【結衣花視点】戸惑いと変化の始まり
鹿児島の静かな街をのんびり歩きながら、私は自分の行動をずっと後悔していた。
「はぁ……。なんであんなの見ちゃったんだろう……」
昨日のことだ。
楓坂さんが温水プールに行くと言うので、私も水着を借りることにした。
最初誘われた時は恥ずかしくて断ったけれど、楓坂さんがいるなら大丈夫だろうと思ったからだ。
それに最近、楓坂さんは動画制作がうまく行ってないらしく、少し落ち込んでいるように見えていた。
一緒に遊べば、少しでも元気づけることができるかもしれない。
だけど、遅れて温水プールに到着してみると、そこにはお兄さんがいた。
二人は並んで岩の上に座り、今すぐにでも抱き合いそうな雰囲気だったのだ。
一瞬、何が起きているのかわからなかったけれど、私は慌ててその場を後にした。
「これからどうしようかな……」
いつまでもこうして散歩をしているわけにはいかない。
三十分もしたら戻らないとダメだろう。
二人が恋人寸前だということは気づいていたけど、あんな場面を見ちゃうとなぁ……。
こういう気持ち、なんて言うんだろう。
疎外感……なのかな……?
ピロリン♪ ピロリン♪
「あれ? 電話の着信音?」
正午前の時間に電話なんてめずらしい。
誰だろうとスマホを取り出してみると、画面にははっきりと『香穂理お姉ちゃん』の文字が表示されている。
少し前に初めて知ったのだけど、香穂理お姉ちゃんはお兄さんと同じ会社で働いているらしい。
初めてそのことを聞いた時は、本当に驚いたものだ。
『おはよう、結衣花。旅行は楽しんでる?』
「おはよう……。どうしたの? こんな時間に」
『あんた。昨日の夜、電話しなかったでしょ。お母さん心配してたよ』
あ、しまった。
気が動転して、お母さん達に連絡するのを忘れてた。
「ごめん。昨日はすぐに寝ちゃったから……」
『ウソつくのはやめなさい。何かあったんでしょ』
普段はものすごく鈍感なのに、こういう時だけ鋭いんだから……。
「……まぁ。あったって言えば、あったけど……」
『私だと話しづらい事?』
「そういうわけじゃないけど、たいしたことじゃないから……」
『なにかトラブルに巻き込まれたわけじゃないのね?』
「うん。……その……、プライベートなことで……」
『そう……。プライベートな悩みってことなのね。……相談に乗ってあげたいけど、私は話を聞くのって苦手だし……。そうだ! ちょっと待ってて。電話変わるから』
え!? 電話を変わる? 誰に?
バタバタという音と、香穂理お姉ちゃんが誰かと話している声が聞こえる。
内容は聞こえないけど、女性の声だ。
香穂理お姉ちゃんはゴールデンウィークで蒼井家に帰っているはずだから、変わるとすればお母さんかな。
とは言っても、お兄さんと楓坂さんのことを話すわけにもいかないし、適当な話をして安心してもらおう。
『えっと……、結衣花ちゃん?』
しばらくして電話に出たのは、やっぱり女性だった。
だけどお母さんじゃない。誰の声だろう。
聞いたことがある声だ。
もしかしてこの人……、
「……音水さんですか?」
『はい、音水です』
えーっ! こっちでお兄さんと楓坂さんがいい感じになってる時に、まさか音水さんが登場しちゃうわけ!?
私が腰を抜かすほど驚いていることを知らず、音水さんは普段通りに話を続けていた。
『今、香穂理の家で一緒にいたんだけど、急に電話に変わってくれって言われて……。香穂理って説明不足でぐいぐい進めていくから困るよね』
「あ……、はい。あの~、お姉ちゃんは?」
『あとは任せるとか言って、近くのコンビニに行っちゃった』
「マイペース過ぎる……」
『私は慣れちゃったけどね。……あはは』
電話の向こうで音水さんが苦笑いをしてるのが、ひしひしと伝わってくる。
ごめんなさい、音水さん。
その人、私の姉です。
『少し聞こえたんだけど、なにか悩んでるの?』
「……悩んでいるというか、……その……ちょっとどうしていいかわからないというか」
相手が音水さんでも同じだ。
ううん。むしろ音水さんに話すことなんてできない。
だって音水さんはお兄さんのことを好きなはずなんだから……。
だけど電話の向こうにいる音水さんは、明るい声で意外な提案をしてきた。
『んー。よかったら、私に相談してみない?』
「え? 音水さんに……ですか?」
『そっ! 私こう見えて、恋の名軍師って呼ばれてるのよ。んっふふ~』
えー! 恋の名軍師!? 音水さんが!?
そうだったの!?
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、音水の名軍師っぷりが炸裂!?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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