた団子のモニュメントは全て大福へと置き換わっていた。中には団子を神聖視する人間を狩る過激大福派の存在まで現れ始めた。

 ここ十年ほどで団子はただの食べ物へとなり下がり、団子崇拝者達の存在は歴史の影へと追いやられていた。そしてそのあおりを受けた人間がここにも一人――。

「畜生、腹減ってきたなぁ……」

 静まり返った地下牢にて自身の声が反響する。その声は自分が思っていた以上に弱りきったものになっていた。

 大福の登場によりここ十年で団子への信仰心は地の底まで落ちていた。その為未だ団子を崇拝する人間は異端者であるとされ異教徒狩りの格好の的なのである。

 隠れ団子崇拝者であった男は当然その事を知っていた。そのため旅の途中訪れたこの町でも出された団子は食べるふりをして上手く服の中に隠していたし、踏み絵ならぬ踏み団子は「そもそも食べ物粗末にするの良くないと思いますよ」という正論にて乗り切っていた。ちなみにその時「た、確かに……」だの「盲点だった……」などという声が聞こえてきた。ひょっとしたらこの国はバカばっかりなのかもしれない。

 持ち物だって、細心の注意を払い団子崇拝者であることを示すものはなるべく少なくしておいた。

 だが油断していた男はまんまと罠にはめられ、あえなく御用となった。

「まさかルームサービスで出てきた大福を食べたら捕まるとはな。踏んだら駄目な踏み絵を作って来るとは大したものだぜ……」

 至極当たり前の事で罠でも何でもなかった、男も馬鹿であった。

 だが自身の馬鹿さ加減を気付こうがどうしようが現状が好転するわけでは無い。気長に待つとしよう。

「おいお前、出ろ」

 カップ麺を作ることすら許されない速度で事態が好転した。流石に早すぎるだろう。

「おいおい何事だ、俺がやったことは簡単に洗い流されるような罪でもないし、すぐに許されるほど徳を積んできてもいないぞ?」

 すると牢の扉を開けた男はさも当然のことを当然のように言い放った。

「先ほどのお前の発言がこの町中に知れ渡ってだな、腐ったりしたら勿体ないから食べ物を信仰の対象にすることは禁止にする、とこの町では決まったんだ」

 むしろなぜ今まで気づかなかったのか、団子を信仰してた時に気付いとけよ。

 ちなみにこれを違反すると死刑らしい、怖い。

「なるほど、それで俺の罪が無くなったて訳か、ありがたい話だな」

 すると目の前の男は「何を言っているんだコイツは」という目をした後に爆弾発言。

「いやお前はこれから死刑だが」

「何でだよ、もう大福の崇拝は禁止なんじゃないのかよ!?」

「だって持ち物検査したけどさあ……、お前団子崇拝してんじゃん」

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