第119話:美女たちそれぞれの気持ち③(麗華の独白)
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平林君が志水営業所に赴任してから4ヶ月が経った。
業績低迷のテコ入れとして、若くて誠実で前向きな人物を送り込むと営業部長に言われたのが彼。
最初に会った時は、確かに真面目そうだけど不器用そうだし、そこまで仕事ができるとは思えなかった。
だけどこの4ヶ月で、営業所の成績は大きく改善した。
『このままでは志水営業所は閉鎖だ』
営業本部からそう言われた危機的状況は既に脱した。
あと二ヶ月の成績次第では、過去最高の通年売り上げを上げるというところまで回復している。
これは明らかに彼のおかげ。
いつも周りの人のことを考え、諦めずに熱心に取り組む。その人柄と行動が、周りの人達の行動をも変えている。
ほのちゃんもルカちゃんも以前より明るく前向きで行動的になったし、さらに言えば二人とも優しくなった気がする。
そう言う私だって……
以前の私はライバルに負けたくない、女だと見下す男に負けたくない。業績をあげたい。人には弱みを見せたくない。
そんな気持ちが強かった。
それが空回りして所内がギスギスしたり、逆に厳しく言えなかったり。
そのせいで所員のモチベーションが上がりきらなかったのが事実。
私の学生時代は、成績はとても優秀だけど自分の世界に入り込んで、他人を見下すタイプばかりが周りにいた。
社会人になってからは自己保身第一の者、周りを競争相手としか捉えない人、そもそも仕事にやる気がない人や頼りない人が多かった。
それと私を女だからと見下すか、身体目当てで近づく男たち。
そんなタイプばかりで、人としても男性としても魅力を感じる人は皆無だった。
まあ私は一生独身なんだろうなぁ……なんて思っていたのよね。
だけど平林君は、今まで周りにいた誰とも違った。
最初はちょっと頼りないかなと思ったけど、考え方はすごくしっかりしてるし、行動力もある。
頭がキレるタイプじゃないけど、諦めない気持ちが最終的にはベストな解決策を導く。
その結果、自分の営業成績はもちろん、周りの成果までをも向上させてしまった。
私自身もモチベーションが上がったし、仕事に対する姿勢も変わった。
単なる勝ち負けや売り上げを求めるんじゃなく、どうすれば相手が喜ぶのか、物事の本質はなんなのか。
そんなことに、今まで以上にしっかりと目を向けるようになった。
それに──頼り甲斐があるところが男らしくて、異性としてもとても魅力的な人だと思う。
部下を異性として見るなんて言語道断だけど、彼となら付き合いたい……そう思ったのは事実。
だけど営業所のことを考えると、抵抗があった。
彼は上司と部下の恋愛はあり得ると言ったけれども、そう簡単に割り切ることはできない。
それにしても……やっぱり私は深く酔っ払ってはいけないわ。
ついタガが外れて、危うく平林君と一線を越えるとこだった。彼の理性のおかげで、越えることはなかったけど。
ある意味素敵な男性とお付き合いをするチャンスを逃してしまったとも言えるね……あはは。
でも今となって思えば、それでよかった。
もしもあの時一線を超えていたら、今の営業所のいい雰囲気は保てなかったと思う。
なぜならきっとほのちゃんは、そしてもしかしたらルカちゃんも……平林君に想いを寄せているから。
ほのちゃんなんか、今まで『男はアクセサリー』くらいに思ってるんじゃないかってくらいだった。
だけど平林君には、最初の頃こそつっけんどんだったけど、今は間違いなく親しみを持ってる。
仕事のパートナーとして信頼もしてるみたい。
それどころか、彼女が平林君を見る目は……恋する乙女のそれだ。
私にはそう見える。
ルカちゃんは、ほのちゃんほどあからさまじゃない。
だけど今までどんな男性の話が出ても『高校時代の憧れの先輩に
平林君に接する時の彼女は楽しそうと言うか、照れてると言うか……時々ふにゃりとした姿を見せることもある。
もしも二人ともが平林君に惹かれてるとしたら。
どちらの恋も応援はしてあげたい。
ましてや私が部下の恋路を邪魔するなんて権利はない。
だけど私がうまくコントロールしないと、三角関係になったら二人の仲は崩壊するし、営業所の危機だ。
平林君が誠実で常識人なのが救いではある。
二股をかけて泥沼化するなんてことは考えにくい。
でも万が一、二人の間に挟まれて平林君が苦労するのも避けたい。
それが私が素敵だと認めた彼への、せめてもの愛情。
とにかく私は自分のことはさておいて、バランサー役に徹するしかない。
それが一番の年上で、管理職である私の役割だと思う。
そうして営業所内の和を保って、そしてしっかりと業績も上げていこうじゃないの。
あと二ヶ月で終わる今期、過去最高の成績で終えて見せようじゃないの。
なにがなんでも、この愛すべきメンバーたちの営業所を崩壊させるわけにはいかないのだから。
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