第124話:マジックバーに行こう①
「マジックバーに行ってみたいです」
ある日の昼休み。
ルカが突然そんなことを言った。
マジックバーか。
客のすぐ目の前でテーブルマジックを見せてくれるお店らしい。
テレビでたまにテーブルマジックを見かけて、俺もすっごく興味を持ってたんだよなぁ。
「マジックばあ? ねえねえ、ルカたん。なにそれ?
手品するお婆さん?」
「違いますよほのか先輩。マジックを見ながらお酒を飲めるバーのことです」
「え……? あ、ああ。
この焦り方。どう見ても本気で勘違いしてただろ。
神宮寺所長もくすくすと笑いを噛み殺してる。
「どうです、ほのか先輩。一緒に行きませんか?」
「マジックかぁ。言うほど興味ないなぁ」
ほのかはそうなのか?
すごく面白そうなのに。
「俺は興味あるよ。ぜひ行きたいな!」
「はい! じゃあ今度行きましょう」
「あ……っ!」
「どうしたんだ、ほのか?」
突然大きな声出すなよ。
びっくりするじゃないか。
「思い出した! あたしもマジック、興味あるんだった! あたしも行く〜」
なんだよ。自分が興味あることを忘れてるって、そんなことあるか?
ほのかって相変わらず変なヤツ。
「はい。じゃあ一緒に行きましょう」
変なツッコミもせずにニコニコしてるルカって、やっぱいい子だ。
「麗華所長も一緒にいかがですか?」
「面白そうね。行きたいわ」
そんなわけで、四人揃ってマジックバーに行くことになった。
***
週末。マジックバーに行く約束の日。
マジックバーはツマミくらいしか食事メニューがないらしく、ファミレスで軽く夕食を取ってから目的の店に向かった。
その店は飲み屋街の一角にあるビルに入っていた。
「まあでもマジックって言ったって、こんな小さなバーでやってる手品師でしょ。きっと大したことないよねぇー」
「いえ、かなり上手いらしいですよほのか先輩」
「ううん、あたしは絶対に騙されないよ。じゃあ、あたしがタネを見破ってやる!」
ほのかよ。そういうのはフラグにしか聞こえないからやめとけ。
おっちょこちょいのお前が盛大に騙されまくる未来が俺には見える。
扉を押して中に入る。
こんな店は初めてで、どんな怪しげなマジシャンがいるのかと、ちょっとドキドキする。
「いらっしゃいませぇー」
うわ。赤いスーツに青いネクタイ。
鼻ひげ生やして、マリオみたいなオッサンだ。
どうやらこの人がマスターみたい。
店内はカウンターとテーブル席があって、一見普通のバー。
だけど壁にはトランプなど、よくわからん小道具が飾ってあって怪しげな雰囲気。
俺たちは並んでカウンター席に座った。
ルカとほのかが真ん中の席。
二人を間に挟んでルカの隣に俺、ほのかの隣に神宮寺所長が座る。
ドリンクを注文して、しばらく四人で飲みながら雑談をしていた。
「じゃあそろそろ始めますよ〜」
カウンターの中に立ったマスターが、手品をやり始めた。
すぐ目の前で実演される手品。
ワクワクする。
他のみんなもマジシャンの説明に興味津々な顔してる。
「はい、ここに小さな箱があります。そこのすっごく可愛いお嬢さん。蓋を指でちょんと押してみて」
マスターは手のひらに乗せた箱を指差して、ルカにそう言った。
ルカは恐る恐る指先で、箱の蓋をチョンと押す。
──ピキューッ!!
突然変な音が鳴って蓋が開き、何か飛び出した!
「きゃぅっ!」
びっくりしたルカが俺の首に抱きついてきた!
「はい、ピエロのお出迎えで〜す!」
飛び出たのは、小さなピエロの人形だった。
そりゃびっくりする。
「あ……す、すみません凛太先輩」
「いや、いいよ。誰だって驚く」
えっと……まだルカが首に抱きついたままなんだけど?
よっぽど驚いて、固まってしまってるのかな。
「あ、すみません」
ようやく離れた。
ルカは顔が真っ赤だ。
「いいよいいよ。気にすんな」
飛び出たのが人形だとわかってからでも、5秒くらいは抱きつかれてたな……
「ズルぅい……」
突然ほのかが不満げに呟いた。
なにがズルいんだ?
「あ……ほ、ホントですよねほのか先輩。まさか手品でこんなイタズラがあるとは思いませんもんね。ズルいです」
「そ……そうだよね……」
なるほど、確かにズルいな。
「手品師は騙すのが仕事ですからなぁ、アッハッハ!」
さすがだ。マスターのセリフに、神宮寺所長も含めて全員がドッと笑った。
「さあ、いよいよ本格的な手品を始めますぞ」
それからマスターはトランプやコインを使ったマジックを披露してくれた。
使うものはシンプルだけど、やってることはかなり高度な技術を使ってるのだろう。
テレビで見たような、驚くような手品をいくつも見せてくれた。
不思議な現象が目の前で繰り広げられるのはもちろん面白いんだけど、みんなのリアクションもまた面白い。
ルカは「へえー」「ふぅーん」と感心しきり。
興味津々に瞳を輝かせる姿が少女のようで可愛い。
いつも冷静な所長は「わっ!」とか「えっ!?」と大きな声を出して驚くのが意外だ。
美人ってびっくりする姿もセクシーなんだと気づいた。
だけどやっぱりダントツ面白いのはほのかだな。
「ほええーっ!?」とか「ふわぁっ?」とか、奇妙な声を上げて驚いてる。
大したことないって言ってたのはどこのどいつだ?
そんなほのかを見て、所長とルカも大笑いしてる。
あはは。楽しいなコレ。
そのうちあまりにもタネがわからないからか、ほのかは眉間に皺を寄せて唸り始めた。
「うううぅぅぅ……」
「どうだほのか。タネは見破れたか?」
「ままま、待ってよひらりん! もうすぐ……もうすぐ見破るからっ!」
「さっきからずっとそう言ってないか?」
「次は大丈夫だからっ! 絶対に見破ってやるぅ!」
そんな強がりを言うほのかに、マスターはなぜかにやりと笑った。
「わかりました、綺麗なお嬢さん。ではとっておきのマジックをお見せしましょう」
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【読者の皆様へ】
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