第60話:ため息をつくくらいの美女?

 戸塚と中島がため息をついた。

 その視線の先を見ると、我が社の美女三人が一緒に歩いている。


 さすが我が社が誇る美女三人組。

 戸塚と中島がモデルか芸能人と勘違いして、ため息をつくくらいだ。


 スリムなビジネススーツできりりと歩く神宮寺所長は、スタイルも美貌もモデルのように見える。

 背は小さいがゆるふわヘアに小顔でキュートな可愛さのほのかは、胸の大きさも男の目を引く。

 勤務中と違いメガネを外したルカは、クールで整った顔とポニーテールのギャップも可愛い。


 そんな三者三様の、飛び切りの美女たち。

 彼女たちの周りだけなんだか空気が煌びやかに輝いて見えるくらい、遠目からも目立っている。


 でもなんであの三人が、一緒に歩いているんだろ? どこか行くのかな?

 そうか。今日は金曜日だし、もしかしたら三人で飲みに出ようとしているのかもしれない。


 ──あっ、そうだ。


 所長は、戸塚や中島に本当は会って直接お礼を言いたいって言ってたな。ちょうどいいチャンスじゃないか。

 所長たちを呼んで来たら、戸塚と中島に直接話す機会を作れるな。


「あ、俺、声かけてくるわ」


 俺はそう言って、三人のもとに向かって駆け出した。


「お、おい待てひらりん! 気が狂ったのか!? 自爆するつもりかっ!? おい、中島も止めろ!」

「そうだぞ、ひらりん! あんな人たちに声をかけるなんて、正気の沙汰とは思えない! うまくいくわけがないじゃないか!」


 戸塚と中島が訳のわからないことを言っているが、説明している暇はない。早く声をかけないと、三人がどこかに行ってしまう。


 俺はそう考えて、とにかく美女三人のもとに急いだ。


「ひらりーん! 無理だってぇぇぇ!」

「そうだぞ、ひらりぃんー! 戻って来いよ~~~!」


 戸塚と中島の声が、後ろの方で響いている。

 俺はそれを無視して駆け続け、ようやく三人に後ろから追いついた。


「所長、ほのか、ルカ!」


 俺の声に三人は立ち止まって、一斉に振り返る。


「あ、ひらりん。なんでまだこんなとこでウロウロしてんの?」

「ここで同級生達と待ち合わせてさ。色々雑談してたら、時間が経っちゃったんだよ。みんなは?」

「凛太先輩が飲みに行く話をしたから、あれからすぐに、私たちも飲みに行きたくなっちゃったのですよ」

「そうなのか。俺のせいでスマンな、あはは」

「いえいえ。週末ですしね」

「あっ、そうだ所長。加賀谷製作所さんの情報をくれた同級生。あそこにいるんですよ」


 俺は戸塚と中島の方を指差した。

 なぜかアイツら、不安げな顔でこっちをじっと見つめている。


「あらそう。ちょうど良かったわ。直接挨拶するわ」

「そうですね。紹介しますから、あっちまで行ってもらえますか?」

「もちろんよ。行きましょう」


 所長は笑顔で快くそう言ってくれた。


「ねぇルカたん。あたし達も行こうよ」

「はい、もちろんです。ちゃんとご挨拶しましょう」


 三人ともそう言ってくれた。

 気さくでありがたいメンバーだ。


 俺たちが連れ立って二人のもとへ歩き始めると、なぜか戸塚と中島は焦った顔でアワアワし始めた。どうしたんだろ?


 俺たちが歩いていると、途中でさっきのナンパ男達の近くを通った。彼らは三人とも、呆然とした顔でこちらを見つめている。


「おい、マジか。こいつ成功したぞ……」


 成功ってなんなんだ?


「やっべぇよ、この女の子たち。近くで見たら、さらに超絶美人だ……」

「だよな……ま、負けた……」


 負けたってなんだよ。

 ナンパした女の子たちと比べているのか?

 それはその女の子たちに失礼だろ。

 酷いヤツらだな……


 そして俺たちは彼らの横を通り過ぎた。すると後ろから、ナンパされた女の子たちの声が聞こえる。


「なによーアンタら? 失礼じゃない!?」

「あ、ゴメン! 冗談だって」

「冗談に思えないしー! ムカつく! もうウチら、行くわっ!」


 ──あ。

 ナンパ男たちが、フラれたみたいだ。


 別に、俺のせいじゃない……よな?

 あんなこと言ったら嫌われて当たり前だし。


 そんなことを考えながら、戸塚と中島の待つ場所に帰り着いた。戸塚がさっと近寄って来て、小声で耳打ちしてくる。


「おいひらりん。お前、すっげぇな!」

「何が?」


 何が凄いのか、戸塚の言ってることがさっぱりわからない。


「何がって……こんな美女3人組を、いったいどうやって口説いたんだ?」

「口説いた? えっ……? 口説いてなんかないぞ」


 ああ、戸塚のヤツ。俺がこの人たちをナンパしてきたと勘違いしているのかと、ようやく気づいた。


「あ、戸塚と中島。紹介するよ。この3人が、俺が志水営業所でお世話になってる人たちなんだ」

「「そっ……そうなのかっ!?」」


 戸塚と中島は2人で声を揃えて『びっくり仰天!』という顔になった。


「この人が営業所長の神宮寺所長だよ」

「はじめまして、神宮寺です。加賀谷製作所さんの担当もしてまして、この度は中島さんと戸塚さんのおかげで、加賀谷製作所さんの社長とコンタクトが取れました。本当にありがとうございました」


 所長はキリッと背筋を伸ばしたまま、深々とお辞儀をした。


「あっ、いえ、とんでもない! お役にたたた立ててこここ光栄ですっ! ぼぼ僕が中島です!」

「はい! ぼぼぼ僕もそう思いますっ! ととと戸塚ですっ!」


 2人とも直立不動になって、カキコキしたぎごちない動作で頭を下げている。とんでもなく挙動不審な感じになっていて可笑しい。


「あ、戸塚、中島。この人は俺の上司で仕事には厳しいけど、凄く優しくてあったかい人だから、そんなにかしこまらなくてもいいよ」

「そうですよ、中島さん、戸塚さん。もっと気楽にしてください」

「はっ、はいっ!」

「わわわ、わかりました!」


 二人とも、わかったとか言いつつも、ガッチガチに緊張したままだ。まあ初対面だから仕方ないか。


「あたし、ひらりんと同期の小酒井ほのかでーす。よろしくです」

「後輩の愛堂ルカです。この度は大変お世話になりまして、誠にありがとうございました」


 ほのかとルカが、それぞれ性格丸出しの挨拶をする。戸塚と中島は、それにもガチガチに緊張して「よろしく」という声をなんとか絞り出した。


「ところで中島さんと戸塚さん。今から平林君と一緒に、お食事に行くんですよね。もし良かったら、お礼ということでご馳走しますので、私たちもご一緒していいですか?」

「えっ……? ええぇぇぇっ!?」


 所長のいきなりの提案に、戸塚がムンクの叫びのようなポーズで叫んだ。




=== 読者の皆様へ ===

詳しい理由は近況ノートに書きましたが、次話以降、毎日投稿ではなくて2-3日に一度くらいの投稿ペースになるかもです。

カクヨムコンも近づいてきましたし(;^ω^)

毎日楽しみにしていただいている読者様には申し訳ありませんが、ご理解いただけたら嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/users/Ryu---/news/1177354054935143256

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