8月13日(木曜日)楓坂とデート(お買い物)


 楓坂とデートをすることになった俺は、駅ビルの中にある洋服店にいた。


 隣にいる楓坂は楽しそうに俺の服を選んでいる。


「これとかどうですか?」

「俺にはちょっとカジュアルすぎないか?」

「どうせ笹宮さんのことですから地味系ばっかりでしょ。こういったアイテムも持っておいた方がいいですよ」


 こうして普通の会話をしていると、彼女がトラブルクリエーターだということを忘れそうだ。


 最初は俺の事を不審者だと思っていたから攻撃的だったが、今はお互いに理解し合える部分も多くなった。


 もしかしたら、今の彼女が本来のスタイルなのかもしれない。

 そろそろ警戒しなくてもいいかもな。


「あ! 見て、笹宮さん! あそこに大きなピエロの人形があるわ!」

「本当だ。つーか、派手なくせに不気味だな……」

「かわいい」

「俺の感想を聞いていたか?」

「笹宮さんにあの衣装を着せてあげたい……。売ってくれるかしら」

「絶対に着ないからな」

「ちらっ」

「そんな目で見ても着ないからな」


 この女、やはり油断できん……。

 やっぱり警戒しておこう。



 服を購入し、俺達はぶらぶらと駅ビルの中を歩いた。


 この駅ビルは人気のスポットで展望台もあることで有名だ。

 よくテレビで紹介されていて、以前は行列ができていたと聞く。


 そんな駅ビルということもあって、ファッションフロアもオシャレだ。


 通路を歩いていた時、楓坂は靴屋の前で立ち止まった。


「笹宮さん。靴を見てもいいですか?」

「ああ」


 店内に入った楓坂は、可愛いスリッポンと上品なブーツのどちらにしようかと悩んでいた。


 あくまで俺個人の考えだが、靴を選んでいる時の女性は魅力的に見える。

 なんというか……守ってあげたくなる気持ちをくすぐられるのだ。


 ……って、なにを血迷っているんだ。


 相手は楓坂だぞ。

 そんなことを考えていたら、どんなことをされるかわかったもんじゃない。


 冷静に……冷静に……。

 普段の俺を維持しなくては。


「笹宮さん」

「お……おう! ……なんだ?」


 急に楓坂が振り返ったので、俺は慌てて自分を取り繕う。 


「どっちの靴がいいと思いますか?」

「そうだな……。両方ともいい感じだが、楓坂はどっちが気になっているんだ」

「どちらかと言えばスリッポンのほうかしら……」

「なら、それでいいじゃないか」


 自慢じゃないが俺はレディース物のセンスはまったくわからん。

 こういう時は、いかにして自然に誤魔化すかがポイントだ。


 スリッポンを選んだ楓坂は店内にある椅子に座り、自分の靴を脱いだ。


「笹宮さん。靴……、履かせてください」


 フリフリと足を動かす楓坂。

 ストッキングを履いているとはいえ、足を見られて恥ずかしいと思わないのか……。


「どうして俺が履かせてやらんといかんのだ」

「だって靴の試し履きって、商品が傷つけないようにしないといけないから緊張するじゃないですか」


 まあ確かにそれはわかる。

 それに椅子に座った姿勢で靴を履く時、前かがみになるのが辛いという女性もいるだろう。


「ふぅ……。仕方がないな」

「ふふふ」


 両手の指を合わせて嬉しそうに笑う楓坂は、上半身をコミカルに揺らして上機嫌をアピールしている。


 靴を履かせてもらうことの何がそんなに嬉しいのか……。

 まさか……、なにか企んでいるんじゃないだろうな。


 警戒しつつも、俺は片膝をついた。


 その時、楓坂は靴を脱いだ足で俺の膝をいじりだした。


「えい、えい」

「おい、なにをやってる」

「笹宮さんへのご褒美ですけど?」

「偏見がはなはだしい。踏まれて喜ぶ男は一部だけだからな」

「ストッキングを履いていても?」

「当たり前だ」


 どうせまた同人誌のネタを実践しているんだろう。

 踏まれて喜ぶのはドМか変態だけだということを、あとでキッチリ説明しておかないといけない。


「それより靴を履かせてやるんだから、足を動かすな」

「うふふ。優しく触ってくださいね」

 

 慎重に彼女の足に手を添え、できるだけ優しく靴を履かせてやる。


 女に靴を履かせてやるなんて生まれて初めての体験だ。

 それ以前に女性の足に触れるなんて、これが初めてかもしれない。


 いくら俺でもこれは緊張する。


「こうして靴を履かせるシチュエーションって、笹宮さんが私にかしづく家臣みたいで素敵ですよね」

「そりゃどうも。女王様」


 さすが普段は悪役系を演じているだけある。

 常人には理解できないところで満足感を得ているようだ。


 ったく、こっちが恥ずかしいのを我慢して履かせてやっているというのにノンキなことを言いやがって。


 といっても、その本性は純情な普通の女子大生だということを俺は知っているんだけどな。


 ようやく靴を履かし終えた時、楓坂は静かに話しかけてきた。


「ねぇ、笹宮さん」

「今度は何だ」

「将来的に、私とお付き合いしませんか?」


 ……。

 ……。

 ……え?



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、急展開の告白! 二人はどうなるのか?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。

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