8月13日(木曜日)楓坂とデート(待ち合わせ)


 盆休みに入り、約束していた楓坂と買い物に行く日になった。


「ん~。結衣花は相手の気持ちを確かめろと言っていたが、どうすればいいんだ?」


 音水に彼氏がいるのかと聞くことすらできない俺が、楓坂相手にそんなことを訊ねることなどできるはずがない。


 そもそも、これが本当にデートなのかどうかすらわからないのだ。


 もし見当違いな質問をしたら、きっと俺は海に沈められるだろう。

 音水……。もし俺がいなくなってもたくましく生きろよ……。


 待ち合わせ場所は駅の一階にあるカフェだが、時間を確認するとまだ三十分以上の余裕がある。


「考え込んでも仕方がない。少し気分転換するか」


 駅と一体になっている施設にはショップやレストランがあり、カフェの横には雑貨屋があった。


 雑貨屋に入った俺はとりあえず文具をチェックする。

 仕事をしていると、こういった文具にこだわりを持ちたくなるものだ。


 おっ。新しいデザインのシャーペンが発売されているじゃないか。


「よかったらプレゼントしましょうか?」


 女性の声に驚いて振り向くと、そこにいたのはメガネを掛けた知的系美女の楓坂だった。


「なんだ、楓坂か」

「ずっと後ろにいたんですよ。気づきませんでした?」

「マジかよ。恥ずかしいな」

「全然気づいてくれなくて寂しかったんですからね」


 そういって楓坂は指で俺の脇腹をぐりぐりといじった。


 痛くはないが、照れくさい。


   ◆


 とりあえず予定していた通り、最初はカフェに入ることにした。


 このカフェは間切りに本棚を利用していて、本以外に置物や花が飾られていた。

 カフェとしてはめずらしいレイアウトだが、本に囲まれると気持ちが落ち着く。


 満足そうにくつろぐ俺を見て、楓坂はくすりと笑って声を掛けてきた。


「気に入って頂けました?」

「ああ。こんなところがあったんだな」

「うふふ。喜んでもらえて嬉しいわ」


 なんか……、マジでデートみたいになってきたな。


 今日の楓坂はいつもと違う。

 普段はデニムジャケットを肩出しで羽織っているのに、今日は可愛らしいゆるふわコーデで統一している。


 普通の女子大生っぽい。

 ……いや、普通以上に可愛く見える。


「で、楓坂。今日は何を買いたいん?」


 すると彼女は「ん~」とほほえんだ。


「まずは笹宮さんの服を選びたいです」

「俺の……服?」

「はい」


 おいおいおい……。

 もう、これデート確定じゃん。

 間違いないだろ……。


 漫画で見たことがあるぜ。

 好きな男のために女が服を選ぶ、いちゃいちゃシチュエーションだろ。


 じゃあ、マジで楓坂は俺のことを気にしてるのか?

 信じられねぇ……。


 しかし楓坂は想定外のことを付け加えた。


「だって男の人の服装を選んであげるのって、いい感じで優越感に浸れるじゃないですか。まるで所有物にしてしまうみたいで……。すてきっ」

「てめえ……。男が聞きたくないことをサラッと言うなよ……」

「他の人にはこんなことしませんよ。うふふ」

「その言葉にプレミアム感がないんだが?」


 そうだよ。

 これが楓坂という女じゃないか。


 清楚なように見えて、常にマウンティングしようと仕掛けてくるトラブルクリエーター。

 初めて会った時から変わっていない。


 結局、楓坂は俺をオモチャていどにしかみてないのだ。


 くっそぉ……。

 一瞬でもデートと思った俺が甘かった。


 そこへ店員がやってくる。


「お客様。ご注文はいかがいたしましょうか」


 せっかくだし、このカフェのオススメを頼むか。

 しかし、店員にオススメはどれかと聞くと大抵は「全部オススメですよ」と返ってくる。


 メニューをガン見して選ぶのも面倒だし、ここは楓坂に合わせよう。


「俺は楓坂と一緒のものでいいぜ」

「横着ですね」

「おまえのセンスを信頼しているんだ」

「本当かしら」


 ぶっちゃけ、楓坂が俺のことを男としてみていないとわかって肩の力が抜けた。


 今だからこそわかるが緊張していたようだ。

 なんだかんだ言って、俺もちょっとは期待していたというわけか。

 女子大生に振り回されるなんて情けない大人だぜ。


 しばらくして店員が注文した品を持ってきた。


「お待たせしました。エスプレッソ、二つです」


 楓坂が頼んだ品はエスプレッソだった。

 表面にはクリームでラテアートが描かれている。


 たぶんハートは楓坂だから、クマさんが俺か。

 二十六歳になってクマさんのラテアートを飲むとは思わなかったぜ。


 すると楓坂はクマさんとハートが描かれたエスプレッソを並べて撮影し、画像を俺のスマホに送ってきた。


「ん? なんでラテアートの画像を送ってきたんだ?」

「ふふふ。記念ですよ、クマさんにそっくりな笹宮さん」

「まさかラテアートを使ってからかってくるとは……」


 ったく、なんで俺がクマさんで楓坂がハートなんだよ。


 しかも楓坂のやつ、妙に嬉しそうだし……。

 やっぱり、女心はわかんねえぜ。



■――あとがき――■

☆評価・♡応援、いつもありがとうございます!


ラテアートを並べて遠回しの告白!!

キャー!(//∇//)


次回、楓坂とお買い物!

ラブコメのおかわりはいかがですか?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。o(*'▽'*)/☆゚’

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