1月15日(金曜日)楓坂の学生時代
いつもの時間、いつも通りの通勤電車で俺はのんびりと車窓を眺めていた。
以前はこの時間を使って仕事の段取りを考えていたが、今は来週行く予定の茨城県旅行のことを考えていた。
楓坂が水戸出身だから全部任せればいいのだろうが、俺もリードできるところはそうしたい。
こういう時にデキる男感を出しておけば、ちょっとは俺の株も上がるだろう。
……と、そこへ聖女学院の制服を着た結衣花が話し掛けてくる。
「おはよ。お兄さん」
「よぉ、結衣花」
「楓坂さん、昨日は体調を崩したんでしょ? 大丈夫だったの?」
「あ……ああ、大丈夫だ」
「そっか。それならよかった」
体調を崩したと言えばそうだが、楓坂の場合はキスをした時にのぼせて倒れただけだからな。
楓坂にとっても黒歴史になっているだろうし、詳しく話すのはやめておこう。
「それにしても結衣花って楓坂と本当に仲いいよな」
「うん。まだ楓坂さんに会って間もない頃だけど、助けてもらったことがあるから」
以前から結衣花は楓坂のことを尊敬できる先輩と言っていた。
あんまり人の過去を探るようなことはしなくないが、聖女学院でどんなやり取りがあったのか気になる。
ちょっとだけ聞いてみよう。
「助けてもらったって、なにかあったのか?」
「まだCG部が美術部と一つだった頃、部室で盗難事件があったんだよね」
「物騒だな……」
「うん。それで私が犯人じゃないかって疑われた時に、楓坂さんが真犯人を見つけてくれたの」
「へぇ、やるじゃねぇか」
ほぉ。つまり探偵みたいな活躍をやってのけたというわけか。
そう言えば楓坂はブイチューバーとして活動していたが、ゲーム実況と並行して都市伝説の解明とかもやっていたんだよな。
案外、ミステリー考察とかが好きなのかもしれない。
「それにCG部を独立させたのは楓坂さんなんだよね。美術部の顧問の人が厳しい人だったんだけど、楽しく創作をしたいって言って」
「じゃあ、CG部の立ち上げが楓坂だったわけか」
「うん」
なるほどね。結衣花は以前から楓坂に憧れていると言っていたし、正義感が強いように言っていた。それがこういう理由だったわけか。
きっと美術部の顧問とやりあったんだろうな……。その時の状況が目に浮かぶ。
「ちなみにね。未来予知に匹敵する推理力から楓坂さんには二つ名がついていたんだよ」
「中二病全開だな。……で、どんな名前なんだ?」
「興味津々だね」
「そりゃあ、気になるだろ」
こほんと咳払いをした結衣花は少し間を取り、人差し指を立てた。
「先読みの破壊者……」
「世界征服でもするつもりか……」
「私が言ったんじゃないよ。誰かが勝手に言い始めたんだって」
「で、楓坂の反応は?」
「どうせなら、もっとエグイのを付けて欲しかったって」
「アイツらしい……」
しかし……とんでもねぇセンスだな。
先読みの破壊者って、完全に悪役の二つ名じゃないか。
俺なら絶対にお断りしたい。
すると結衣花が急に声のトーンを落として話し掛けてきた。
「ねぇ、お兄さん。あのね……」
「ん?」
俺の腕を掴む結衣花の手に力が入る。
「楓坂さんって、すごいところあるけど実は弱い人だから、優しくしてあげてね」
「お……おう。急にどうした?」
「ああ見てて、甘えるのが苦手で一人で抱え込むところがあるから。でもお兄さんなら大丈夫かもって」
……どうしたんだ?
いつもと様子が違う。セリフの内容から考えて本当に楓坂のことを心配しているみたいだが……。
「結衣花にも甘えてないか?」
「私には気を使ってるところあるでしょ。ちょっと背伸びをしてるっていうか」
「あ~、それはあるかもな。だけど後輩の前では背伸びしたいのは、先輩としての性だろ」
「そうかな。私はもっとオープンにして欲しいのに……」
あれ? もしかして結衣花は、楓坂を俺に取られていると思ってるのか?
俺の視点から見れば、楓坂はいつも結衣花を中心に考えているようにみえるけど。
結衣花は自分の気持ちを切り替えるように、目を大きく開いて俺を見た。
「あ、そうそう。私、来週の土日で合宿に行くんだ」
「CG部の?」
「うん。本当は秋に行く予定だったんだけど延期してて。お土産買ってくるね」
「ああ、楽しみにしているよ」
来週ということは俺と楓坂が茨城県に行く時か。
一月の下旬って旅行シーズンから外れるから、宿泊費が安い旅館があったりするんだよな。
じゃあ、俺も結衣花にお土産を買っておこう。
それにしてもどんなプランにしようかな……。
■――あとがき――■
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次回、茨城県へ出発! 笹宮達が最初に向かうのは?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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