アドバイス


 結衣花から告白をされた翌日の日曜日。


 次世代AI展の控室で、俺は正岡さんに貰った小型サイズのルービックキューブをいじりって考え事をしていた。


「さて……、どうしたらいいものか……」


 結衣花の告白を受け入れることは決めたが、やはり社会人と女子高生の関係には問題がある。


 いちおう結衣花の母親であるゆかりさんは俺達のことを後押ししてくれているが、だからと言って誰からも許されるというわけではない。


 その時だった。


「お悩みみたいだね、お兄ちゃん」

「……紫亜しあ。来てたのか」

「うん。だって四季岡ファミリアのブースだもん。そりゃあ来るよ」


 白いベレー帽を被った小学五年生くらいの女の子。四季岡紫亜。

 見た目はただの小学生だが、これで天才児なんだからなぁ……。世の中わかんねぇぜ。


「ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」

「私も四季岡ファミリアの一員だよ? ブースの状況を説明しに来たということでセーフ」

「屁理屈がうまいところは結衣花にそっくりだな」

「ほめてほめて」


 紫亜は楽しそうに俺の隣の席に座った。

 そして机の上に置いてあったルービックキューブを手に取り、遊び始める。


「それで、エロい顔をして何を悩んでたの?」

「エロくねーよ。プライベートなことだ」

「結衣花お姉ちゃんと付き合うことになったとか?」

「ぶはっ!? な……、なんでわかったんだ? いや、つーか、正確には付き合う予約みたいな感じだが……」

「だって私、四季岡だもん」

「あー、そういえばそうだった……。紫亜は天才少女だったな……」

「まぁね」


 紫亜は情報の繋がりを一瞬で見抜いて、関係性を見抜く特技を持っている。


 古臭い言い方でいうなら、『刑事の勘』とかもそれに分類されるらしく、人間なら誰でも持っている能力らしい。


 四季岡ファミリアが疑似直感AIを完成させることができたのも紫亜の存在があったからこそって、秋作さんが言ってたっけ。


「まぁ……。紫亜は全部お見通しみたいだから言ってしまうが、結衣花から告白されて、俺から付き合うような感じのことを言ってしまった」

「言い方がまどろっこしいのは、恥ずかしいから?」

「そーだよ。わかってんなら確認しないでくれ。泣くぞ」


 なんで二十七歳になって小学生にいじめられてんの?

 ひどくない?


「まぁ……。いちおう母親公認とはいえ、大人と女子高生が付き合うのは……問題ありだからな」

「そうかな? 真剣な恋ならいいと思うけど」

「大人にはいろいろあるんだよ」

「ふぅん」

「それに俺には、紫亜や結衣花みたいな才能がない。もしかして結衣花の足を引っ張るかもしれないと考えると……正直怖いんだ」


 相手が小学生だとわかっているが、俺は今抱えている悩みを口にしてしまう。

 結衣花のことを想うと、自分でいいのだろうかという不安をどうしても考えてしまうのだ。


 すると紫亜は、急に静かな口調になった。


「あのね。疑似直感AIの仕組みって聞いた?」

「……ブロックチェーン・ルービックキューブ構造だろ? 詳しくは知らないが……」

「人の脳ってバラバラの情報から答えを見つけ出そうとすると、隙間を埋めるために情報を補完する性質があるの」

「……そういえば、とぎれとぎれの音楽を聴いても、ちゃんと聞こえるって話を聞いたことがあるな」

「うん。それをAIで実現しようとして、ブロックチェーン・ルービックキューブ構造ができたんだって」


 紫亜は小型サイズのルービックキューブをカチャカチャを動かした。


「バラバラのブロックだけど、目的に向かって動き続けると……ほら! 正解に繋がるでしょ。今はわからなくて苦しいかもだけど、いつかいろんな要素が一つにまとまる瞬間がくるって話ね」


 綺麗に表面の色が揃ったルービックキューブを受け取り、紫亜の言った言葉の意味を噛みしめた。


 ……目的に向かって動き続ける。

 ……いろんな要素が一つにまとまる瞬間。


 俺と結衣花の関係は、まだスタート地点なんだ。

 これからいろいろあるだろうが、進み続ければ、いつか答えに辿り着ける。


 紫亜が言いたいのはそう言う事なのだろう。


「……まさか小学生に人生の教訓を教えられるとは思わなかったよ」

「えーっ! 今の話を聞いて、感想がそれ? はぁ……本当にお兄ちゃんはお兄ちゃんだよね」

「そのバカにする時の口調も、結衣花そっくりだな」

「とにかく、自信を持ってってこと」


 ここで、すぐ横で別の女性が声を上げた。


「そうですよ! 笹宮さん!」

「音水!? いつからいたんだ……」

「才能がないって弱音を吐いているところからですね」


 紫亜の話に気を取られて、音水がすぐ傍にいることに気付かなかった。


 音水は前のめりで俺に詰め寄る。


「笹宮さんは私だけじゃなく、バラバラだった人達に繋がりを与えてきたじゃないですか! 楓坂さんも、旺飼さんも、ゆかりさんも、秋作さんも。……そして結衣花ちゃんも。みんな、笹宮さんに感謝しているんですよ!」


 さらに詰め寄った音水は、握りこぶしを作り、大きな瞳をより一層輝かせた。


「才能だけが人の価値じゃありません! だから胸を張ってください! そうでないと私の好きな笹宮さんじゃありません!」


 後輩にここまで言われてしまったら、落ち込んでなんていられないな。


 よし!


「音水……。ありがとう。気合入ったよ」

「はい!」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、通勤電車で何かが起きる!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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