11月21日(土曜日)ネーミングセンスがヤバい!


 今までやってきた特別チームを、社内ベンチャーとして独立させることが決まった。


 そして今俺達は、社内ベンチャーの名称をどうするかで悩んでいる。


 自宅のリビングでノートパソコンを睨んでいると、隣にいた楓坂が覗き込んできた。


「ピンとくるものがありませんね。社名を決めるのってこんなに難しいなんて……」

「正確には社名っていうより、組織名ってことになるんだろうけどな」


 社内ベンチャーとは企業のような仕組みを持つ独立した新規事業部のことではあるが、本当の意味で会社を起業するわけではない。


 そのため、別に社内ベンチャーに名前を付けることは必須ではないのだが、俺達の場合はクライアントと打ち合わせをすることになる。

 その時に名乗る組織名はあった方が便利だった。


 だが……心配していることがある。


「今まで楓坂に黙っていたが、告白しないといけないことがあるんだ」

「なにかしら?」

「実は……自慢ではないのだが、俺はネーミングセンスがない」

「はい、知ってますよ」


 あれ? すんなりと受け入れられたぞ。

 おっかしいなぁ……。

 期待されていると思っていたのに……。


 そうか…、間違いない!


 きっと楓坂は俺に隠れたネーミングセンスがあると信じて、あえて突き放すように言っているんだな!


 ったく、この尽くし系ツンデレ大学生め。

 かわいいところを見せやがって。こいつぅ~♪


 などと考えていると、タブレット端末を操作していた楓坂はジト目で俺も見てきた


「……なんですか? その『俺はわかっているんだぜ』みたいな気持ちの悪い視線は……」

「ふっ……。安心しろ。俺の内に眠る潜在能力を今こそ解放してやるさ」

「中二病乙ですね」


 そんな会話をしていた時、『ぴんぽーん』とインターホンが鳴った。

 きっとアイツだな。


 玄関に向かった俺はドアを開く。

 するとそこに立っていたのは私服に着替えた結衣花だった。


「ただいま」

「よぉ、結衣花。おかえり」


 社内ベンチャーの名称を決めることになり、結衣花は一度自宅に帰ってからここまで来てくれたのだ。


 今はひとりでも戦力が欲しいところだったので助かる。


「どう? 社内ベンチャーの名前、いい候補は思いついた?」

「今まさに、新たな可能性が目覚めようとしている段階だな」

「つまり全く進んでいないんだね」


 ちぃ……。カッコイイように言ったつもりだったが、一瞬で見破られてしまったぜ。


 だがもちろん俺だってなにもしていなかったわけじゃない。


 まだ納得のいく名前は思いついていないが、いくつかの候補は用意できているのだ。


「とりあえず、今一番いいと思っているのは『社内ベンチャー・ギガクラッシュ』なんだが、どうだろうか?」

「現代社会をなめすぎじゃないかな」


 ふむ……、やはりダメだったか。

 かなりいい線は行っていると思うのだが……。


 すると横にいた楓坂が、ドヤ顔でメガネをクイっとあげて話に入ってきた。


「ダメですよ、笹宮さん。こういう時は論理的に考えないと」

「ほぅ」

「組織名で事業内容をイメージできるようにし、なおかつ社内ベンチャーであることが分かるようにするのが望ましいでしょう」


 なるほど。

 俺はインスピレーションに任せていたが、それだと当たり外れは運任せになってしまう。


 ネーミングを科学するというのは、まさに今の時代にあった戦略と居てるだろう。


「私が考えた名前は『俺の嫁が社内ベンチャーでラブコメしているが、そんな彼女にハァハァしたい!』です! どうでしょうか?」

「……どういう状況だ」


 どこからそうなったのか理解できないが、すでに社内ベンチャーの名前ではなくなっていた。


 これなら俺が考えた『社内ベンチャー・ギガクラッシュ』の方がマシだぜ。


 そんな俺達のやりとりを見ていた結衣花は、心底疲れたようにため息を吐いた。


「えーっと……。つまり、二人とも全然いい名前が思いつかないんだね」

「いや、いちおうさっきのが……」

「真実から目を背けちゃダメ」

「はい」


 ……と、ここで俺はあることに気づいた。

 それは結衣花が持っているカバンが大きい事だ。


「なんだか結衣花の荷物、多くないか?」

「うん。今日はお泊りするつもりだから。二人とも、仕事のことになると食べるのも忘れちゃうでしょ」


 どうやら結衣花は俺達がネーミングで苦戦することを見越して、用意をしてくれたようだ。


「しかし、いくらなんでもそれは申し訳ないというか……」


 続けて楓坂も言う。


「そうですよ。善人の皮を被った変態紳士の笹宮さんがいるのよ。心配だわ」

「なにサラっとディスってんだよ」


 部屋に来るだけならともかく、女子高生がお泊りをするとなればやはり心配だ。


 気持ちは嬉しいが、ここはキッチリと断った方がいいだろう。


 だが、結衣花はとっておきの隠し玉を用意していた。


「ついでに夕食も作るつもり。デミグラス煮込みハンバーグでいいかな?」

「「よろしくお願いします!」」


 俺と楓坂は同時に頭を下げた。


 だって、結衣花が作るデミグラス煮込みハンバーグだぜ?

 食べたいじゃん。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、三人でお泊り!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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