第61話:同級生水いらずがいい?
「ところで中島さんと戸塚さん。今から平林君と一緒に、お食事に行くんですよね。もし良かったら、お礼ということでご馳走しますので、私たちもご一緒していいですか?」
「えっ……? ええぇぇぇっ!?」
所長のいきなりの提案に、戸塚がムンクの叫びのようなポーズで叫んだ。
そう言えば戸塚はさっき、やっぱり同級生水いらずの方がいいって言ってた。だから所長たちが同席するのを、たぶん嫌がっているんだな。
「あ、所長すみません。コイツら、同級生だけで飲みたがってるんで……」
「あら、そうなの。残念ねぇ……」
「ちょちょちょ、ちょい待てひらりん! お前はせっかくの上司様のお申し出を、お断りするのか!? そんなおそれ多いことを言うんでないわっ!」
戸塚。お前は時代劇役者か?
なんだよその口調は?
「いや、戸塚。だから神宮寺所長はそんな堅苦しい人じゃないから大丈夫だって。さっきお前が、同級生水いらずで飲みたいって言ってたからさぁ……」
「あ……いや、前言撤回だ。ひらりんがどんなお仲間と普段仕事をしているか興味があるから、ぜひご一緒したい。なあ中島。お前もそう思うだろ?」
「えっ……? ああ、そうだ。そのとおりだ。俺も激しく同意する!」
ありゃ?
なんか変な展開になっちまったな。
「じゃあみんなで行きましょう。ほのちゃんもルカちゃんもいいよね?」
「うん、まぁねー」
「はい、もちろんです」
──そんなこんなで、なんと戸塚、中島と、営業所のメンバーが一緒に飲みに行くことになってしまった。
所長達が行こうとしていた居酒屋に行くことになって、歩いて移動している時に、戸塚と中島がさりげなく俺の左右に寄ってきた。そして戸塚が耳打ちをしてくる。
「ひらりん、すげえメンバーだな。全員超絶美人じゃないか」
「ああ、そうだな」
それは否定しようもない事実だ。
「で、ひらりんは、あの3人のうち誰が好きなんだ?」
「えっ……?」
誰が好き?
3人とも個性があって、それぞれとても素敵な人たちだ。
俺は女性陣に聞こえないように、小さな声で戸塚に答えた。
「いや、まあ……3人とも好きだよ」
「ひぇぇ~全員を好きって、お前ハーレム作る気かよぉ?」
「ハーレムなんて作るかよっ。人として、職場の同僚としての意味合いだよ」
「そうなのか? でもあれだけ美人が3人もいたら、誰かを好きになってもおかしくないだろ?」
「いや待て戸塚。俺が彼女たちの彼氏になれると思うか?」
「思わない」
「即答かよっ」
思わないなら、そんなこと訊いて来るなよ。
中島が俺と戸塚のやり取りを聞いて、横でくすくすと笑った。
「そりゃそうだな、ひらりん。残念だけどな」
「あはは、わかってるよ。彼女たちはレベルが高すぎて、恋愛対象としては俺なんか相手にされない」
はなから期待をしてないから、残念でもなんでもないけど──
なんてやり取りをしていたら、お目当ての居酒屋に着いた。
******
──席について、注文をして、飲み会が始まった。
テーブル席の向かい側に、真ん中に所長、左右にほのかとルカが座る。そしてこちら側には俺が真ん中で、左右に戸塚と中島が腰掛けた。
最初のうちは戸塚も中島も相変わらず緊張でガチガチだった。
しかしお酒が入るにつれて、女性陣3人が気さくな面々だとわかって、彼らも徐々にほぐれてきた。
特に戸塚なんかはバカバカビールを飲んで酔いも回って、もの凄く饒舌になっている。さすが軽やかにナンパする男。舌がよく回る。
「──で、ひらりんのヤツは、その時こんなことを言ったわけですよー!」
「もういいじゃないか、戸塚! 俺の過去の恥ずかしい話は、もうやめてくれ!」
戸塚が高校時代の俺のエピソードを面白おかしく語っている。俺が止めても、戸塚はニヤニヤするばかり。
「へぇ……真面目で熱心な平林君は、その頃から変わってないのね?」
「まあ……そうですかね。あはは」
高校時代のことを言われるのは、なんとも言えず恥ずかしい。だから笑って誤魔化した。
「聞いてくださいよ、神宮寺所長。ひらりんはすっごくいいヤツなのに、真面目で女性に対しては引っ込み思案なもんで……」
──ん?
戸塚のヤツ、何を言うつもりだ?
「まったく彼女ができなかったんすよ、ガハハ」
──いや、ガハハじゃねえ!
なんでそんな恥ずかしいことまでバラすんだよ?
「おい戸塚。そんな話はいいじゃないか。恥ずかしいよ」
「いいじゃねえか、事実なんだし!」
「そりゃまあ、そうだけどさ」
「で、さっき聞いたら、今も彼女はいないらしいんっすよ」
「おいおい、そこまで言うか?」
なんと戸塚は、女性陣の前でそんなことまでカミングアウトしてしまった。
まあルカには言ったことがあるし、事実なんだからいいんだけど……
こうやって大っぴらに言われると、やっぱりちょっと恥ずかしいじゃないか。
「へぇ……そうなんだねぇー、ひらりん」
「ああ、そうだよ」
ほら。ほのかなんかニヤニヤしてる。
きっと、そりゃそうだろねー、なんて思ってるに違いない。
「でも平林君なら、すぐに彼女ができるんじゃない?」
「えっ……?」
なんと。神宮寺所長から嬉しいフォローのお言葉。俺を気遣って、そんなことを言ってくれるなんて。
「そうですよ。凛太先輩なら、きっとすぐにできますよ」
あ。ルカも気を遣ってくれている。
いつもどおりクールな口調だけど、真顔で言ってくれている。
「あ、あ、あ……そ、そうだねー き、きっとひらりんなら、すぐ彼女できるよ。あはは」
──うわ。まさかの、ほのかまで。
他の二人に続いて、苦笑いをしながらではあるけど、まさかほのかがそんなことを言うとは思わなかった。だから俺は腰が抜けるかと思うほど驚いた。
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