【結衣花視点】音水と結衣花


 自分のことを『恋の軍師』と言う音水さんに相談をする流れになっていた。


 でも、音水さんにお兄さんのことを話すわけにはいかない。

 だって音水さんだってお兄さんのことが好きなはずだ。


 私はスマホを通して、断ろうとした。


「あの……、音水さん。やっぱり私……」


 だけど、音水さんからの返事は私を驚かせる。


『悩んでいるのは笹宮さんのこと……じゃないかな?』

「えっと……、どうして……」

『そりゃあ、わかっちゃうよ。だって笹宮さんんと結衣花ちゃん、一緒にいる時の空気が他と違うんだもん』

「そうかな……」

『そうだよ』


 空気が違う? 私とお兄さんが?


 確かに腕を掴んだりはするけど、今まで一緒にいるだけだったし、特別な関係になるようなことは何もなかったのに……。


「でも音水さんも……お兄さんのことが好きなんじゃ……」

『うん。すっごく好き。でも……、結衣花ちゃんならいいかなって思ってる』


 その言葉を聞いて、私は驚いてどう声を出していいのかわからなくなった。


 他の人に……、ましてやお兄さんの事が好きなはずの音水さんにそう思われていたなんて予想もしていなかったからだ。


『結衣花ちゃん。この前、会社に来たでしょ? その時二人が揃って歩いてる姿を見て思ったんだよね。あ~、この二人のこと、応援したいなぁ~って』

「私達、そんな関係じゃないですよ?」

『それはわかってるけど、恋人とかとは違う……優しくて綺麗な関係……みたいな? といっても、最初見た時は負けたーって感じになってショックだったけどね。あはは!』


 私はお兄さんのことが好きだという自覚はある。

 けど、それは恋とは違うということにも気づいている。


 だからお兄さんに恋愛をしている音水さんや楓坂さんには敵わないと思っていた。


 でも音水さんは逆に受け止めていたみたいだ。


 電話の向こうで音水さんは明るく話を進めた。


『それに私さ……、夏になったら大手広告代理店に転職するの。と言っても社長達の間で話合ってのことだから、正確には社員の交換みたいなものだけど』

「じゃあ、雪代さんの下で働くんですか?」

『うん。表向きは企画を考えられる女性社員が欲しいっていうことだけど、本当の狙いは雪代さんのお目付け役っぽいかな』

「あー。雪代さんって暴走癖ありますもんね」

『それ! 本当かどうか知らないけど、大手広告代理店の上の人が泣きながら頭を下げてお願いしたみたい……。……はは』


 音水さんは苦笑いをした後、『でも……』と言葉を切り、声にハリを持たせた。


『私にとって雪代さんは目指している存在なの。同じ土俵じゃないといつまで経っても追いつけないし、今は恋より仕事かな』


 電話だから顔は見えない。

 だけど、今とってもカッコイイ顔をしているという事が伝わってきた。


 きっともし目の前にいたら、私は音水さんに憧れるようになっていただろう。


『それで話を最初に戻すけど、笹宮さんのことで悩んでるんでしょ?』

「うん……。でも……」

『いいから、いいから。悩みごとって誰かに話すだけでも全然違うんだよ』


 そういえば、香穂理お姉ちゃんも悩み事があったら音水さんに相談するって言ってたっけ。


 甘やかし上手とは聞いていたけど、こういう母性ってうらやましい。


「私……、たぶんだけど、これからもお兄さんと一緒にいたいんです。でも……女子高生の私がいたら邪魔なんじゃないかと思うと、どう接していいのかわからなくなって……」


 すると音水さんは『んー』と唸った。


『そこ、考えなくてもいいんじゃない?』

「え?」

『変なことをしているわけじゃないんだし、一緒にいるのってそんなにおかしい事じゃないと思うよ』

「でも……お兄さんに好きな人ができたら邪魔になるんじゃ……」

『あはは。それはないよ。だって笹宮さんでしょ? 少し困ったことがあっても、なんとかするって』

「なんとかって……」

『笹宮さんは理屈とか抜きで、問題を無理やりにでも解決してしまう人だもん。だから、なんとかなるよ』


 音水さんはクスッと笑い、話を続ける。


『結衣花ちゃんも、笹宮さんのことを信じてるんでしょ?』

「……はい」

『だったら、甘えちゃっていいんじゃない?』


 こうして音水さんとの電話が終わった。


 スマホをポケットに入れた私は、コンビニの駐車場前でぼんやりと立ち尽くした。


 だけど、さっきまであったモヤモヤがなくなっている。


 その時だった。


「おーい、結衣花」

「お兄さん……」

「やっぱりコンビニか。予想通りだな」

「どうしたの?」

「俺もここに用事だ。旅行中のコンビニって背徳感があっていいよな」


 いつも通りのお兄さん。

 私はなにを悩んでいたんだろう。


 そう思うと、無性にお兄さんに触れたくなり、私は彼の腕に掴まった。


「……急にどうした?」

「つ……掴まってみたくなって。ダメ……かな?」

「はぁ? 今さら何言ってんだよ。いくらでも好きに使ってくれ。じゃないと寂しいだろ」

「……うん」


 ……無自覚でそんなことを言うんだから、本当にズルい。


 だけど、お兄さん。ありがとう……。

 とっても嬉しい。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、旅行から帰った笹宮達に何が!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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