6月8日(月曜日)クレープ
公園のベンチに座り、俺はスーツ姿を気にせず食後のクレープをほおばった。
そして隣に座る後輩の
お得意先の会社で打ち合わせした後、俺は音水と一緒に遅めの昼食を食べていた。
すでにコンビニ弁当を食べたのだが物足りなさを感じたため、すぐ近くにあった店でクレープを購入したのだ。
音水は上機嫌で話しかけてくる。
「んっふふ~♪ 営業帰りに食べるスイーツは格別ですねぇん」
「クレープなんてめったに食べないけど、なかなかうまいな」
極限まで腹が減っていたからなのか、弁当を食った後だというのにクレープが美味しく感じる。
やはり疲れた時は甘いものに限るな。
「笹宮さんのクレープ。フルーツ多めで美味しそう」
急に音水が声を掛けてきたので横を見ると、いつのまにか距離を詰めていた。
俺の腕に彼女の肩が当たっていたので、少し距離を取る。
すると、音水は距離を詰める。
仕方がないので、もう少し距離を取る。
だが音水はさらに詰める。
キラキラ輝く音水の瞳から察するに、俺のクレープに興味深々なのだろうか。
しかし……本当に恥じらいとかないよな。
俺なんて一緒にベンチに座ってるだけでも気にしてしまうのに。
まあ、教育係の俺がそんなことを考える時点でおかしいのだが……。
このまま逃げるとベンチから落ちるので、話を進めることにした。
「食うか?」
「え!? いいんですか!」
クレープを差し出すと、なぜか音水は顔を赤く染めた。
食い意地が張っているように思われたと考えて恥ずかしくなったのだろうか。
うーん。
こいつの思考パターンがイマイチ読めん。
「食いかけでよければだが、どうする?」
「でもそれって……、ううん。じゃ……じゃあ、ちょっと恥ずかしいけど一口」
音水は耳に掛る髪を抑えながら小さな口でクレープにかじりつく。
なんだか餌付けしているような気分だ。
もし音水を動物に例えるなら、猫……? 犬……じゃないな。ん~、うさぎか。
しかし、こういう状況に優越感を得てしまう俺は性格が悪いのかもしれない。
いかん、いかん。
音水は大切な後輩なんだ。
こんなことを考えてはいけない。
今は餌付けを……じゃない。クレープを持っておいてやらないとな。
そんな時、音水はチラリと上目遣いでこちらを見る。
食べている最中に見られるとは思わなかった俺はビクリと体を震わせた。
たまに音水は独特の視線を投げかけてくる。
いつもグイグイくるのに、こういう時だけ急に静かになるのだ。
特に他意はないのだろうが、音水の何かを訴えるように見つめてくる行動に慣れることはない。
俺のクレープを食べた音水は、唇を隠しながらも幸せそうに顔をほころばせた。
「んっふふ~、おいひぃ~♪ フルーツの酸味と甘みが溶け合って、私の中に入ってきますぅ~」
「……よかったな」
なんだろう……。
音水の視線にビビったせいか、自分が食われてるような気分だ。
よくわからない敗北感を抱きつつ再びクレープを食べようとした時、今度は音水がクレープを差し出してきた。
「あの!」
「ん?」
「私のも食べますか?」
音水が食べているのはスポンジ生地と苺が入っためずらしいクレープだ。
男の俺でも興味を引くものだが、女性が食べているスイーツを食べるのはさすがに気が引ける。
「音水の分だろ。 俺が貰っていいのか?」
すると音水はいじけたような表情になり、視線を逸らした。
「私も……その……食べて欲しいかなって……」
ふむ……。さっきのお返しということか。
それなら是非もない。
実を言うと、音水のイチゴ&スポンジクレープが気になっていた。
「じゃあ、一口もらうよ」
そういって俺はクレープの方へ手を伸ばした。
しかし、音水はサッとクレープを上にあげる。
「だめですよ。私が笹宮さんに食べさせてあげるんです」
「……。……。はぁ?」
こいつ、なに言ってんだ。
まさか俺に対して餌付けシチュエーションをして楽しむつもりだというのか。
たしかにその優越感は理解できる。だが……。
「えーっとだな、音水。休憩中とはいえ、いちおう仕事中だから人目というものがあってだな……」
「さっき私は食べさせてもらいました」
「男がやるのと女がやるのでは、状況が違うだろ」
「大丈夫ですよ。恥ずかしいのは一瞬です。はい、論破っ♪」
「してねーよ」
それから上手く誤魔化して餌付けシチュエーションを回避したが、しばらく音水はふくれっ面を作っていた。
やれやれ……。
また、信頼強化の方法を考えなくては……。
■――あとがき――■
沢山のフォロー・☆評価・応援、ありがとうございます!
感激で泣きそうです!!
これからも、よろしくおねがいします。(*'ワ'*)
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