音水ちゃんは送られ狼?


 深夜二時半を過ぎた頃。

 会社の戸締りをした俺は音水を自宅のマンションに送ることになった。


「送ってくれてありがとうございました」

「まぁ、このくらいはな」


 こんな時間に女性を一人にするのはさすがに心配だし、送るだけなのだからさほど負担にはならない。

 礼を言われるほどのことじゃないさ。


 音水が住んでいるのはオートロックマンションで、エントランスでICカードをかざす必要がある。


「あ、ロックを解除しますね。笹宮さん、カバンを持っていてください」

「ああ」


 音水がカードケースを端末にかざすと自動ドアが開く。


 あぁ。いいなぁ、こういうマンション。

 俺も次引っ越す時はこういうマンションにしたい。


「ありがとうございました」


 そういうと、音水はそのままマンションのエレベーターに入っていく。

 だが……、


「お、おい……。カバン忘れてるぞ」


 俺の呼び止める声も聞かず、音水はそのままエレベーターに入ってしまった。

 もしかして眠気で俺の声が届いていないのか?


 仕方がないので俺もエレベーターに入る。


「なぁ、音水。カバン……」

「あっ! 気づいてくれたんですか! そのカバン、新しく買ったんですよ。つい衝動買いしちゃいまして」

「そ、そうか……」


 いや、そうじゃねーよ。

 カバンを持ったままだと、俺が帰れないじゃないか。


 エレベーターを降りた後、そのまま音水の部屋の前まで来てしまう。


「なあ、音水。えっと、カバンをだな……」

「はい、今玄関のドアを開けますね」


 再びカバンから鍵を取り出して音水は玄関のカギを開けた。


 ああ、なるほど。

 ここでもう一度カバンから鍵を取り出す必ようがあるから、俺に持たせていたんだな。


「ドアが開きました」

「じゃあ、これ。カバンを……って、おい」


 てっきりこれで終わりと思ったが、音水は俺にカバンを預けたまま部屋に入ってしまう。


 まいったな。ここで部屋に入らないと、音水と話ができなくなる。


 慌てて俺も部屋に入り、玄関先で音水に訊ねた。


「なぁ。カバン持ったままだけど、どうするんだ?」

「そうでした。ありがとうございます。それより……」


 ずずぃ~っと近づいた音水はなぜか眉間にしわを寄せた。

 だがどことなく演技クサい。

 何か企んでいるのか?

 いや、まさかな。音水に限ってそんなことはないだろう。


「……なんだ?」

「笹宮さん! 臭いです! すごく臭いです!」

「あぁ、まだ風呂に入ってないからな」


 もうすぐ深夜三時だ。

 いちおう歯は磨いているが、どうしても風呂に入らないと汗の臭いが気になる。


「シャワーお貸ししますので入ってください。このままだと明日っていうか今日の打ち合わせでクライアントに嫌われます」

「しかし……」

「仕事ですよっ! わがままはダメですっ!」

「わ……、わかったよ」


 仕事って言われると弱いんだよな。

 本当はこの後、近くのネットカフェでシャワーを浴びて朝まで待つつもりだったんだが、いいタイミングだ。

 お言葉に甘えるとしよう。


 こうして俺は音水の部屋でシャワーを浴びることにした。


 シャワー中、音水の声が……、


「ぃよぉぉっしぃ! 釣れたぁっ! 軍師、遙ちゃん健在ぃ!」


 なんか聞こえたんだが?

 もしかしてゲームでもやってるのか?


 シャワーを浴び終えた俺は自分のカバンから替えのシャツと下着を取り出した。


 最初から泊まり込みの予定だったので用意していたのだが、まさか音水の部屋で着替えることになるとは。


「音水。シャワーありがとう。じゃあ、俺は近くのネットカフェに行って朝まで待つことにするよ」

「待ってください」

「なんだ?」

「私もシャワーを浴びるので、その間だけまっててください」

「え……、いや、でも……」

「お願いします」


 音水は潤んだ瞳で懇願してくる。

 もともと可愛いというのもあるが、音水に上目遣いで頼まれると断りにくいんだよな。


「わかった。音水がシャワーを終えるまで待ってるよ」

「やった! ありがとうございます」


 まぁ、シャワーを終えるまで待つだけだ。

 大丈夫だろう。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、シャワー後の二人。同じ部屋で何が起きるの?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る