第63話:ショットバーで男子会?

 俺の同級生と職場メンバーの飲み会はこんな感じで、終始俺の話が中心となってしまった。

 お互いを結びつけるのが俺なので、それはまあ仕方がないと思う。それに大いに盛り上がってくれたのは、俺としても嬉しい。


 そしてあっという間に時間が過ぎ、この次はどうするかという話になった。


 戸塚は「まだまだ美女と一緒に居たい」などとほざいた。

 しかし二次会にまでこのメンバーで突入したら、営業所のメンバーに迷惑をかけそうだったので、中島と話をして、女性陣とはここで別れることにした。


 つまり同級生3人だけで二次会に行くということだ。

 女性陣は3人とも、今日はこのまま帰るらしい。


「じゃあね。私たちはこれで帰るけど、飲みすぎて帰れなくならないようにね」


 所長は今日は部外者がいたからか、珍しくほとんど酔っていない感じだ。

 飲み会終わりのこんなまともな所長の姿を見るのは初めてだ、あはは。


 上司として、親のような気持ちでそう言ったのだろうけど、『それはあなたですよ……』なんて思ったことは、心の内に秘めておくことにする。


「じゃあねー お先っ!」

「ではお先に失礼します。お気をつけて」


 ほのかはシュタっと手を挙げて、ルカは律儀に頭を下げて、駅の方に向かって歩いて行った。

 そして俺たち男性陣は場所を変えて、裏通りにある小洒落たショットバーに入った。

 俺を真ん中に、カウンター席に3人並んで座る。


 戸塚も酔いが落ち着いたのか、さっきまでみたいなハイテンションは収まっている。

 ハイボールのグラスを片手にからんからんと音を立てながら、ちょっとしみじみした口調で語りかけてきた。


「ひらりんさあ……」

「ん?」

「お前、営業所の皆さんに愛されてるなぁ」

「愛されてる? そうか?」

「ああ、そうだよ。お前、相手にされてないなんて言ってたけど、きっと彼女たちからの好感度高いぜ」

「あ、それな。俺もそう思う」


 横から中島も同意してきた。


「だって小酒井さんは『ひらりん』、愛堂さんは『凛太先輩』だぜ、呼び方。お前はほのかとかルカとか、名前呼びしてたし」

「ああ……あれはさ。それこそルカが、俺が早くみんなに溶け込めるようにって、提案してくれたんだよ。そのための単なる手段であって、俺への好感度とは関係ない」

「ふぅーん……そうかな?」


中島は納得しかねるという感じで首を傾げた。


「単なる呼び方だけじゃなくてさ。その、なんていうか……うまく言えないんだけどさ。彼女たちのひらりんに対する口調とか態度とか、それが親しげだし好感度が高いと思うんだよな」


 確かに彼女たちは、とても好意的に俺と接してくれている。それは俺も感じている。

 でもそれは──


「ああ。ありがたい話だよ。でもそれは仕事仲間としての話だろ?」

「うーん……どうかなぁ? それは俺にもわからない」


 中島は苦笑いした。そこへ横から戸塚が割り込んできた。


「まあ、そうかも知れないけどさあ。最初はひらりんに、ぜひ彼女たちを俺に紹介してくれーとかお願いしようと思ったんだよ。だけどひらりんの好感度が高そうだから、言うのをやめた」


 戸塚はあははと笑ってから、話を続ける。


「ちなみに俺は、小酒井さんがいいなぁ。明るくて楽しくて、アイドルみたいに可愛い」

「なるほどな。明るい性格の戸塚らしいな」


 今日のほのかは、さすがに社外の人相手だったからか、突拍子もない言動は封印していた。

 そんな感じだと、やっぱり明るくて可愛いから、戸塚の言うのもわかる。


「あ、俺は愛堂さん推しだっ!」


 戸塚に対抗するように、中島が急に言葉に力を入れて、人差し指まで立ててアピールしてきた。


「ああいう、ちょっとクールで控えめなタイプ。だけどすっごく整った美人。きゅんきゅん来るよなぁ!」

「えっと……お前ら。それはやっぱり、彼女たちを紹介してほしいっていうアピールか?」


 俺が焦ったら、二人は声を合わせてゲラゲラと笑った。

 そして戸塚が俺の肩をバンバン叩く。


「いやいや違うよひらりん。元々彼女たちはレベルが高すぎて、付き合えるなんて思っていない。それにさっき言ったように、お前の愛され方を見たら、そんな無粋なお願いはしないよ。単に芸能人の誰が良いかっていうのと同じだと思ってくれ。なあ中島。お前もそうだろ?」

「ああ、そうだ。でもあんな美女たちに囲まれて、しかも好感度が高いなんて……ひらりん、お前が羨まし過ぎるぞ!」

「あ、ああ。ありがと……」


 なんと答えたらいいのかわからなくて、取りあえずお礼を言っておいた。


「──と言うことで、ここはひらりんの奢りな!」

「ああ、ひらりんの奢りだ!」


 元々今日の飲み会は、二人に加賀谷製作所さんの件のお礼をするのが主旨だ。

 俺は一次会から奢ろうと思っていたけど、所長が会社の経費で出してくれた。

 だからここは俺がお金を出すつもりで来た。


「もちろんだ。お前ら二人には、ホントに感謝だ。ありがとうな」

「いやいや、俺たちこそ礼を言うよ。今日は滅多にできない色々な経験ができて楽しかったし」


 戸塚は爽やかに笑った。

 それを茶化すように中島が言う。


「色々な経験な……ナンパでフラれて、チャラ男らにバカにされて、でも留飲を下げたりな」

「中島ぁ……もうそれを言うなって……」


 戸塚は情けない顔で中島を睨んだ。

 そのやり取りが可笑しくて、俺はゲラゲラと笑ってしまう。


「それよりもあんな美女たちと飲めたってのが、一番だよ。一生の思い出になる」

「そりゃ、大げさだろ」


 さすがに俺も突っ込んだが……

 横から中島も言葉を挟んだ。


「いやいやひらりん。大げさじゃなくて、ホントにそうかもよ」



 確かにあれだけの美人3人と飲む機会なんて、一生の内に他にはあり得ないかもしれない。そう言う意味では、俺の環境は最高に恵まれていると言える。


「いやいや、今日はホントに楽しかった! ひらりん、中島、また飲みに行こうぜ!」

「ああ、そうだよひらりん」

「おう。俺もまた行きたい」


 こうやって、また飲みに行こうと言ってくれるのはホントに嬉しい。俺たち3人は、がっちりと握手をしてこの日の飲み会はお開きとなった。




========

【読者の皆様へ】

さて飲み会も終わったところで。

次話から衝撃の(笑)新展開!

お楽しみに。

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