帰還者
HK15
帰還者
ノックの音がした。
彼は目を覚ました。寝ぼけまなこをこすり、あたりを見回す。暗かった。サイドテーブルの時計を見た。午前2時。
いったい誰だ。こんな時間に。
苛立ちを込めて、寝室のドアに向かい声をかける。
「誰だ。何の用だ」
「少佐。少佐どの」ドアの向こうから声が聞こえた。「わたしです。第七中隊B小隊の──です」
何となく聞き覚えのある名前だった。しかし、思い出せない。頭がまだはっきりしないのだ。彼は唸り、尋ねた。
「何の用だ。こんな時間に。時と場合をわきまえろ」
「報告をしに参りました。帰還報告です。わが隊はどうにか全員帰還いたしました」
そんなことをわざわざ言いに来るな、と彼は思う。だいたい、おれが軍を辞めて何年経つと……。
え?
「おい。なんでわざわざ報告……」
「我々は帰還いたしました」ドアの向こうから声が聞こえる。「どうしても報告せねばなりません」
徐々に意識が明晰になる。第七中隊B小隊。作戦ミスで全滅した。戦時中のことだ。敵の勢力を見誤った結果だった。さっきの名前に聞き覚えがあったのも道理だ。そのときの現場指揮官の名前なのだから。小隊と運命を共にした。
作戦の責任者は──おれだ。
では外にいるのは。
彼は震え出す。
「おい、待て」
「失礼いたします」
「よせ! 入ってくるな!」
彼は絶叫した。
ドアは音もなく開いた。
帰還者 HK15 @hardboiledski45
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