息を殺して夜を待つ
きょろすけ
第1話 夜との出会い
「この先、どうなっていくのだろう。」
浜田 恭信(はまだ やすのぶ)は、煙草に火を付け明るくなり始めた空を見上げて呟いた。
バイトのカラオケの夜勤が終わり、家に帰る途中、この一服が今日を乗り越えた、そんな少しの充実感を感じられる彼にとっての習慣だった。
「もう俺も26か、早いもんだよなぁ、、」
人よりは正義感は強いと思っていた。
困っている人がいたら手を差し伸べるし、ずっと仲間と呼べる友人も多かった。
そんな自分の就職先は消防士だった。
スポーツも続けていたし、甲子園を夢見た球児でもあった恭信は体力にも自信があった。
しかし問題はそこでは無かった。
就職先で配属されたのは、厳しい指導で有名な隊長のいる隊だった。
いや、指導と言う理不尽だ。
しかし、ほんの少し反抗してしまったのだ。
それがダメだった。日に日に悪化していく指導に恭信は耐えていた。2年目に差し掛かった時、その指導は公になってしまった。
いつものように、誰にも見られないところで行われていた指導であったが、殴られ、蹴られているところを他の隊に見られてしまった。
それが上層部に話が伝わったのだ。
そこからの話は、早かった。
隊長は処分され、自分は異動する事になる筈だったが、恭信の心は折れていた。
この組織でやっていける自信が、人助けがしたいという志を見失ってしまっていた。
その後、大学の時に勤めていたアルバイト先でなんとか生活できる給料で生活を続けていた。
「彼女もいない、夢もない、後は爺さんになるだけだな」
そんな皮肉も伝える相手はいない。
周りの友人も就職したら疎遠にもなる。
家庭を持てば尚更だ。
そんなことを考えながら、もう少しで家に着く、3本目の煙草に火を付けようとしたその時、
「ん?、、なんだあれ?」
時刻はまだ4時半、3月半ばのこの季節では、まだ外は薄暗い。
家まで後数百メートルの所で恭信が見たのは、道の端っこに、うずくまり黒い上着を羽織っている人影だった。
恐る恐る近づいてみた、酔っ払いかも知れない。飲み屋街がそれ程遠くないこの地域ではよくある話だった。
どうやら女性の様だ、髪が長い、そして寒さからなのか、気分の悪さからなのか震えている。
「あの〜、、大丈夫ですか??」
恭信はこちらに背を向けている彼女に対して、近づいて声をかけた。
「気分でも、悪いんですか?コンビニであった買い物買ってきましょうか?」
彼女の反応は無い。相変わらず、自分に背を向けうずくまり震えている。
「あのー、、」
近づいて、顔を覗き込もうとしたその時、
バッッッっと勢いよく振り向いてきた、彼女のその顔には目が無かった。
しかし空洞では無かった、ある筈の眼球が無く、
黒い塊が恭信を見つめていた。
「う、、うわぁぁぁぁ!!!」
何が起きているのか全く理解できていなかった。彼女を跳ね除け、声を上げるまで時間がかかった。
「やばいやばいやばい、なんだよあれ!!!」
恭信は自宅に向かい、一目散に走った。
足の速さは自信があった、逃げ切れる。
振り向く余裕もなく、懸命に走った。
アパートにつき、震える手で鍵を開け、
扉を閉めようとした時、
バァァン、
白く酷く傷ついた手が扉の間に滑り込んできた。
やばい、殺される、、
そう感じた恭信は部屋の中に置いてあったバットに向かって走った。
室内に入り込んできた、彼女は恭信の様子を伺っている。
「もし、悪ふざけなら、今なら許すぞ。本気でかかってくるならこれでぶん殴るからな、、おい!!聞いてんのか!!」
彼女は呻き声をあげながらゆっくりと近づいてくる。
「これで、最後だぞ、警察呼ぶぞ!不法侵入だかんな!!聞けよ!!」
ガァァァァ!!!
叫び声を上げ、彼女は飛びかかって来た。
「く、くそぉぉぉ、!!」
恭信は持っているバットを強く握りしめ、頭に向かってスイングした。
ギィィィン!!
あたりに響く鈍い音、しかし、彼女は全く怯んでいない。
ガァァァァ!!!
掴みかかってくる、力が強く押さえつけられない、、
彼女は腕を振りかぶり、恭信の顔に向かって振り下ろした。
ガツッッ
顔を左目にかけて引っ掻かれてしまった。
それとと同時に、なんとか押し除けて
外に脱出した。
「人間じゃねぇだろこいつ、、」
そして恭信はまた外に走り出した。
朝はまだやってこない。
後ろを振り返ると、奴が追ってきている。
「もう、、ダメかもな、、」
2人の距離は約2メートル、
追い付かれる、、その瞬間。
目の前に銀髪で、制服姿の女の子が立っていた。
「伏せて!!!」
その子がこちらに構えたのは拳銃、それも2丁だ。
恭信は走りながら、滑り込む様にスライディングをした。
バンバンと何発か銃声が響いた。
恐る恐る後ろを振り返ると、奴は動かなくなっていた。
「た、、助かった。」
ガチャ、
銀髪の女性がこちらに拳銃を向けていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ俺は!」
「残念だけど、貴方も奴らと同じになるわ。
その前に苦しまない様にしてあげる。」
「ど、どういう事、それよりアイツは一体、、」
「いいわ、。最後に教えてあげる。奴は"ウォーカー"と呼ばれているわ。新月の日に現れる化け物よ。」
「そして、その化け物は人を襲い、眼球を喰らう。そうして仲間を増やそうとするのよ。」
「な、なんだよそれ、、聞いた事ねぇよ」
「そりゃそうでしょうね、まぁ、貴方にとってはどうでも良いんだけど。さぁ、観念してくれるかしら、、」
「待ってくれ頼む、、俺はアイツみたいにはならない!!」
「何言ってるの??貴方、左目、無くなってるのよ?」
…え??
見えてはいる、この女、何言って、、
そう思いながら恐る恐る左目に手を伸ばした。
ない、ないのだ、見えているのに左目ない。
「残念だけど時間ね、太陽が出てしまうと苦しむ事になるわ。その前に楽にしてあげる。」
「や、、やめろおぉぉ!!」
恭信は急いで彼女から離れようと駆け出した。
「ま、待ちなさい!!」
やだ、いやだ!!なぜ殺されなければならない。理不尽過ぎるだろう。
駆け出してから、直ぐに
日の出の明かりが恭信を包み始めた。
「ぐぁぁぁぁ、、熱いいいい、、」
左目が焼ける様に熱い、無いはずなのに。
切った奴らと同じように黒い影の様になっているのだろう。
煙が出ているのがわかる。
「だからいったのに!!
追いかけてきた女の子が言う。
しかし、痛みでそれどころではない。
のたうち回り、痛みに耐えている。
「し、仕方ないわ、直ぐに楽にするから」
ガチャ、
銃を構え、恭信の頭に狙いを定め引き金に指をかける。
「もう少し早く見つけられたら、、ごめんね」
バァァン
一発の銃声が響いた。
「どう言う事、、?」
銃弾は恭信の右手に握られていた。
「もう、、大丈夫だから、、打つなよ、、」
「ど、どうして、、貴方それに太陽の光は、、」
「わかんねぇ、、けどもう痛くない。けど、もう打つなよ!手が痛てぇ、、」
「信じられないわ、、ウォーカーにならない筈無いもの、、」
彼女は激しく動揺している様だ。
「まぁ、、なんだ、俺は浜田 恭信、あんたの名前は?あんた何者?」
「わたしは、、望月 夜 (もちづき よる)そんな事より、浜田 恭信。貴方、うちについて来てもらうわ。」
「は、??なんでお前うちに」
「いいから!!早く来るのよ!!」
「わ、わかったよ、、」
この日の夜との出会いが、自分の人生を大きく変える事となる出来事の始まりだった。
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