9月6日(日曜日)結衣花と待ち合わせ。そして展望台へ


 日曜日。

 今日は結衣花とゆるキャラ展を見に行く日だ。


 いつもより早く起きた俺は、どの服装にすればいいか悩んでいた。


「むぅ……。女子高生と一緒なら、もっとあか抜けた服の方がいいのか……。しかしなぁ……」


 二十六歳という年齢ならいつも通りでも通用しそうだが、やはり並んで歩くと浮いてしまうかもしれない。


 だが、自分の年齢に合わせた服装をしなくてはいけないのではというプレッシャーもある。


 しかし、どうしてこんなに悩んでいるんだ。


 いちおうはデートコースを歩く予定ではあるが、目的はゆるキャラ展を見ること。

 俺と結衣花はただデートっぽいことをするだけだ。


 まったく、愛菜のカップリングごっこには参ったぜ。

 年下に甘い結衣花は、すぐ愛菜の話に乗ってしまうし……。


 さんざん悩んだ挙句、結局いつも通りの服装で待ち合わせ場所に向かうことにした。


   ◆


 待ち合わせ場所は改札口を出てすぐのところにあるエントランスだ。


 大正時代を思わせるクラッシックな洋風の広場で、俺は柱に背を預けて結衣花を待っていた。


 今日のミッションは結衣花を『楽しませること』だ。

 楓坂の話によると、女子高生はいかにして楽しめるかということが重要らしい。


 ただでさえ世代が違うので話がかみ合わないことも多いだろう。

 今まで多くの問題を解決してきたが、今回は特に難易度が高そうだ。


 だが……結衣花を楽しませる……か。


 全然イメージが湧いてこない。

 つーか、常時フラットテンションの結衣花を楽しませることなんてできるのか?


 ぼんやりと天井を眺めていた時、誰かが俺の腕をムニる。

 振り向くと、そこには私服姿の結衣花が立っていた。


「おはよ。お兄さん」

「よぉ。結衣花」


 今日の結衣花はスッキリとしたワンピースだ。

 デザインのおかげか、落ち着いた女性の雰囲気を醸し出している。


 おっと。忘れるところだった。

 女性と待ち合わせをしたら、まず服装を褒めるんだよな。

 もちろんわかってるぜ。


 さっそく褒めようとしたが、結衣花は口を手で押さえて下を向いてしまった。


「……。……ぅ」

「どうした?」


 もしかして体調が悪いのか?

 だとしたらゆるキャラ展に行っている場合じゃない。


 すぐに帰すか? いや、近くの店で休憩させた方がいいかもしれない。


 だが、俺の心配は杞憂に終わる。


「……。……ぷっ。……。……く……くく」


 なぜかわからんが、結衣花は必死に笑うのを我慢していただけのようだ。


「……なんで俺、いきなり笑われてるんだ?」

「ご……ごめん。……ちょっ……ちょっと待って。……ん……くく……」


 笑うのを我慢されるとか、爆笑されるより傷つくんだが……。


 少し時間が経って、ようやく結衣花は落ち着きを取り戻した。


「ふぅ……、やっと落ち着いたよ」

「俺の服装が変だったか?」

「ううん。なんか……お兄さんと待ち合わせデートっていうだけで面白くて……。……。……ぷっ、……く……」

「俺、帰ろっかなぁ」

「ごめんごめん」


 どうやら課題だった『結衣花を楽しませる』という目標は出会って数秒で達成できたようだ。


 すげぇじゃん、俺。

 言葉を超越して、存在そのもので相手を笑わせることができたぜ。

 正確には笑われただけなんだけどさ。


「じゃあ、今日の予定を言うね。私達の目的は愛菜ちゃんが納得するようなデートコースを回ること。ここまではいい?」

「ああ」

「まず展望台を体験して、次はゆるキャラ展。その後スイーツを食べながらのんびりして終了って感じかな」


 その内容を聞いて、俺はささやかな安心を得た。


「よかった。てっきりビルの屋上から飛び降りるところからスタートなんて言われるかと思ってたぜ」

「私の事、なんだと思ってるの?」


 いつもきつめのジョークを言われてきたせいで、少々感覚がズレていたようだ。


 とりあえず俺達は駅ビルの展望台に行くため、エレベーターに乗った。


 今まで意識していなかったが、俺みたいなオッサン予備軍の男が女子高生の結衣花と歩いていいのだろうか。


 間違いなく結衣花は美少女だ。

 一方俺はというと、冴えない会社員……。


 まるで結衣花の足をひっぱっているような気持ちが湧いてくる。


 上昇するエレベーターの中で黙っていると、結衣花が俺の腕を掴んで二回ムニった。


「もしかして緊張してる?」


 さっそく俺の不安は見透かされてしまった。


 いつもならここで見栄を張るところだが、よけいなことをしてダサい自分をさらすのはプライドを汚すだけだ。


 ここは正直になるところだな。


「……お見通しのようだな。さすがだ。結衣花には隠し事ができないみたいだな」

「やっぱり。さっきから黙っていたから、そうじゃないかなって思ってたんだよね」


 結衣花は心配そうに言う。


「高い所が怖いんだね。よちよち。お姉さんがいるから怖くないよ」

「俺のセンチメンタル、秒殺されちゃったぜ」


 結局、俺達の会話はいつもの調子だ。

 肩に力を入れて損したぜ。



■――あとがき――■

☆評価・♡応援、いつも本当にありがとうございます。


次回、スイーツで笹宮が困惑!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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