8月15日(土曜日)屋台巡りしようよ


 花火大会も中盤になった。

 妹の愛菜の希望で、俺達三人は屋台巡りをするためブラブラと歩いている。


 すると隣を歩いていた浴衣姿の結衣花が、立ち並ぶ屋台を見ながら訊ねてきた。


「お兄さんの仕事って、こういうお祭りとかもするの?」

「花火大会はないが、縁日のような催しはあるぜ」

「どんなこと?」

「そうだな……。クジ引きとか金魚すくいみたいなやつだな」


 なるほどと結衣花は手を叩いた。


「人生のアタリは落としちゃったけど、その教訓を仕事に活かしてるんだね。やるね、お兄さん」

「その発想の飛躍、素直にすげえと思うぜ」


 俺が担当する仕事はスマホ関連のイベントが多いのだが、商店街が遊園地の集客イベントなどを行う時もある。


 そういった場合によく提案するのが、縁日っぽいイベントキャンペーンだ。


 本格的な祭りの雰囲気には程遠いが、それでも子供達は喜んでくれる。

 実はひそかに楽しみにしている仕事でもあった。


「他にはライブの手配をしたりもするかな」

「じゃあ、有名アーティストと会ったことがあるの?」

「どっちかっていうと、テレビに出なくなった芸人さんと会う事の方が多いな」

「わぉ。リアル」


 俺達が雑談していた時、前を歩いていた愛菜が屋台の前で立ち止まった。

 中学一年生の我が妹は、キラキラと瞳を輝かせて屋台を指でさす。


「ねぇねぇ! 射的やろうよ!」


 射的か……。

 実はあんまりやったことがないんだよな。


 興味はあったが、実際に体験する機会を失ったまま大人になってしまったんだ。


 たしかコルクを空気銃で打つんだったよな。

 俺にできるだろうか?

 

 でもガンシューティングゲームなら、そこそこのスコアを出せるし、たぶん大丈夫だろう。


「兄貴! めっちゃカッコいいところを見せて、結衣花さんにアピールだよ!」

「射的ってそんなにカッコいいか?」

「わかんないけど、アニメとかだと男の人が射的で活躍するじゃん」

「あー。そう言われて見れば、そんなシーンもあったような……」

「でしょ! ここで男らしさを見せるんだよ!」


 別にアピールするつもりはないが、これは確かにいいチャンスだ。


 普段から結衣花は、俺の事を見下している節があるからな。

 たまには俺の男らしいところもキッチリ見せておこう。


 俺は結衣花に向かって、わざとらしく前髪をかき上げた。


「やれやれ、俺の本気を見せやるか」

「どうしてそうやってフラグを立てようとするかな……」


 あきれ気味に言う結衣花をよそに、俺は射的の準備をする。


 この店の射的は、五発のコルク弾で商品を倒すというシンプルなルールだ。


 余裕すぎて、逆に不安になってしまうぜ。


 見てろ、結衣花。

 俺だって、やるときはやるんだぜ!


 結果……、ひとつも賞品を取ることができなかった。


 射的屋にライフルを返した俺は、冷たい視線を送ってくる女子二人の元へ戻った。


「まっ……、勝利ばかりの人生なんて虚しいだけだからな。こういう日もたまには悪くないだろ」

「さすが、お兄さん。期待を裏切らないところが素晴らしいよ」


 射的の屋台から離れた俺達は、次の店に向かうことにした。


「次はどうする?」

「お兄さんがボケやすい店でいいよ」

「屋台巡りの楽しみ方を間違えてないか?」


 それから、たこ焼きや金魚すくいなどを楽しんでいると、あっという間に時刻は午後八時半になった。


 そろそろ帰ったほうがいい時間だ。


「結衣花。タクシーを呼ぶから、帰りはそれを使ってくれ」

「え、いいよ。私の家、この近くだし」

「そう言うな。俺を安心させるためと思っておごらさせてくれないか」

「じゃあ……お言葉に甘えちゃおうかな。ありがとうね、お兄さん」


 生意気ではあるが、結衣花は女子高生だ。

 夜道を油断していい年齢じゃない。

 一緒にいるのだから、彼女を少しでも安全に家に帰すことが俺の責任だと思う。


 しばらくしてタクシーが来てくれた。

 乗車する直前、結衣花はこちらに向かって言った。


「帰ったらLINEするね」

「ああ、わかった。気をつけて帰れよ」


 タクシーが走って行くのを見ながら、愛菜が嬉しそうに話しかけてくる。


「ねえ、兄貴。結衣花さんっていい人でしょ?」

「そうだな。愛菜のおかげで仲良くなれたよ」


 照れたように笑う愛菜。


 恋のプロデュースとか言い出した時はどうなるかと思ったが、俺のことを想ってやってくれたのだろう。


 実際、確かに結衣花との仲が良くなったような気がする。

 愛菜のおかげだな。


「ところで兄貴」

「ん?」

「赤ちゃんはいつできそう?」

「こら」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、楓坂とばったり!!

デレるの? ツンしちゃうの?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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