2月14日(日曜日)バレンタイン当日


 あれから張星は警察に引き渡され、イベントは順調に進んだ。


 張星のやったことは強盗行為ではあったが、人目のない屋上でのやりとりだっため、全くと言っていいほど騒ぎにならなかった。


 そして次の日の日曜日。

 今日はバレンタイン当日になる。


 とはいえイベントとしては昨日がメインだったので、今日は仕事量が少ない。


 トラブルもなく進むはずだったが、指令室は険悪なムードが漂っていた。


「……ぶすっ!」


 ふくれっ面を作っているのは後輩の音水だ。

 今は俺の補佐をしているのだが、昨日からずっとこの調子で困っている。


「なぁ、音水。機嫌直してくれよ」

「私は笹宮さんの相棒なんですよ? なのに危険な所へ行く時に連れて行ってくれないなんて、許せません!」


 昨日旺飼さんを助けに行く時に指令室を任せたのだが、音水はそれを仲間外れにしたと感じているようだ。

 もちろんそんなつもりはないし、あの場で指令室を任せられるのは彼女しかいなかった。

 信頼しているからこそなんだが、なかなか伝わらない。


「だけど音水がここにいてくれたから、屋上に警備員を呼ぶことができたんじゃないか」

「それはそうですけど、これはこれです」


 普段は素直だけど、一度へそを曲げると頑固だからなぁ。


 さて、どうしたものか。

 もし結衣花がいてくれたら的確なアドバイスを貰えるのだが、今日はサイン会がないから来ないんだよな。困った……。


「そうだ、ポッキーを食べさせてやる。これでどうだ?」

「餌付けシチュなんかで誤魔化されません。私はそんな軽い女じゃありません」


 くぅ、今日の音水は一段と手ごわい。

 だが餌付けシチュは俺にできる数少ない手段だ。

 もう少し粘ってみよう。


「そう言わずに。ほれほれ」

「むぅ~……」


 俺がポッキーをフリフリすると、音水はそわそわとし始めた。

 もし彼女にケモミミが生えていたら、ピクピクと動いているだろ。


 よし、もう一押しだ。 


「ちゅ~る♪ ちゅ~る♪ ちゃるちゅ~る♪」

「むむむっ!」


 キャットフードの歌を歌うと、音水のソワソワはさらに激しくなる。必死に我慢しているが今にも飛びついてきそうだ。

 きっと彼女にケモしっぽが生えていたら、めっちゃフリフリしているだろう。


 そして我慢できなくなった音水は、ポッキーに食いついた。


「はむっ!」


 音水は嬉しそうに俺の手を両手でつかんでポッキーを食べる。

 餌付けシチュは何度かしているが、今まで一番かわいい食べ方だ。


「もぐもぐ……。こ……こんなことで、もぐもぐ……。機嫌が直ったとか……もぐ……思わないでくださいね。はむっ」

「ああ、わかってるよ。もう一本どうだ?」

「ください!」


 ふぅ……、大ピンチだったが乗り切れたようだ。

 イベントの仕事は人間関係が要だからな。


 音水がポッキーを食べ終えたちょうどその時、私服姿の結衣花が入ってきた。


「おはよ。お兄さん」

「よぉ、結衣花……って、今日はサイン会がないのにどうしたんだ?」

「せっかくだし、ちょっと寄ってみた。あれ? 楓坂さんは?」

「今は別フロアのチェックに行ってるよ。もうすぐ戻ってくると思うぞ」

「そうなんだ。じゃあ、待ってようかな」


 昨日は緊張していたが、自分の仕事が終わってリラックスしているようだ。


 その直後だった。


「結衣花さん!! おはようございます!!」


 続けてまた別の人物がドアを開いて入ってきた。

 

 今度は夏目君だ。

 きっと結衣花がこの部屋に入っていくのを見かけて、追いかけてきたのだろう。


 夏目君は結衣花に接近して一方的に手を握った。


「昨日、屋上に強盗が入ったそうですよ! でも大丈夫! 僕が君を守るから!」

「そうなんだ。とりあえず手を離して」

「今すぐ行動しろってことだね! わかったよ!」


 こいつ、ポジティブだな……。


「よぉし! 今日も頑張るぞ! もしかしたら強盗がまだ隠れているかもしれない。その時は僕が捕まえてやる!!」

「頑張ってね」

「はい!!」


 いつもフラットテンションの結衣花だが、さっきのセリフは虚無感に溢れていた……。こんなこともあるのか……。


「ふふん! 笹宮さん、悪いですね。どうやら僕の株がうなぎのぼりみたいですよ!」

「そうか……。よかったな。とりあえず看板持ちを頼む」

「わかりました!!」


 夏目君って、いいやつだよな……。

 ホント、つくづくそう思うよ。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、楓坂とイチャイチャ!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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