11月16日(月曜日)ホームパーティーと相談


 俺は今、旺飼さんに招かれてホームパーティーを堪能している。


 ここには他にも、結衣花と楓坂もいる。

 料理を作ってくれる家政婦さんも一緒に食事をしていた。


 聞けば、旺飼さんは家政婦さんをただのお手伝いとしてではなく、家族のように扱っているそうだ。


 そんなこともあって、家政婦さんは旺飼さんの姪になる楓坂のことをとてもかわいがっていた。


 それぞれ年齢の違う女性たちが楽しそうに食事をする様子をみて、旺飼さんは自嘲気味に言う。


「若さというのはいいね」

「旺飼さんもまだ若いじゃないですか」

「その言葉を言われるようになったということは、歳を取ったということなんだよ」


 すると旺飼さんは席を立ち、俺の元へやってきた。


「笹宮君、少し、二人だけで話をしよう」

「……はい」


 そういえば食事に誘う時、旺飼さんは話したいことがあると言っていた。

 きっとそのことだろう。


 俺は旺飼さんに案内されて、二階にある書斎に入った。


 やはりこの部屋も一般的な家庭と大きな差はない。

 とても大企業の専務が住んでいる家とは思えない造りだった。


 ふと……、俺は壁に掛けられた一枚の油彩画に目を向ける。


「……この絵は?」

「ああ、舞が中学生の時に描いたものだ」


 そういえば、結衣花から始めて楓坂のことを訊いた時、絵が上手いと言っていたっけ。


 元CG部だと聞いていたが、油彩画も描けるんだな。

 絵がまったく描けない俺としてはうらやましい限りだ。


「さて、どこから話そうか……」


 黒革のオフィスチェアに座った旺飼さんは、深いため息をついた。


「二十歳になったら出て行かなければいけない……という話を舞から聞いたことはあるかい?」


 すぐに思い出せなかったが、たしか八月の下旬に楓坂がそんなことを言っていたっけ。


「えっと……、楓坂……舞さんが旺飼さんの家に住まわせてもらえるのが二十歳までというお話ですよね? たしかそれが理由で引っ越しをしたと思っていたのですが」


 やっべ。

 うっかりいつもどおり楓坂と苗字で呼ぼうとしてしまう。


 旺飼さんは楓坂の叔父になる人だ。

 注意しないといけないな。


 しかし俺の認識に齟齬があったらしく、旺飼さんはわずかに考えるしぐさをした。


「ふむ。少し違った意味で伝わっているようだね。……舞の祖父はアメリカで事業をしていて、二十歳になったら無理やりにでもアメリカへ連れて帰ると言っているんだ」


 え……?

 そんな話、聞いたことないぞ。


「じゃあ……、楓坂は近いうちにアメリカに連れて行かれるんですか?」

「だが私と彼女の両親はそれを阻止したいと考えている」


 旺飼さんは机の上にあったパソコンを素早く操作し、メールの一文を見せてくれた。


 そこには楓坂の父親らしき人から、彼女を祖父から守って欲しいという内容が書かれている。


 今までスマートな物腰だった旺飼さんが、あからさまに嫌悪感をあらわにして話を進めた。


「はっきりいうが、舞の祖父は仕事の亡者だ。身内を政略結婚の道具のようにしか考えていない。舞にも同じ事をするだろう」

「つまり……、金持ちと結婚させて、パイプを作るということですか」


 旺飼さんは頷く。


「私の兄……。今は楓坂の性を名乗っている舞の父親も、彼女を日本で自由に生活させてあげたいと願っている。だが……、今まではだましだまし引き延ばしてきたが、さすがに今年いっぱいが限界だろう。さっきも脅しまがいの電話をしてきたくらいだ」


 すると旺飼さんはスマホを取り出してテーブルの上に置いた。

 そして録音していた通話内容を再生する。


 電話の向こうからは、ガラガラ声の男性が乱暴な言葉で怒鳴っていた。


 その内容は旺飼さんの言った通り、政略結婚のために楓坂が必要だというものだ。

 とても孫に対する言葉とは思えない。


 スマホをポケットに入れた旺飼さんは俺に向き直った。


「結論を言おう。……舞を助けるため、日本に縛る理由が必要だ。そこで笹宮君にお願いがある」


 旺飼さんは指をひとつ立てる。


「ひとつは彼女の祖父を納得させるため、仕事で大きな結果を出して欲しい。これは今回の企画対決に勝つことで条件を満たせるだろう」

「じゃあ、今回の特別チームに楓坂が加わっていることを向こうは知っているんですか?」

「ああ」


 なるほど。日本で活躍しているのであれば、それを理由に渡米を断ることができる。


 だが、旺飼さんの考えはそれだけではなかった。


 彼は二本目の指を立てる。


「そしてもうひとつ、……非常に身勝手な頼みだが、彼女と……、楓坂舞との婚約を前向きに考えてくれないか」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、突然切り出された婚約の話。笹宮はどうする!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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