9月14日(月曜日)コンテストとテーマパーク


 月曜日。

 通勤電車に乗っていた俺は、後輩の音水とLINEをしていた。


『笹宮さん! おはようございます!』

『おはよう、音水。やけに気合が入ってるな』

『はい! 今日はハロウィンコンテストのことで、コラボ先のテーマパークと打ち合わせなんですよ! お土産、買ってきますね!』

『ああ、楽しみにしているよ』


 音水が企画したハロウィンのイラストコンテストは、人気テーマパークとコラボをしている。

 おかげでこの企画はかなりの反響を得ていた。


 応募受付直後にシステムトラブルがあったが、今は順調と言ったところだろう。


 音水とのLINEを終えたタイミングで、いつもの女子高生がやってきた。


「おはよ。お兄さん」

「よぉ。結衣花」


 ゆるキャラ展に行ってから、結衣花は少し変わったような気がする。


 女子高生らしさはそのままだが、少しだけ大人びた雰囲気を帯びるようになった。


 どこが……と言われれば答えられないが、綺麗になったように感じる。


「また後輩さんとLINE? いつも仲がいいね」

「いつも言っているが、ただの業務連絡だ」

「じゃあ、研修生さんとは?」

「補佐の役目はちゃんと果たした」


 結衣花の言う後輩とは音水のことで、研修生とは楓坂のことだ。


 金曜日のことを思い出すと、顔から火が出そうな感情が呼び起こされる。

 もし目の前にいる女子高生にバレたら、いじられるだろう。

 なんとしても、平穏を保たなくてはならない。


 だが、結衣花は俺の様子を見て言った。


「んっ。だいたいわかった」

「なにを?」

「二人のことが気になりだしたけど、自分の気持ちがわからなくて戸惑っているんだね」

「その設定、どこから引っ張ってきやがった」


 まぁ、あながち外れているわけではないのだが……。


「そういう結衣花はどうなんだ?」

「私、彼氏作る気ないもん」

「とか言って、本当は気になる奴がいるんじゃねぇの?」

「リスクを取るより、安全で堅実をモットーにしてるから」


 もっともらしいことを言っているが、どうも本心を隠しているような気がする。

 これはもう少し探って、結衣花の本音を引き出してみるのも悪くないかもしれない。


 だが、結衣花は俺の企みを見抜いたかのように話を切り替えてきた。


「そんなことよりさ」

「無理やり話題を変えようとしてないか?」

「気のせいだよ」


 結衣花はスマホに画像を表示して、俺に見せてきた。


「ハロウィンコンテストのイラストを書いたんだけど、どうかな?」


 そこには結衣花が得意とする、ゆるキャラのイラストが描かれていた。

 以前見せてもらったものよりも、各段にいい仕上がりになっている。


 だが、結衣花の表情は不安げだ。


「いいと思うが、気に入らないのか?」

「うーん。自分でもなにがダメなのかわからないんだけど……」


 俺も仕事でイラストを発注することがあるが、これでも十分にいいと思うんだけどな。


 だが作り手からすると、不安になるのはしかたがないのかもしれない。


 俺個人の感想になるが、いちおう言ってみよう。


「俺は結構、結衣花のイラストが好きだぜ」


 なんの変哲もない言葉だが、少しでも励ましになればと思った。

 だが結衣花は黙ったまま、少し恨めしそうな目で俺を見る。


「え……、なんだ?」

「お兄さんってさ、そういうことをサラっというよね」

「そういうことって、なんだ?」

「……言わせる気? Sなの?」

「ギルドランクの話か?」


 女子高生は疲れた表情になり、『はぁ~』と深いため息をこぼした。


「本当に天然で言ってたんだ……。異世界転生して『やっちゃいました』を素でやりそうな人って迷惑だよね」

「ボロカスに言われてるんだけど」


 俺、変なことなんて言ってないよな。

 もしかして『好き』という言葉を、女たらしのセリフと捉えられたのか?

 そうだとすると不本意だ。


「俺が好きって言ったのはイラストの話だぞ」

「わかってるけどさ。言われたら驚くじゃない」


 そう言いつつも、結衣花は俺の腕を嬉しそうにムニる。

 ははぁん。さてはイラストを褒められて照れているんだな。

 ういやつめ。


「話を戻すが、このコンテストはテーマパークとコラボしてるだろ。その辺を意識してみたらどうだ?」

「……」

「あれ……。俺、またやっちゃいましたか?」

「ううん。すごくいいアドバイスだったよ。時間を見つけてテーマパークへ行ってみる。ありがとう、お兄さん」

「お……おう」


 楓坂も言っていたが、確かに結衣花は少しずつ変わってきている。

 いや、成長と言うべきだろうか。


 時折見せる表情に、輝きが増しているように見える。


「お兄さんって普段はマヌケだけど、いざと言う時は頼りになるよね」

「普段マヌケとか思われてんのかよ」

「じゃあ、どう罵って欲しいの?」

「ディスる前提か」

「言っておくけど、私がこんなことを言うのはお兄さんだけだからね」

「微妙に嬉しくないんだが……」


 やっぱりこの女子高生は、なにも変わっていないのかもしれない。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、いつも励まされています。


次回、音水のお見合い相手が乗り込んできた!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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