お弁当バトル勃発!?
次世代AI展のイベントに向けて、俺は着々を仕事を進めていた。
そして今俺はミーティングルームで楓坂と二人っきりで打ち合わせをしている。
説明を聞いた彼女は資料をペラペラとめくる。
「つまり、私はイベント用の動画制作をすればいいんですか?」
「ああ、頼む。楓坂の力を借りたいんだ」
クライアントの秋作さんからの要望で今回はイベント用の動画を用意することになった。
今でこそ動画制作を頼める幅は広がったが、一昔前は業者を探すだけでも大変だったらしい。
「でも、楓坂も忙しいよな? 大丈夫か?」
「むしろこちらからお願いしたくらいよ。私、これからは本格的に動画制作のプロを目指すことにしたの。むしろ好都合よ」
「そうか」
「以前は絵が描けなくなったことがコンプレックスだったけど、今はむしろ今まで以上に晴々としているわ」
これから動画の需要はさらに高くなるだろうし、なにより楓坂にはVtuberとしての顔もある。
彼女にとって最善の選択だろう。
すると楓坂は優しい眼差しで俺を見つめた。
「あなたと結衣花さんのおかげね。ありがとう」
「急にそんなふうに言われると……照れる」
「うふふ。あなたのそういうしぐさ。好きよ」
そういうふうに言うところが、よけい照れるんだよ。
もう少し、男心で遊ぶのは控えて欲しいものだ。
ふと気が付くと、壁時計がお昼の十二時になっていた。
「おっと、そろそろ昼飯の時間だな」
「それなら、近くの公園に行きましょう。いいものを持ってきたんです」
「いいもの?」
◆
会社から少し歩いたところにある公園に来た俺達は、ベンチに座って膝の上に弁当を広げた。
「じゃーん」
楓坂の声とともに登場したのは、保温性のランチボックスだった。
中には唐揚げやプチトマトなど、美味そうな食材が詰まっている。
男の俺からみれば小ぶりのサイズだが、見事な見栄えである。
「これ、楓坂が作ったのか?」
「はい。今までお弁当を作る機会がなかったので挑戦してみたの」
「へぇ、なかなかうまくできているじゃないか」
すると楓坂は俺が持っているプラスチックの弁当箱を見た。
「そういう笹宮さんもお弁当なのね」
「ああ、結衣花が作ってきてくれたんだ。サンドイッチだってさ」
「……え? 結衣花さんが?」
ピクンと反応した楓坂はじぃ~と俺を見つめてくる。
「安心しろ。結衣花を独り占めするつもりはない。そんなに物欲しそうに見なくても少し分けてやるよ」
「それもありますけど……、私のも食べて欲しかったから……」
「もしかして、そのお弁当は俺のために作ってくれたのか?」
すぐには認めようとしなかったが、楓坂は顔を真っ赤にして、しぶしぶ『こくん』と頷く。
ホント、しおらしくなっちゃって。
「まぁ……、アレだ。俺、結構食う方だからどっちも食うけど?」
「無理してない?」
「働き盛りの男の食欲をなめるなよ」
「見栄の張り方が子供っぽいわね。でも、そういうふうに言ってくれると……嬉しい」
こうして俺は二つの弁当を食べることになった。
無理をしていないかと言われれば、少し多いと思っている。
とはいえ、結衣花と楓坂。
二人が俺のために作ってくれた弁当だ。
食べないなんて選択肢はないだろう。
まずは結衣花が作った厚焼き玉子サンド。
「ほぉ、本当に美味いな。ありそうでなかった味だ」
「薄く塗った醤油と食パンの生地が合いますね」
「ああ」
そして次は楓坂のお弁当。
俺は唐揚げを箸でつまんで、口に放り込んだ。
「おっ! うまい! 柔らかいのにジューシーだ!」
「うふふ、ありがとうございます」
俺もそこまで料理に詳しいわけじゃないが、弁当に入れる唐揚げって工夫が必要らしい。
こうして食事を進めた俺は見事にすべてをたらい上げた。
予想以上に腹は膨れたが、この満足感はコンビニ弁当では得られないだろう。
最後にお茶を飲み干した俺は、思いっきり体を伸ばした。
「はぁ~。食った、食った」
「それで、どっちが美味しかったですか?」
「……え? いや……。どっちって言われても、どっちも美味かったから……」
「それはもちろん。だって私と結衣花さんのお弁当ですよ」
楓坂もお茶を飲み、ペットボトルの栓をする。
そして静かに俺を見つめてきた。
「私は、笹宮さんの気持ちが知りたいの」
静かだ。
とても静かなのに、その言葉はとても重要な意味を持っているような気がする。
俺が困っていることに気づいたのか、楓坂はわざとらしい女神スマイルを作って『パンッ』と手を叩いた。
「冗談ですよ。さ、お仕事に戻りましょう」
「あ、ああ……」
俺の気持ちか……。
そんなこと言われると、ドキッとしてしまうだろ。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、お弁当の感想。出るか、笹宮さんのナイスリアクション!
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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