片思い恋愛日常モノの珍しい終わり方

大西 詩乃

意味

「今日はたくさん雪降ったねぇ」


新島は数センチ積もった雪を踏みながら楽しそうに走る。いつも見る窓際で本を読む姿とは大違い。

教室にいるヤツらがこんな彼女を見たら驚いて尻餅をつくだろう。


「そうだな、俺は寒くて嫌だけど」


適当に言葉を返すと口元から白い煙が立ち上がる。


「この辺りってあんまり雪積もらないよね」


新島がこちらへ振り返って、その場に止まる。


「まあ、確かに」


俺が追いつくとまた肩を並べて歩く。


「この前貸してもらった本、面白かったよ」


「よかったな」


「それでね、私思ったんだけど」


新島は真剣な顔をしてこちらに訊いてきた。


「本当にバカは風邪引かないのかな」


「は?」


言いすぎかも知れないが産まれて初めて耳を疑った。


「だって私初めて聞いたんだもの」


また耳を疑った。もしかしてコイツの家だけ文明が違うとかなのか?


「それで本当なの?」


「えっと……」


新島は澄んだ瞳で俺を見つめてくる。


「本当なの?」


…まあ教えてやるか。本当にコイツは学年上位なのだろうか。


「あれだろ、バカだと風邪引いた事も気づかないってやつだろ」


「そう言うことか!」


あの台詞は重要な伏線だしな、知っといた方が良いだろ。


「次の巻いるか?」


「あっ」


突然、新島に手を掴まれる。


「見てあそこすごく積もってる!」


新島は雪が積もった空き地を指している。どうやら誰もいないみたいだ。


「ほら行こうよ」


そう言って新島は俺の手を引っ張って空き地に連れて行く。


「おっおい、待てって」


二人して、柔らかい雪に倒れ込む。服の中に雪が入って来てかなり冷たい。


「なんだよ、いきなり」


手は握られたままだ。そして顔を見合わせているこの状況に、緊張する自分がいる。


「ど、どうした?こんな寄り道したことないだろ」


さっきまでとは打って変わって黙り込んでしまった。今日の新島は何かがおかしい。


「あ、ほらキョーダイ達と雪で遊ばないのか?みんな低学年だし、遊び盛りじゃねーの?」


しかしまだ新島は俯いたまま、しゃべろうとしない。それに手も繋いだままだ。


「……なぁ、どうしたんだよ」


「ごめん」


今、新島は何に対して謝罪したんだ?


「今日は時間かけて帰ろう」


そう言って新島は笑った。でもそれは心配になるほど力の無い笑顔だった。


「あっまた雪降ってきた」


新島は立ち上がる。


「お、おい」


新島がこのままどこかへ行ってしまいそうだった。今度は俺が手を掴もうとした。だが、勇気が出なかった。手は空を切っただけだ。

二人で俯いたまま少し時間が経った。


「なぁ、お前さ」


話しかけるために顔を上げた。


「ごっごめん」


新島の目からは涙が溢れ出ていて、必死に拭っていた。


「……泣いてんのか?」


確実に泣いているのにそんなことを訊いてしまった。でも彼女は泣き止んだ。俺に対しての言い訳を考えている。


「きっきれいで感動しただけ」


これは本当の理由じゃない。でも確かに雪が降っているのに晴れていて雪が光を反射して輝いて見える。


「…言えよ、俺にも言えないことか?」


「うん、ごめん、私もう帰らないと」


新島は鞄を持ち上げて帰ろうとしている。さっきと言ってる事が違うし。


「本当に言えないのか?」


うすうす気付いていた。

きっともう会えない。


「心配してくれてありがとう」


新島は最後に笑った。そしてこう言った。


「またね」



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