9月21日(月曜日)通い妻は女子高生


 連休三日目の月曜日。

 とはいっても土日は仕事をしていたので、俺にとっては久しぶりの休日だ。


 休日が安定しないのはイベント業界の辛いところだろう。


 午前中の大半をダラダラ過ごしたが、そろそろシャキッとしたい。


 そういえば、そろそろ昼飯の準備をしないといけない時間か。


 一人暮らしをしていると、休日の食事を作るのがおっくうになる。

 近くのコンビニ弁当で済ませるか。


 ピンポーン♪


 コンビニに行く準備をしていた時、インターホンの音が鳴った。


 楓坂か? いや、たしか朝一で叔父の家に帰ったはずだよな。

 とりあえず出てみよう。


 玄関のドアを開いてみると、そこにいたのはよく知っている女子高生だった。


「おはよ。お兄さん」

「よぉ。結衣花」


 突然の訪問に、俺は驚いていた。

 私服姿の彼女は、食材らしきものが詰まったビニール袋を手に持っている。


「どうしたんだ?」

「お見舞い。昨日コンビニのベンチで疲れて寝ちゃってたんでしょ? 楓坂さんから聞いてびっくりしたよ」

「そうだったのか……。気をつかわせてしまってすまない。本当に少し疲れていただけなんだ」

「少し程度で夜のベンチで寝るわけないでしょ」


 たしかにそうなんだよな。

 寝ていたとは言っているが、実際には気を失うに近い状況だった。

 今はもう回復しているが、昨日は本当にギリギリだったと思う。


「昼食の用意とかしてる?」

「いや、まだだ」

「よかった、間に合ったみたいだね。食材買ってきたから作ってあげる」


 そう言って、結衣花は手に持っていたビニール袋を持ち上げてみせた。

 

 自宅に上がった結衣花は俺のエプロンをつけてキッチンに立つ。


 結衣花は八月もこの部屋に来ていたが、その時はコスプレをしただけだったからな。

 こうして彼女がキッチンに立つ姿は初めて見る。


「なんか、結衣花のエプロン姿って新鮮だな」

「エッチ」

「そんなふうに言った覚えはないのだが……」

「うん、わかってる。からかっただけだから」

「ひどい」


 今日も結衣花節は好調のようだ。

 調子がいいのは喜ばしいことだが、からかうターゲットが俺だけというのはどうにかして欲しい。


 野菜を切る結衣花を見ながら、俺は訊ねる。


「なあ、何か手伝えることあるか?」

「うーん」


 手慣れた様子なので、特に俺は必要ないかもしれない。

 しばらく考えた結衣花は、なにかを思いついたようだ。


「じゃあ、そこで裸になって不思議な踊りを披露してくれる?」

「仮に披露したとして見てくれるのか?」

「むしろ警察に通報かな」

「妥当な選択だ」


 結局、料理は結衣花に任せて、俺はリビングでゆっくり待つことにした。


 十二時が近づくにつれ、いい匂いがしてくる。

 この香りは……トマトだろうか?


「おまたせ。できたよ」


 完成された料理はパスタだった。

 トマトベースのソースだが、ひき肉の代わりにエビや貝が入っている。


「おぉ、美味そうだな」

「でしょ。冷めないうちに食べようよ」


 さっそく俺は海鮮パスタを食べることにした。

 

 ミートスパゲッティはよく食べていたが、トマトソースの海鮮パスタは初めてだ。


 パスタをフォークで巻いて食べると、トマトと魚介の旨みが口の中で広がる。

 なつかしいのに、初めての味わいだ。


「おっ! おいしい! メチャクチャうまいな!」

「ありがと。サラダも食べてね」

「えー」

「駄々をこねないの」


 そうはいっても、今日のサラダにはブロッコリーが入っていない。

 これなら余裕だ。


 それから俺達は食事をしながら雑談を楽しんだ。


「じゃあ、楓坂も結衣花がくることを知っているのか」

「うん。あ、そうそう。楓坂さんからの伝言。『休みに仕事をするな』だって」


 まだ知り合って間もないが、楓坂は俺の事をよくわかっているようだ。

 時間が余り始めていたので、この後仕事の雑用をするつもりだったんだよな。


 先手を打たれて気まずそうな顔をすると、結衣花にため息をつかれた。


「その顔。仕事するつもりだったでしょ」

「やることがなくてだな……」

「そういう考え方が社畜なんだよ」


 まぁ、そう言われると言い返せないわけなのだが……。


 社畜の怖いところは、自覚症状がないことなんだよな。

 俺は普通の休日のつもりでも、他の人から見ると休んでいないと思われる。


「しかし、そうなると時間が余るな」

「趣味とかないの?」

「趣味……。……。趣味ってなんだっけ……」

「うわぁ……、ガチの社畜ってこうなんだ……」

「そんな羨望の眼差しで見ないでくれよ」

「引いてるんだけど?」


 とはいえ、本当に趣味らしい趣味ってないんだよな。

 出かけても本屋で見るのは仕事関連ばっかりだし、なにを見ても仕事で使えるかどうかというふうに考えてしまう。


 あー。思い返すと、俺の社畜度ってかなりヤバめかも……。


「だが何もしないっていうのは、それはそれで苦痛なんだが」

「……じゃあさ、ドライブに連れて行ってよ。……でも、疲れちゃうかな?」

「いや、いい気分転換になる。どこに行きたい?」

「ん~。海か川」

「オーケーだ。じゃあ、近くの渓流を見に行くか」


 こうして俺と結衣花はドライブに行くことにした。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、いつも励みになっています。


次回、ほのぼのドライブで結衣花の初挑戦!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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