9月22日(火曜日)夕食のお買い物


 四連休最後の日。

 そろそろ昼食の準備に取り掛からないとというタイミングで、インターホンが鳴った。


 ドアを開くと結衣花が立っている。


「おはよ。お兄さん」

「よぉ、結衣花。また来てくれたのか」

「待望だったかな?」

「期待はしていたぜ。上がれよ」


 昨日、昼食を作りに来てくれた結衣花だったが、今日も気を利かせて来てくれた。


 この日の昼食はサバの塩焼き。

 一人暮らしをしていると縁が遠くなるメニューだ。


 食事を終えた後、俺達はリビングでゲームをしていた。


 今遊んでいるのはオープンワールドで銃を撃ち合うFPSというゲームだ。


 しかし……、


「む……。すまん、結衣花。助けてくれ」

「しょうがないなぁ。ちょっとすっこんどいて」


 ゲームの中の女子高生は頼りがいがある。

 強い男に憧れる女の心理がわかったような気がするぜ。


「ふぅ……。このゲーム、意外と面白いな」

「でしょ」

「このあとどうする? なんなら家まで送るぜ」

「うーん」


 結衣花は壁に掛けてある時計を確認する。


 時刻はもう午後三時。

 こんなに時間が経っていたとは思わなかった。


「楓坂さんが夕方に帰ってくるらしいから、三人で夕食を食べない?」

「ああ、いいぜ。でも食材が残っていないから買いに行かないと……」

「じゃあ、行こっか」


 こうして俺と結衣花は近くのスーパーへ行くことにした。


   ◆


 車で十分のところにある大型スーパーに到着した俺達は、さっそく店内に入った。


「お兄さん、カート」

「はい」


 さっきのゲームの影響もあって、いつのまにか俺は結衣花の単調な命令をすぐに理解して行動するようになっていた。


 あのゲーム、そうとう危険性が高い……。


 結衣花は入口から近い場所に陳列されている野菜を見ながら話しかけてきた。


「三人で食べるなら、やっぱり鍋かな?」

「お、いいな。いちおう土鍋はうちにあるぜ」

「じゃあ、寄せ鍋でいいね」


 寄せ鍋か……。

 まだ寒い季節ではないが、やはりおもいっきり食べたいときは鍋に限る。


 実を言うと、かなり好きなメニューだ。

 だけど一人で鍋ってどうにも作る気がしないんだよな。


 寄せ鍋に使う野菜や魚を選ぶ途中、結衣花は貝が並べてある場所で立ち止まって考え込んだ。


「ん~、どっちのアサリがいいかなぁ……」

「同じじゃないか?」

「どうせ同じならいい方を選びたいじゃない」


 野菜の目利きならわかるが、貝の良し悪しなんて見てわかるのか?


 そういえば俺って多少は料理するが、貝は扱いがよくわからないから全然買わないんだよな。


 ……と、結衣花が貝を選び終えた時だった。


「よぉ、笹宮! お前も買い物か?」


 カールの入った明るい色の髪に、気の強そうな目つきの美人。


 勢いのある声で俺の名前を呼んだのは、元カノで今度イベント勝負をすることになっている雪代だった。


「……雪代。なんでここに……」

「だから、買い物って言ったじゃん」


 すると彼女は、俺の隣に立っていた結衣花を見た。


「ん……? もしかして、妹さん?」

「いや、妹の友達だ」


 俺がそう紹介すると、結衣花は緊張しながら挨拶をする。


「えっと……。はじめまして、結衣花です」

「へぇ~、結衣花ちゃんね。アタシは雪代。よろしくな! へへっ!」

「は……はい」


 普段は物怖じしない結衣花だが、雪代の勢いに押されて戸惑っているようだ。

 これが普通の反応だろう。


 そう考えると、レストランで雪代に食って掛かった音水の精神力は大したものだ。


「それで雪代。こんなところでどうしたんだ?」

「見ればわかるだろ。飯を買ってるんだよ。アタシんち、この近くだからさ」


 すると雪代はチラリと結衣花を見た後、俺に近づいて話しかけてきた。


「ふぅ~ん。ずいぶん仲が良さそうじゃん」

「普通だ」

「以前会った音水っちより、距離が近いように見えたけど? ひゃはっ!」


 笑い方が世紀末のザコキャラのそれだな。

 とても女の笑顔とは言えない表情だ。


 もっとも、こいつのこういうところは大学のときから変わらない。


「じゃあ、アタシはこっちだから。邪魔して悪かったな。結衣花ちゃん、じゃあな!」

「あ、はい。さようなら……」


 雪代は普段の悪行三昧を見事に隠した笑顔で手を振り、結衣花はつられたように手を振る。


 わずか一分足らずのやり取りなのに怒涛のようなインパクトだけ残して雪代は去って行った。


 未だ驚きを残したままの結衣花が訊ねてくる。


「今の人、会社の人?」

「いや、前に言った元カノだ」


 すると結衣花は「ふぅん」と一言入れた。


「お兄さんってCカップくらいの人がタイプなんだ。なるほどね~」

「俺が胸だけしか見ていないような言い方は止めてくれ」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、結衣花と楓坂を交えて鍋パーティー!!


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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