第2話:明日来る男って……イケメン?
◆◇◆◇◆
〈女子side〉
彼の転勤先である『株式会社リクアド
「ねぇ所長。明日来る男って……イケメン?」
パスタをパクつきながら、クリっとした小豆色の目を向けたのは、小柄な美少女、
小柄な身体と栗色のゆるふわな髪が、彼女の可愛さを倍増させている。まるでアイドルみたいな雰囲気だ。
「知らないわよ。明日、ほのちゃんが自分の眼で確かめたら? だけどもしもイケメンじゃなくても、前みたいにいじめて追い出すのはやめてよ」
少し切れ長の綺麗な目で、ほのかに冷ややかな視線を向ける営業所長は
「あたしが追い出したって、人聞きが悪いよぉ所長~」
「あはは冗談よ」
「でもほのか先輩が、あの人をぞんざいに扱ってたのは確かですよね」
そう言ってクールな口調で横から口を出したのは、入社1年目の
ルカは仕事中はメガネをしているが、アフターファイブの今は外している。鶯色と言うのだろうか。グリーンがかった綺麗な瞳と整った顔があらわになったルカは、仕事中よりも一層美少女オーラを放出している。
あの人とは
体調を崩して退職してしまったのだが、それをほのかのせいだと茶化しているのである。
「こらルカたん。ぞんざいに扱ってたなんて事実無根のことを言わないでちょーだい。あの人、あんまり好きくないからテキトーにあしらってただけだから」
「ほのか先輩。そういうのを世間ではぞんざいに扱うって言うのですよ」
「そうだっけ?」
「そうですよ。知ってるくせに」
ほのかはニヒと笑って、ぺろりと舌を出した。
そしてまたパスタを口に運ぶ。
「あのね、ほのちゃん。仕事仲間なんだから、イケメンとか関係なしでいいでしょ?」
「はひをひっへるんへすか、ひょひょう」
「こら、ほのちゃん。食べながらしゃべるな。美少女が台無しよ」
ほのかはもぐもぐとパスタを咀嚼して、ワインでごくりと流し込んだ。
「何を言ってるんですか所長、違いますよ。あ、私が美少女ってのは、違くないけど」
「なにが違うのよ?」
「仕事仲間とかそういうの関係なしに、あたしはイケメン以外は男として認めません」
「あなたは男を顔だけで選ぶの?」
「いいえ。イケメンは最低条件で、あとは金持ちじゃないと男として見れない。それ以外は何か得体の知れない生物」
あごを少し上げて、胸を張って偉そうに答えるほのか。
身体は一番小柄だが、Eカップの豊かな胸が白いブラウス越しにぷるんと揺れる。
得体の知れない生物ってなんなのか。
麗華は苦笑いを浮かべた。
そこに横から、ハイボールを手にしたルカが冷静にツッコむ。
「出た、ほのか理論。男の人からうざい女と思われますよ、ほのか先輩」
「大丈夫、大丈夫。だってイケメンで金持ちの男は、さっきのセリフを聞いても腹を立てないから。腹を立てるのはイケメンでも金持ちでもない男だけ」
所長の麗華は、はぁーっと大きくため息をついて、ほのかを睨む。
「あのね、ほのちゃん。あなた、いい加減ちゃんと男を見る目を養った方がいいよ。顔とお金だけで男を選んだりなんかしたら、絶対に人生ドツボにはまるから」
「でも所長だって、イケメンじゃないと嫌でしょ?」
「そんなことないわよ。例えばスポーツに打ち込んでるとか何かに熱心に打ち込んでるとかでも、カッコ良く見えるでしょ? 何より好きになっちゃえば、カッコ良く見えるってこともあるし」
「そうかなぁ……? それは単なる好みの問題であって、私は豚骨ラーメンが好きだけど、所長は醤油ラーメンが好きってことじゃないの?」
「ら……ラーメン? いや、私は別に醤油ラーメンは好きでもないけど……」
真面目な麗華は、ほのかの変なたとえ話に、思わず真剣にリアクションをしている。
服装も髪型も仕事ぶりも、きっちりしている麗華らしい。
横で眺めていたルカが、麗華に助け舟を出すように口を挟んだ。
「でもほのか先輩が豚骨ラーメンが好きなのはそれでいいですけど、『豚骨ラーメン以外はラーメンじゃない!』なんて言ったら、他のラーメン好きの人は気を悪くしますよ」
「うぅぅ……そうかもしれないけど、私は豚骨ラーメンが……じゃなくて、イケメンが好きなのっ。まあ豚骨ラーメンも大好きだけど」
ほのかは食いしん坊なのか、ついつい食べ物の方に話が脱線する。
「そうよほのちゃん。ルカちゃんの言うとおりよ。それになにより、性格が大事でしょ。とにかくほのちゃんの言うことは間違ってる」
「えーっ…… 男を見る目が厳しすぎる所長に言われたくないなぁ。今までも山ほど男から言い寄られてるのに、なんだかんだと理由を付けて、ことごとく断ってるじゃん」
「いや、私は……チャラチャラした男とか、女を見た目でしか判断しない男が嫌いなだけよ。別に見る目が厳しすぎるってわけじゃないし」
「そっかなぁ……割と真面目な人や、仕事ができるエリートタイプも断ってた気がするけど。まあ所長は仕事ができ過ぎる出木杉君だからねぇ。なかなか釣り合う男がいないんだよねぇ」
麗華はモデルのように整った、キリっとした顔つきをしている。背筋もピンと伸びて、確かにちょっとやそっとの男には太刀打ちできないようなオーラを纏っている。
「もう、ほのちゃん。私のことはいいから!」
「ふわーい」
「ちゃんと、『はい』って言いなさい」
「ふわーい」
「もう、あんたはっ!」
麗華は拳で、ほのかの頭頂をコツンと小突いた。
ほのかは大げさに両手で頭の上を抑えながら、麗華を睨む。
「いたーい! パワハラで訴えてやるーっ!」
「なに大げさに言ってんのよ。痛くなんかないでしょ」
「ふわーい、痛くないれす。てへへ」
「はい、正直でよろしい。ふふふ」
ほのかのおちゃらけに、麗華も笑顔になる。
「でもさあ。つまんない男が来るくらいなら、ホント女三人の方がいいのよねぇ。楽しいし。あたし、このメンバー大好きなんだぁ」
ほのかは他の二人を見回して、しみじみとそう言った。
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