異世界管理局員マトラ

堀北 薫

第1話 異世界管理局

 俺はなんでこんなところにいるんだ?

 確か、トラックに轢かれたんだ。昼休みにパンを買おうと学校の向かいのコンビニに行く途中。

 赤信号なのに何故か突っ込んでくるトラック。遅れて聞こえてくるブレーキ音。それに重なる甲高い悲鳴。

 薄れゆく意識の中、思った。

 死ぬのか、俺。


      *   *   *


 気づけばロビーのソファーに座っていた。

「なんだ?ここ」

 雰囲気的には市役所に似ている。けど、こんな人でごったがえしてはいない。頭の整理が出来ず座っていると、後ろから声をかけられる。

「あ、目覚めましたか?」

 声のする方を見ると、スーツの女性が立っていた。

 その容姿は可愛いというより綺麗と言ったほうがしっくりくる。ショートカットの髪は黒髪で動くごとに揺らめき艶がある。大きな瞳は心までも見透かされそうでドキリとする。

「ヤマノウチ・シンゴ様ですよね?」

 小さく赤みがかった唇から出る質問に俺は答える。

「はい、そうですが…」

「お待ちしておりました」

 彼女は回れ右で歩き出す。

「ついてきて下さい。説明は歩きながら行います」

 遠のく背中に俺はソファから立ち上がりついて行く。こういう場合、本来はついていってはいけない。胡散臭すぎる。

 しかし、なぜだろうか。この人は悪い人には見えなかったのだ。


      *   *   *


「申し遅れました。私、異世界管理局のマトラといいます」

「異世界……。すいません、もう一度お願いします」

「私のことはマトラと呼んでください」

「ごめんなさい、そこじゃなくて肩書きのほうを聞きたいです」

 マトラは嫌な雰囲気を微塵も出さず、教えてくれる。

「異世界管理局です。私はそこで働いています」

「異世界管理局?」

「はい、今から説明致します」

 エレベーターが開き、「どうぞ」と促される。俺は「どうも」と言い入るとマトラも乗ってドアを閉める。

「ヤマノウチ様、異世界はご存知で?」

「まぁ、ラノベとかであるヤツですよね?」

 あ、“ラノベ”はこの世界で通じる言葉か?

「はい、その認識で大丈夫です」

 マジか!

「じゃあ、よくあるステータスがMAXで無双したり、現世のなんでもない知識でチヤホヤされてハーレム生活したりも出来るんですか」

 マトラはちょっと考える。

「場合によります」

「場合によります⁉︎」

 エレベーターが止まり、ドアが開く。上の表示を見ると1154階とある。エラー…じゃないよな?

 エレベーターを出るとオフィスビルの廊下だ。どうなってんだこの建物。

 その一室に入ると会議室で長机とキャスター付きの椅子が並ぶ。

「こちらへお座り下さい」

 ただただ促されるままに座る。向かい合ってマトラが座るとパチンと指を鳴らす。

 目の前にパンフレットやら、契約書やらが瞬時に現れた。目を丸くする俺をよそにマトラは切り出す。

「歩きながら話しましたが、改めて説明します」

 マトラは自然な手つきで髪を耳にかけるとこちらを見つめる。

「今回は異世界管理局にお越しくださいまして、誠に有難うございます」



────────つづく


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