第42話:ルカは尊敬する
「尊敬します、凛太先輩っ♡」
ルカが、語尾が跳ねるような可愛らしい話し方でそう褒めてくれた。
そしてうるうるしたような瞳。
綺麗な二重の目と、通った鼻筋。やっぱりルカって美少女だなと、改めて思う。
とにかく一生懸命やっただけではあるけど、後輩に仕事ぶりを褒めてもらえるのはやっぱり嬉しい。
ルカには、職場の先輩として少しは認めてもらえたようだ。
──とは言うものの。
尊敬とまで持ち上げられるのは、もちろんお世辞も入っているのだろうけど、あまりに照れ臭すぎる。だから俺は話題を変えた。
「あ、ありがとうなルカ。……ところでルカは、ここに何しに来たんだ? 買い物か?」
「あ、はい。服を買いに来たのと、映画を観に来ました」
「映画?」
「はい。このショッピングモールには、シネコンがあるのですよ」
「へぇ、そうなんだ。なんの映画を観に来たの?」
一人で映画を観に来るくらいだから、よっぽど映画好きなんだろうな。
ルカのイメージからすると、純愛映画でも観に来たのか?
「あっ……えっと……」
ルカはなんだか言葉に詰まっている。
どうしたんだろ?
「ちょっと恥ずかしいです……」
「なんで?」
「あ、いえ……あ、アニメ映画だからです」
「あ……アニメ映画っ?」
ちょっと意外だったので、俺は素っ頓狂な声になってしまった。
「あっ……凛太先輩もバカにしましたね?」
ルカは頬をぷっくりと膨らませんて、唇を尖らせている。
こりゃ、結構マジで機嫌を損ねたか?
いや。怒っているというよりも、拗ねたような感じ。
美少女が見せるこんな姿は可愛いのだが……
でもルカがバカにされたと本気で思っているなら、申し訳ないからちゃんと説明しとかなきゃ。
「いや、バカになんかしてないぞ。……ん? 凛太先輩……も、って?」
「はい。以前ほのか先輩に、私がアニメ好きだって話をしたら、『子供だねぇ~』ってバカにされました」
いつも子供っぽい言動をするほのかが、ルカを子ども扱いしたなんて、なんだかおかしくて笑える。
まるで子供が『自分は大人だ』って大人ぶりたがるのと同じか。
「何を言ってるんだルカ。アニメは今や世界に誇る日本の文化だ。子供向けのアニメもあるけど、充分大人の鑑賞に堪えうる作品も数多くあるからな」
俺は特にアニメ好きというわけではないが、それでも素晴らしい作品はいくつか知っているし、結構好きなアニメ作品もある。
まさかルカは、子供向けのアニメを観に来たわけではあるまい。
「さ……さすがです、凛太先輩っ!」
ルカは両手を胸の前で合わせて、キラキラっとした瞳で俺を見つめた。
──いや別に、さすがと言われるほどのことじゃないけど。
ルカはほのかにバカにされた経験があるからか、アニメに理解を示す俺の態度が嬉しいに違いない。
「今日観に来たのは、ダークファンタジーの超人気作『
「おおーっ! あのテレビアニメで超人気の劇場版か!」
確かにあのアニメは、大人が観ても面白いし、テレビ版は俺も観ていた。
劇場版も、機会があれば観てみたいとは思っていたんだが、大の男が一人で映画館にアニメを観に行くのは少し抵抗があった。
だからレンタルが始まったら観ようかと、密かに思っていたんだ。
その『
──うううう……
一緒に観に行きたい欲が湧き出てきた……
いや、でも一緒に行きたいなんて俺が言ったら、ルカは嫌がるだろうなぁ。
せっかく誰にも煩わされないように、一人で観に来たんだから。
それにいくら会社の先輩とは言え、彼氏でもない男と一緒に映画に行くなんて、『女子が嫌がるシチュエーションランキング』1位に輝きそうな状況のような気がする。
──あ、いや。
俺は女の子と付き合った経験が皆無で女心がよくわかってないから、想像ではあるのだけれども。
でも、このチャンスを逃したら、『
「凛太先輩は『
「ああ、知っているも何も、テレビ版は俺も観てたよ。大ファンだ」
「えっ……」
ルカが突然ぽかんと口を開けて固まった。
そしてハッと我に返ったようになって、急に、なんだか必死な形相になった。
「じゃじゃじゃじゃあ、いいいい、一緒に、みみみみ観ませんか?」
「いいのか?」
「は、はい! もも、もちのろんです!」
もちのろん?
ルカの言葉遣いが変になっている。
「ありがとう。じゃあ……ルカのお言葉に甘えて、一緒に観よっかな」
「やった……!」
ルカの顔は急にぱぁーっと明るくなった。
両手を腰のところで拳に握りしめて、ちょっとしたガッツポーズみたいにしている。
なるほど、そっか。
わかったよルカ。
周りにバカにされるかと思っていた趣味が、思いもよらず同好の士が現れた時の喜び。
今のルカは、きっとそんな気分なんだろう。
いや逆に俺の方が、一人では観に行けないと諦めていた映画を観るチャンスに巡り合えたんだ。
ルカにはいくら感謝しても、し過ぎるということはない。
「ありがとうルカ。嬉しいよ」
「う……嬉しい……? 私と映画を観に行くことが……ですか?」
「ああ、そうだよ。ルカと映画を観に行くことが、だよ」
「り……凛太先輩……」
ルカは、もう泣き出しそうな顔で笑ってる。
笑顔と泣き顔を足した感じ。
そんなに同好の士に巡り合えたのが嬉しいんだな。
そう思ってもらえるなら、俺も嬉しい。
いや──俺もルカと同じ気分だ。
「じゃあ、行こうかルカ」
「はいっ! 参りましょう、凛太先輩っ!」
こうして俺とルカは、仲良くシネコンのフロアに向かって歩き出した。
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