9月21日(月曜日)結衣花とドライブ
ひょんなことから俺は結衣花とドライブに行くことになった。
簡単に準備を済ませ、すぐ近くにある駐車場へ向かう。
俺はミニバンの助手席側のドアを開いた。
「ほら、結衣花。乗れよ」
「うん」
運転席側に回った俺もドアを開いて座席に座ろうとする。
だがその時、俺は見てはならないものを見てしまった。
「っんしょっと……」
シートベルトを締めようとした結衣花だが、ちょうどベルトが彼女の大きな胸の間に食い込むところを真正面で見てしまったのだ。
彼女はすぐにベルトの位置を調整したが、たぶんこれは見られたくない場面だったに違いない。
すると俺の視線に気づいた結衣花がこちらを見た。
「……お兄さん、今見たでしょ」
「さ……さあ……、なんのことかわからないな。ちょうど座席のチェックをしていたから、結衣花になにが起きたのか見当もつかない」
「ん~」
疑っているようだが確信はないという反応だな。
よし、このまま誤魔化そう。
「男の人にはわかんないだろうけど、これすごく恥ずかしいんだからね」
いじけた様子で話す結衣花。
まぁ、わからなくはない。
シートベルトはちょうど女性の胸の間を通るため、胸の大きな人は気になるだろう。
女子高生の結衣花にとってはなおさらだ。
少しフォローを入れておこう。
「冬ならコートの上からシートベルトをできるが、まだ九月だからな。どっちにしても運転していたら見る余裕はないよ」
すると結衣花はすかさず返す。
「私、シートベルトなんて一言も言ってないんだけど」
「……」
「やっぱり、見たんじゃん」
「……すまん」
むぅ……。墓穴を掘ってしまった。
それから俺達は、順調にドライブに出かけた。
連休三日目なので少し交通量は多めではあったが渋滞はない。
ドライブは快適そのものだ。
街を抜けたあたりで、結衣花が窓の外を眺めながら鼻歌を聞こえないように歌っていることに気づいた。
「楽しそうだな」
「うん。ドライブって特別感ない?」
「あー、どうだろうな。俺は仕事でさんざん乗ってるからな」
「いいなぁ」
しばらくして、車は道の駅に到着した。
休憩も兼ねて、俺達は一度車を降りることにする。
自動販売機で缶コーヒーを買うと、結衣花がグイッと近づいてきた。
「お兄さん、それってブラック?」
「ああ」
「私も飲みたい」
普段はあまり感情を見せない結衣花だが、わかりやすいほど興味を持って目を輝かせていた。
ブラックのコーヒーがそんなにめずらしいのだろうか。
「別にいいが、もしかしてブラックは初めてなのか?」
「うん」
「……大丈夫か? これ、濃いめだぞ」
「たぶん大丈夫だと思う。家でカフェオレはたまに飲んでるし」
たぶんインスタントコーヒーだろう。
俺からすると、インスタントコーヒーの適量って薄いんだよな。
まあ、こういうのは経験だ。
ダメなら残りは俺が飲めばいい。
缶コーヒーを受け取った結衣花は、躊躇なく口に含んだ。
直後、彼女は「んん~~っ!」と、苦味で顔を歪める。
「にがっ!? え……なにこれ? 木が焦げたみたいな味がするんだけど……」
「コーヒーをそんなふうに表現するとは斬新だな」
よほど苦かったのか、結衣花は眉をひそめていた。
「これ、どこがいいの……。はなはだしく疑問なんだけど……」
「まぁ、慣れかな。この苦味にハマると、ミルク入りだと刺激が足りなくなるんだ」
俺がそう言ってクイッと一口飲むと、結衣花は手に持っている缶コーヒーを見ながらつぶやいた。
「んー。もうちょっと飲む」
「無理すんなよ。他のものでもいいだろ」
「だって、どうせならお兄さんと同じものを飲みたいんだもん」
そういえば、結衣花は俺に追いつきたいと考えているんだっけ。
もしかしたらブラックコーヒーを飲むのが、彼女なりの背伸びなのかもしれない。
「ふっ……、しょうがないな。ちょっと待ってろ」
俺は道の駅に入り、プリンを買ってくる。
スプーンと一緒に結衣花に渡し、一緒にベンチに座った。
「プリンとコーヒーを交互に口に入れて見ろ。少しマシになるぜ」
「ホント?」
「ああ」
疑いつつも、結衣花はプリンを一口食べてからコーヒーを飲んだ。
すると目をパチッと開く。
「あ……。ああっ! 本当だ! これなら飲める! っていうか、風味とかすっごくわかる!」
「だろ?」
プリンは卵と牛乳にバニラと、コーヒーの苦味を和らげる素材が使われている。
俺も偶然見つけた食べ方なのだが、これがなかなかうまい。
「やるね、お兄さん。褒めて遣わすよ」
「ありがたき幸せだ」
嬉しそうな結衣花の顔を堪能し、俺達は再び渓流に向かって車を走らせた。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、いつも励みになっています。
次回、結衣花と渓流を見ながら、ちょっぴりラブコメ!?
投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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