第47話:吉報
◆◇◆◇◆
〈凛太side〉
翌月曜日。
4人の中で、ルカが一番遅く出勤してきた。
「おはようございます」
「おはよー、ルカたん」
「おはようルカ」
「おはよう、ルカちゃん」
俺たち3人が挨拶を返すと、ルカは一人ひとりの顔を見て会釈をしている。
律儀なルカらしい。
そんな中でも俺に顔を向けた時に、ルカはほんの少し、いつもよりも嬉しそうな笑顔を浮かべたような気がした。
二人だけの秘密──
昨日のルカのいたずらっぽい笑顔とその言葉が頭をよぎる。
ちょっとドキドキしてきた。
やばいぞ俺。
二人だけの秘密と言ったって、それは単に『アニメ映画を観た』ってことなんだから。
あんまり変な意識をするのはやめよう。
それよりも仕事だ。
そう、仕事仕事っ!
そう自分に言い聞かせて、デスクに向かった。
週明けの午前中というのは、休みの間に来ているメールの処理や、所内の連絡事項のやり取りなども多い。
バタバタしているうちに、あっという間にお昼過ぎになった。
そして近くの定食屋で昼食をとってオフィスに戻ったタイミングで、俺の社用携帯の着信音が鳴った。
画面を見ると登録されていない番号だが、この地域の固定電話からかけられている。
「はい、リクアドの平林です!」
『あ、平林さん? 加賀谷製作所の氷川です』
「あ、いつもお世話になります!」
思わず『
俺のそんな返答を耳にしたら、目をひん剥いて驚くだろう。だから冷静にビジネスモードで返答した。
『この前の件ですけど、早速ウチの社長に話をしました。それで、ぜひリクアドさんとお会いしたいと言ってるのですが……』
電話の向こうの凛さんの声が、とても嬉しいことを伝えてくれた。
「ほっ、ホントですか! ありがとうございます!」
──やったぞ!
加賀谷製作所の社長との面談が実現する。
『それで大変申し訳ないのですが、今日、今からお越しいただくことはできますか?』
「今から……ですか?」
『はい。急で申し訳ありません。これを逃すと一週間くらい、社長が時間を取れないんですよ』
「あ、わかりました。しばらくお待ちください」
俺は神宮寺所長に簡単に事情を説明して、今から加賀谷製作所に訪問できるかを聞いた。
「大丈夫よ」
「わかりました」
俺は凛さんに、今からお伺いしますと答えて電話を切った。
「じゃあ、行きましょう所長!」
「あ、うん」
そして俺は、神宮寺所長と二人で急いでオフィスを飛び出した。
◆◇◆◇◆
〈女子side〉
凛太と所長が慌てて出て行った後、急に静かになったオフィスに残されたほのかとルカ。
ほのかは二人が出て行った扉を唖然と眺めて、ルカはそんなほのかの横顔を眺めていた。
ほのかはクリっとした小豆色の目を見開いて立ちすくんでいる。
そしてその表情は、なにかとてつもなく凄いものを目にしたような顔で、感心したように独り言を呟いた。
「加賀谷製作所の社長とアポが取れたって……ま、マジ? ひらりんすっごい……」
「凛太先輩、カッコいいですね」
ほのかの横からルカがそう言うと、ほのかは呆然としたまま返事を返す。
「うん。そ、そうだね……」
「あ、ようやくほのか先輩も認めましたね。凛太先輩がカッコいいって」
「へっ……?」
呆然としていたほのかは急に我に返ったように、ルカの方を振り向いた。
顔の動きに少し遅れて、ゆるふわな栗色の髪がくるりんと巻くように揺れる。
「あ、いや……な、なにを言ってるのかなぁ、ルカたんは? ひらりんがカッコいいなんて、ぜ~んぜん、思ってないし」
「え? そうなんですか?」
「そそそ、そうだよぉ」
「ふぅーん……」
「な……なにさ。その疑いの眼差しは?」
「別に……ほのか先輩の瞳、なんだかキラキラしてるなぁ……って」
「瞳がキラキラ? そ、それはきっとまつ毛エクステのおかげで……」
いえいえ、なにを言ってるんだか。今の目の輝きは、何か素敵なものを見た時の輝きですよ──
そうは思ったものの、ほのかがあまりに
ワタワタと焦って言い訳をするものだから、ルカは突っ込むのはやめて、ただクスリと笑った。
「まあ、ほのか先輩がそう仰るなら、それでいいですよ別に。ああやって一生懸命で、しかもちゃんと結果を出すところが、私はカッコいいって思いますから」
昨日も考えていたように、ルカはそんな自分の気持ちを凛太本人に伝えようとは、まったく思ってはいない。
けれども凛太の良さをなかなか認めようとしないほのかには、ついついそんなことを言ってしまう。
──ほのか先輩も、ホントは凛太先輩をカッコいいって思ってるくせに。
以前のほのかならともかく、今は絶対にそう思っているはず。ほのかの言動を見たら、誰だってそう思うよね、とルカは心の中で苦笑いする。
なかなか思っていることを他人に言えないタイプのルカではあるが、あっけらかんとしたほのかの人柄のせいだろうか。ほのかには、本音に近いことも言えてしまう。
そんなやり取りをできるほのかのことを、実はルカはありがたい存在だと思っている。
「ふぅーん。でもルカたん。そんなこと言ったって、やっぱ『憧れの先輩』の方がカッコいいんでしょ?」
「さあ……どうでしょうね?」
「えっ……?」
ルカはクールな表情に少しだけフッと笑いを浮かべて、そんな返答をした。
なんだか少しほのかをからかうような、含みのある笑顔。
そして今までのルカからは、考えられない返答。
それを聞いたほのかは、驚きで動きが固まった。
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