楓坂とテレビ電話
夕食を終えて結衣花が帰った後、俺は自室でのんびりとしていた。
いつもならこのまま寝てしまうところだが、今日は約束がある。
ノートパソコンを開いて、テレビ電話アプリを立ち上げる。
しばらくすると、アメリカにいるメガネ美女の大学生、楓坂の顔が画面に表示された。
「こんにちは、笹宮さん」
「こっちは夜だぜ」
「そうでしたね。もちろんわざとですけど」
「隙あればからかおうとしやがって……」
大学の春休みを利用して海外に行っている楓坂だが、こうして定期的に連絡を取り合っている。
通信の影響でどうしても会話の途中で遅延が発生したりするが、会話をすることに問題はない。
以前は頻繁に会っていたこともあり、画面越しでもこうして話をすると安心する。
「そっちはどうなんだ?」
「最初は時差でつらかったけど、ようやく慣れてきたところかしら」
「時差もだけど、両親と過ごすのは久しぶりなんだろ?」
「良好よ。親と一緒に生活するのがこんなに楽なんて思ってもいなかったわ」
「それはよかった」
楓坂家はいろいろとトラブルが多かったが、今は落ち着いているようだ。
楓坂の祖父・幻十郎さんも最近仕事を引退して、今は隠居生活を送っているらしい。
「お母さまが笹宮さんに会いたいって言っていたわ」
「それは光栄だ。そういえば旺飼さんのお兄さんが楓坂の父親なんだよな? やっぱり旺飼さんに似てるのか?」
すると楓坂は苦笑いをしながら、言いづらそうに話を続けた。
「お父様? あー、そうですね。ん~」
「なんだ、そのもったいぶった言い方は……」
「実は私も後から聞いたんですけど、お父様はもう笹宮さんに会っているそうですよ」
「はぁ!?」
さすがに驚いた俺はマヌケな声を上げてしまった。
楓坂の父親にもう会っている? どういうことだ? 今までそんな人と会った記憶はないぞ。
「ええ!? いつ!?」
「そこまでは聞いていませんけど、悪くないって言ってましたね」
感想の言い方からすると、すれ違ったとかではないようだ。
イベントの仕事をしていると、いろんな人と会うからな。
場合によっては自己紹介をしないままの人もいる。
きっとどこかの現場で仕事をしている様子を見られていたのだろう。
「……マジか。変なところを見られていなければいいんだけどな」
「笹宮さんが変態なのは仕様ですからね」
「かってに変態設定を標準搭載するな」
「褒めているんですよ?」
「楓坂は変態が好きだからな」
「そうですね。笹宮さんのことは好きですね」
「……」
今の『好き』の一言は冗談っぽく言った本音というのがわかっているので反応に困る。……っていうか恥ずかしい。
恥ずかしがり屋のくせに、冗談を交えると大胆なことを平気でいうのが楓坂だ。
きっと内心では好きと言ったことが恥ずかしがっているんだろうな。
楓坂はチャームポイントのメガネをクイッと上げた。
「それと私がいない間に、女性と仲良くしていたとも聞いてますね。いったい誰のことかしら」
「特別誰かと付き合うようなことはしてないぞ」
「どうかしら。なんだかんだ言って笹宮さんは音水さんのことを気にしているみたいですし」
「そりゃあ、俺が育てた後輩だから気にするだろ。下心はないんだから見逃してくれ」
「電話切ろうかしら」
「おい、いじけるなよ」
「ふん」
以前はそんなことなかったのだが、音水に対して楓坂はヤキモチを焼くようになった。
でも元カノの雪代と話をしても全く気にしない。
こいつのヤキモチポイントがよくわからん。
「ところで結衣花さんのことですが、絵の調子はどうですか?」
「その言い方からすると、スランプのことは知ってるみたいだな」
「ええ。引っ越しの話をする時にゆかりさんから相談されました。その時はもしかしたらという程度でしたけど……」
「そうか。結衣花はあまり気にしていないようだし、少しずつ前進しているように見える」
「よかった。心配していたので……」
すると楓坂は普段は見せないリラックスした表情でほほ笑んだ。
「結衣花さんは笹宮さんのことを信頼していますから、心の支えになっているのかもしれませんね」
「そうかぁ? あいつ、俺にだけ冷たいところあるんだけど」
「当事者にはわからないんですよ。笹宮さんも結衣花さんのことを信頼してるでしょ?」
「まぁな。いろいろ世話にもなったし」
「はたから見ると二人はとても……」
「なんだ?」
「なんでもありません。私にとって二人とも大切ということですよ」
妙な会話の終わり方をしたが、楓坂が俺達のことを思ってくれているというのは伝わってきた。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、紫亜ちゃん再登場!?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます