第93話:3人の美女にツッコまれる凛太

 スマホの通話を切って、ふと顔を上げると、女性陣三人がいつもよりも真剣な顏で、俺をじっーと見つめてた。


 3人の眼差しに、なぜか背筋がぞくりとした。

 なんだかちょっと怖い……

 3人ともそんな視線だ。


 なぜだろうと一瞬考えたが、すぐに答えに行きついた。

 それだけ3人とも、真剣にヒューマンリーチ社の情報を気にしてるってことだ。

 凜さんとの電話中は、仕事でも違和感のない言葉だけを選んで喋った。だから食事とかプライベートな話をしていることには、誰も気づいていないはずだ。


「あ……今日は採用担当者が二人とも出張だったので、また明日ヒアリングしてから連絡をくれるそうです」

「そう。わかったわ」


 神宮寺所長はいつものクールな顔つきでうなずいた。

 しかし横からほのかが、突然怪訝そうな声を出した。


「ひらりんニヤニヤしてるけど、なんかいいことあった?」

「え? べ、別に何もないけど。ニヤニヤなんかしてないだろ」


 ヤベ。凜さんとの電話が楽しく感じて、思わず頬が緩んでたか?

 ほのかのジト目にちょっと焦ってしまう。


「いえ、ニヤニヤしてましたよ、凛太先輩」

「え……?」


 なんと。ルカにまで鋭いツッコミをされてしまった。

 いつもほのかには鋭いツッコミを入れてるルカだけど、俺にそんなツッコミをしてくるのは珍しい。

 淡々とした口調がかえって怖いんだけど。


「そうね。私もそう思う」

「へ?」


 まさか神宮寺所長にまでそんなことを言われるなんて。

 しかも半目で鋭い視線。


 3人全員から冷ややかな態度が飛んでくるなんて。

 まさに四面楚歌。

 これは……めちゃくちゃヤバいんじゃないかっ!?

 志水営業所赴任以来、最大のピンチ到来だ。


 ……いや。

 女性の扱いにまったく慣れていない俺が、今まで彼女たちから冷ややかな態度を取られなかったのが、むしろ奇跡だったのだ。とうとう来るべきものが来た、ということかもしれない。


「プッ……冗談よ平林君。そんな青ざめた顔しなくてもいいわよ。やっぱりキミは真面目ね」


 ──え?


「あ……冗談ですか。所長も人が悪い。皆さんに気を悪くさせてしまったかと、だいぶ心配しましたよ」

「まあ睨んだのは冗談だけど、平林君がニヤニヤしてたってのはホントよ」

「あ、すみません」

「別に非難してるわけじゃないって。楽しそうに電話をするのは、営業としてはいいことだからね。ねぇ、ほのちゃん」


 所長から急に話を振られたほのかが、ぴくんと肩を震わせてこっちを見た。

 何か迷うような顔つきで、二、三度口を開けては閉じてからようやく言葉が出る。


「え? あ、ああそうだね。営業としてはね。まあ許してあげようじゃないか、あはは」


 なんだよ、許してあげようって?

 俺、許してもらわなきゃいけないほど、ほのかに悪いことしたか?


 営業の電話でちょっと頬が緩んでいただけなのに。

 真面目な所長とルカならともかく、いつもふざけてるほのかにそこまで言われるのはちょっと腑に落ちない。


 ──ルカはどう思う?


 そんな気持ちで、助けを求めるようにルカの顔を見た。

 するとルカはなぜか俺の顔をジーっと見ていた。

 メガネの奥の美しい目が、今は無表情でなんだかとても怖い。


 ──えっと……


 ルカならほのかに、面白おかしくツッコミを入れてくれるかと期待してたのに。

 思いのほか、ルカ様もご立腹なのだろうか。


 やっぱ女性と話してニヤニヤするのは、女性目線からしたら良くないのかも。

 すごく女好きなスケベ男なのだと誤解されたのかもしれない。

 今後は気をつけよう。


「あの……ルカ?」


 恐る恐る声をかけたら、ルカはハッとした感じで笑顔を浮かべた。


「あ、すみません。ちょっと考え事をしてただけですよ。気にしないでください」


 いや、あの……気になるんだけど。


「確かにほのか先輩が言うような、許すとかそんな問題じゃないと思います。だから凛太先輩。そんな困った顔をしないでくださいね」


 ──あ。ルカはふわりとした笑顔を浮かべた。


 さすが正統派美少女。その笑顔がすごく可愛いし、そしてこの張り詰めた雰囲気の中でとても癒される。


「あ、ルカたん。自分だけいい子になってずっるぅーい」

「なに言ってるんですか。私はいつだっていい子ですよ」

「なに言ってんのよ、ほのちゃん。この中で悪い子はほのちゃんだけでしょ」

「ええーっ!? 所長までそんなこと言うっ? ひっどぉーい!」


 ほのかは両手を腰に当てて、ぷっくり頬を膨らませている。

 子供のようないじけた表情と、子供らしくない大きくてぷるんとした胸。

 うん。これはこれでほのからしくて、可愛くていいか。


 ほのかのふてくされたリアクションに所長とルカが爆笑して、一気にいつもの楽しい営業所の雰囲気に戻った。

 やっぱりこのメンバーは三人三様だけど、みんな明るくて優しくて魅力的でいいよな。ありがたい。


「まあとにかく。平林君は既に色々と情報を得てくれたけど、氷川さん始め協力者もたくさんいるし、引き続き情報収集をお願いするわ」


 ふざけた雰囲気を一転させるように、所長が引き締まった声を出した。

 俺も表情をピリッと引き締めて答える。


「はい、わかりました」


 そんなやり取りを横で眺めていたほのかが、ちょっと悔しげな顔で、突然意外なことを言い出した。


「あたしも頑張らなくっちゃ。いつもひらりんに頼ってばかりだもんね」

「いや別にそんなことないって」

「そうだなぁ……直接、勝呂すぐろさん達にアプローチして探り入れよっかな」

「え?」


 ほのかの爆弾発言に、所長もルカも俺も。

 そこに居た全員がフリーズした。

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