1月11日(月曜日)恋のキューピット計画


 今日は祝日。

 他の業種なら休みの人が多いだろう。

 だが俺は今日もガンガンに仕事だ。


 朝の十時からゲームショップでクマの着ぐるみを着てキャンペーンを行っていた。

 本当はスタッフを雇っていたのだが欠員が出たため、香穂理さんがヘルプで入ってくれている。


 そして時間は過ぎて午後の三時。

 キャンペーンは終了し、俺は後片付けをしていた。


 その時、時間を見計らってやってきた結衣花が話し掛けてくる。


「……お兄さん。本当にやるの?」

「ああ、もちろんさ。俺の計画に間違いはない」

「うーん。心配だなぁ……」


 俺が考えた計画……。それはここに紺野さんを呼び出して、必然的に香穂理さんと二人っきりにするというものだった。

 その後香穂理さんにLINEで指示を出して、告白できるように誘導するという完璧すぎる作戦だ。


 片づけを終えた俺は店舗の外に出た。


「香穂理さんが戻ってきた。結衣花、隠れろ」

「うん」


 結衣花はすぐ近くにある大きなオブジェに隠れる。

 それとほぼ同時に、ゲームショップから香穂理さんが出てきた。


「笹宮さん、お待たせしました」

「ああ。じゃあ、帰ろうか」


 さて、そろそろ結衣花に呼び出された紺野さんが来るはずだが……。


 するとちょうどすぐ近くにワンボックスカーが止まる。

 あれは紺野さんの車だ。

 よし、作戦通り俺も姿を隠そう。


 俺は大げさに手を叩いて、何かを思い出したようなリアクションをする。


「おっと……、忘れ物をしたようだ」

「どうしてそんなにわざとらしいんですか?」

「気のせいさ。少しここで待っていてくれ」

「はい」


 香穂理さんを残してゲームショップに入った俺は、すぐに別の出口から出て結衣花の隣に行く。


 ほぼ同じタイミングで、紺野さんが香穂理さんへ声を掛けた。


「あれ? 香穂理じゃねぇか。どうしてここに……」

「人手不足でヘルプに入ったのよ。修一はどうしてここに?」

「オレは結衣花に呼ばれたんだ。一緒に帰りたいから迎えに来てくれってよ」


 オブジェの陰に隠れながら俺と結衣花は二人の会話を聞いていた。

 どうやら俺の計画は予定通り進んでいるようだ。


「ふっ……。これで二人は一緒に帰ることになり、あとはいい雰囲気になるという算段だ。完璧だな」

「そんなにうまくいくかな……」


 すると結衣花はここで驚くべきことを言い出した。


「あのさ。気になることがあるんだけどいい?」

「どうした?」

「二人を呼び出して一緒に帰らせるっていうところまではいいんだけど、この後どうするの? 私達が出て行かないと二人は帰れないよ」

「……あ」


 そうだ……。今二人がゲームショップ前で立っているのは俺達を待っているからだ。

 呼び出すまでは計画通りだが、その後のことを考えていなかった。


 ……と、ここでLINEが届いた。紺野さんからだ。


『笹宮も結衣花と一緒だろ。そろそろ帰ろうぜ。車で来たから、この後なんか食べに行かねぇか?』

『あー、はい……。じゃあ、焼肉なんてどうでしょうか』

『いいじゃねぇか。はやく来いよ』


 こうして俺と結衣花は何食わぬ顔で紺野さん達と合流した。

 その後焼肉屋に入り、俺達四人は同じテーブルで食事をし始める。


 計画が失敗してテーブルの隅で小さくなっている俺に、隣に座る結衣花が責め気味な口調で言う。


「また同じ席で食事してるし……」

「なんでこうなっちゃうんだろうな……」


 まぁ、こうして和気あいあいと食事をすることができたのだ。

 計画は失敗したが、これで終わりというわけでもない。


 結衣花は焼肉屋に慣れていない香穂理さんのために、テキパキと肉を取ってあげていた。


「お姉ちゃん。はい、お肉。ちゃんと欲しいのは取らないとダメだよ」

「あ……、ありがとう」

「何か注文したいものとかある?」

「えっと……。じゃあ、牛タンを……」

「うん、わかった」


 香穂理さんもだが、結衣花も楽しそうだ。


 以前ファミレスで食事をしていた時はぎこちなく見えたが、今日はそうでもない。

 焼肉ってコミュニケーションが取りやすいから、それが功を奏したみたいだ。


 こうして食事を終えて、俺達は外に出た。


「たまには焼肉もいいな」

「うん、美味しかった。今度楓坂さんと一緒に食べようよ」

「そうだな」


 すると香穂理さんが話掛けてきた。


「笹宮さん……。今日はありがとう」

「え……。特に何もしてないぜ?」

「いいえ、あなたがやりたいことはわかっているわ。私と結衣花が仲良くなれるように修一を呼び出して、焼肉屋に誘ってくれたのよね」

「そう……思うか?」

「こう見えて私はプロファイラーよ。このくらいはすぐにわかったわ。」


 本当は完全に計画は失敗しているのだが、ここまで断言されると否定しづらい。

 よし……、ここは流れに身を任せるか……。


 俺はひきつった顔で、自信ありげに答える。


「ああ……。その通りだ……。計画通りさ」

「お兄さん……」


 結衣花の視線が痛い。

 だが、わかってくれ。こうするしかないんだ……。


 すると香穂理さんは顔を上げた。


「ここまで気を使われているのに、これ以上頑固になるわけにもいかないわね」


 香穂理さんはすぐ近くにいた紺野さんの元へ歩み寄り、彼の顔を真っすぐに見る。


「修一……。私と付き合って」

「え!? い……いきなり何を……」

「今じゃないと勢いで告白なんてできないでしょ。恥ずかしいから、さっさとオーケーしてよ」

「……お、……おう。……おう! もちろんだぜ!!」


 紺野さんは戸惑い気味にその告白を受け、嬉しさのあまり彼女を抱きしめる。

 ずっと両想いだった二人が結ばれた瞬間だった。


 一方、俺と結衣花はその光景をただただ見ていることしかできない。


「俺達、役に立ってるよな……」

「うーん。どうかな……」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、香穂理からのお礼は?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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