【書籍化】『実は同じ職場にあなたを好きな人がいます』 ~転勤先は美女だけの営業所!?

波瀾 紡

第1話:転勤……ですか?

「来週から転勤……ですか?」

「ああ、そうだ。その営業所はなかなか優秀な人材が揃ってるんだけど、ちょっと業績が低迷してるんだ。だからしっかり頼むよ平林ひらばやし君」


 俺は人材紹介会社、『株式会社リクアド』で営業マン兼キャリアアドバイザーとして働いて3年目。東京の営業所に勤務してたのだけれども、ある日突然営業部長に呼ばれた。


 なんだろうかと思ったら、そんな話だった。

 ある地方都市、『志水市しみずし』にあるわが社の志水営業所への転勤。

 突然の話で驚いた。


「いや、ちょっと待ってください部長。俺なんか営業成績が特にいいわけじゃないし……なんで業績低迷のテコ入れ役が俺なんですか? 無理ですよ」

「いや、いいんだよ。君はいつだって一生懸命だし、根性もある」

「根性……いや別に、そんな大した人間じゃないっすよ俺なんか」

「でも平林君。君は高校時代はサッカー部だったんだろ?」

「それはそうですが……」

「じゃあ根性あるよ。体育会系の部活なんだから」

「いや、ちょっと待って部長! その雑な決めつけはなんすか!?」

「まあそんなに気負わなくていいよ平林君。いつもの君らしく、ただ一生懸命やってくれたらいいから」


 転勤先と言われた営業所は地方都市にあるのだが、実はそこは俺の生まれ故郷に近い所だった。

 ある程度土地勘もあるし、それもあって俺に白羽の矢が立ったらしい。


「あっ、そうそう平林君。この転勤話は、君が喜ぶようなこともあるんだぞ」

「なんですか?」


 異動に伴う特別昇給があるとか?

 だったら嬉しい!


「そこは所員が三人だけの営業所なんだけどね。なんと三人全員が女性。しかも全員、もの凄く美人なんだよ」

「えっ? 全員が女性……しかも美人?」

「どうだ。俄然やる気が出てきたろ?」


 いや、待ってくれ。


 俺は年齢イコール、つまり25年間彼女ナシだ。


 別に女がめちゃくちゃ苦手っていうわけじゃないけど、女性の扱いが得意ってわけじゃない。


 女子に好まれる方法なんか、正直言って全然わからない。それに俺なんてイケメンでもなんでもない、パッとしない男だし。


 あ、いや。

 見た目は中の上くらい……? と信じたいところだが、自分ではよくわからない。どっちにしても、あんまり自分の容姿には自信がないってのが本音だ。


 なのに女だけの営業所に転勤だって?

 しかも全員、もの凄く美人!?


 そりゃ無茶だろ。

 俺には荷が重すぎる。

 そんな人たちと上手くやってく自信なんか、これっぽっちもない。


 やる気が出るどころか、しぼんできたぞ。

 そんなの女好きなヤツに任せたらいいのに。


 あ、自分の名誉のために言っとくと、俺は特に女好きではない。


「ワシが20歳若けりゃ、自分が志願して行きたいくらいだよ平林君! カッカッカッ!」


 ──あ、ここに居たよ、女好きが。


 じゃあお前が行けよ、と頭によぎったが当然そんなことは言えない。


 豪快に笑う部長に、背中をバシバシ叩かれた。

 俺もサラリーマンだし、社命で転勤なら受け入れるしかない。それに部長には世話になってるから、困らせたくもない。


 まあいつもの俺らしく、ただただ一生懸命やればいいって話だし、やるしかないか。全員がもの凄く美人ってのも、きっと部長が大げさに言ってるだけに決まってる。うん、きっとそうだよな。


 それに、仕事なんだから男も女も関係ないしな。

 周りの人達を女だと意識しないでがんばればいいか。


 俺は半分頭を抱えながらも、そう前向きに考えることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る