9月6日(日曜日)結衣花おすすめのスイーツは?


 妹の一方的なプロデュースのせいで、俺と結衣花はデートっぽいことをすることになった。


 駅ビルで待ち合わせをした俺達は、まず展望台からの景色を楽しむことにする。


 ここから見える景色はビルばかりだが、自分達が普段住んでいる街を見下ろすというのは存外に気分がいい。


「きっとここからの夜景はすごいんだろうな」

「夜景って言えば、ここってイルミネーションも有名だよね」

「結衣花もそういうのが好きなのか?」

「うん」


 この駅ビル周辺では、毎年冬になると大規模なイルミネーションが飾られる。

 冬のデートスポットと言えば、真っ先に名前が上がるほどだ。


 すると結衣花がこちらをチラッと見た。


「どうした?」

「お兄さんは誰と見に来るのかな~と思って」

「俺は仕事でしょっちゅうここに来るから、一人で見ることになるだろうな」

「うまく恋愛トークを回避できたと思ってるでしょ」

「まあな」


 展望台で景色を堪能した俺達は、ゆるキャラ展が開催されているイベントスペースへ向かった。


 だが……。


「入場制限ですか?」


 驚く俺に、受付スタッフが頭を下げる。


「申し訳ございません。想定外の反響で、今は二時間待ちとなっています」


 へぇ……。それはすごいな。

 人気ゆるキャラが集合しているとはいえ、ここまで人を集められるなんて中々できることじゃない。


 整理券を受け取った俺達は一度イベントホールから離れることにした。


「どうする? 中途半端に時間ができてしまったな」

「じゃあ、先にスイーツ食べに行こうよ。この時間ならついでにランチもできるし」

「ランチがついでなのか……」


 こうして俺達は先に食事をすることにした。


   ◆


 俺達が向かったのは別の階にあるカフェ&スイーツの店だ。


 こじゃれた店内は木目調で統一されているが、ファミレスのような気軽な雰囲気がある。

 雑談を楽しみながら食事をするにはちょうどいい。


 パスタを食べた後、メインのスイーツを注文することになった。


「で、結衣花がいうスイーツってなんだ? タピオカミルクティーなら俺も飲んだことがあるぞ」

「嫌いじゃないけど、ブームは去った感じかな。楓坂さんはよくタピオカチャレンジをしてたけどね」


 俺は首を傾げる。


「タピオカ……チャレンジ? なんだそれ……」

「胸の上にカップを置いて手放しで飲むやつ。楓坂さんがよくやってたよ」

「なにやってんだ、アイツ……」

「私もできるよ。見る?」

「そんなことしちゃいけません」

「本当は見たいクセに」


 フラットテンションは変わらないが、言葉の端々にいたずらっぽいニュアンスが含まれている。

 困ったやつだ。


 メニュー表を開いた結衣花は、派手な菓子を指さした。


「とりあえず、私が今ハマってるのはトゥンカロンかな」

「変わった名前だな。南国スイーツか?」

「韓国スイーツらしいよ」


 オーダーをすると、すぐにトゥンカロンというスイーツが運ばれてきた。


 それは一昔前に流行したマカロンそっくりだ。

 違いといえば中のクリームが大盛になっていて、きらびやかなデコレーションが施されているくらいだろうか。


「これ……マカロンだろ?」

「トゥンカロン」

「なにが違うんだ?」

「クリーム部分をかわいくデコレーションしてるでしょ。これがいいの」


 二十六歳の男からみればどっちもマカロンだと思うのだが、それを言うと怒られそうだし黙っておこう。


 こういう同じスイーツなのに違う呼び方があるっていうのは、世代の違いを感じる。


 なんか俺……オッサンになりかけてないか?


「とりあえず食べてみるか」


 そう思って、口を開いた瞬間だった。


 パシャッ!


 シャッター音が聞こえたので見ると、向かいに座っていた結衣花がスマホを構えていた。


「え? なんで、食べようとするところを撮るわけ」

「愛菜ちゃんにデート風景の画像を送ろうと思って」

「食べる瞬間とか、マジで羞恥心が暴れ狂いそうなんだけど」

「そこがいいんじゃない」

「確信犯か」


 俺がジト目で見ているにも関わらず、結衣花はまったく気にしない様子で話を続けた。


「デートっぽくするなら、ツーショットの写真も撮っとく?」

「愛菜は喜ぶだろうな」

「私も撮りたい」

「俺は恥ずかしい」

「じゃあ、決定ということで」


 俺の意向を完全に無視して、結衣花は俺の隣に座った。


「私がトゥンカロンを食べさせようとするから、お兄さんが撮影する感じでお願いね」

「最近まで無愛想主義者だった俺には荷が重いのだが……」

「スマホは軽いから大丈夫」


 言われるがまま、俺は自撮りツーショットの撮影をした。


 めっちゃ、恥ずかしいんだけど……。

 めっちゃ、恥ずかしいんですけどぉー!


 撮影した画像を結衣花に送ると、嬉しそうにクスッと笑った。


「初めてのお兄さんの写真がツーショットって、ちょっとはずいね」

「俺にとっては生まれて初めてだ」

「お兄さんの初めて、いただきました」

「言い方ぁ~」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援も、すごく励みになっています。


次回、ゆるキャラ展で何が?

笹宮と結衣花の距離が一歩近づきます。


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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