合同依頼
S級校舎、教室にて。
授業後のHRで、ガーネットから驚きの話があった。
「ご、合同依頼?」
「そうさね。A級召喚士とS級召喚士の合同メンバーで、新たに現れたと思われる『魔人』の捜索、および可能なら討伐をする」
「新たな魔人って……」
アルベロは、レイヴィニアとニスロクを見る。だが二人は特に気にしてなさそうだ。
「魔神様が召喚したんだろ。うちとニスロクの代わりか、アベルとヒュブリスの代わりか。それかオウガの代わりか……魔神様、うちらの世界から好きな召喚獣を呼べるし、たぶん強-い奴が召喚されたと思うぞ」
「くかぁぁ~~~……」
レイヴィニアは購買で買ったクッキーをもりもり食べ、ニスロクは突っ伏して寝ていた。HR中の飲食と昼寝を堂々と行う辺り、この二人はまだ常識がない。
すると、ガーネットが特に気にせず言う。
「ま、そんなところだろうね。最近、王国外領土で、いくつもの町や集落が壊滅させられる被害が起きている。被害人数は千人以上……アースガルズ王国に、魔人の調査と討伐命令が下った」
「質問! あのー……そういうのって、生徒のあたしたちがやるべきことなんですか?」
アーシェの質問はもっともだ。
アースガルズ王国の領土外にも大きな国はある。それこそ、召喚士部隊や騎士隊などがいるはず。中にはA級召喚士、もしかしたらS級に匹敵する召喚士だっているはずだ。
ガーネットは、首を振った。
「周辺国は自国の警備を強化するため、強力な召喚士は派遣できないそうだ。さらに、この国は最強の二十一人、さらに魔人を三体も討伐したS級召喚士がいる……二十一人がこの国から離れられないことを知らない周辺国は、戦力が集中しているこの国を頼るのは当然のことさね」
かつて魔帝を封印した最強の二十一人が、アースガルズ王国から出ることができない『呪い』にかかっていることを他国は知らない。
恐らく、面白くないはずだ。世界の恐怖であった『魔帝』を封印した二十一人が、アースガルズ王国だけを守護している状況に。
だからこそ、こういう事態が起きた時に強く言える。『アースガルズ王国には最強の二十一人がいる。我が国は弱小故、自国を守るのに精一杯だ。魔人討伐は任せた』と。
キッドは、首をコキっと鳴らした。
「『色欲』……そいつが出てくる可能性は?」
「あるだろうね。滅びた町や集落の生き残りの報告を聞いたが、かなりの美形らしいよ」
「…………」
キッドの雰囲気が変わる。
すると、リデルが挙手した。
「あの、合同依頼ですけど……詳細は?」
「……そうだね。説明するよ」
リデルが軌道修正したことに、ガーネットは少し驚いた。
ガーネットは煙管を取り出し咥える。口元が寂しいようだ。
「学園の警備もあるから全員は行けないね。S級からは五名、A級から四名、B級から三名、計十二名の調査・討伐隊を結成する」
「あの、おばあ様……少なくないですか?」
「S級が五人いるんだ。十分だろう?……って言われてるのさ。実績がありすぎるのも困ったねぇ」
ラピスががっくり肩を落とす。
ヨルハは挙手し、ガーネットを睨むように言った。
「人選は?」
「……S級はアルベロを筆頭に、キッド、リデル、アーシェ、ラピスの五名を考えております」
「わたしは?…………ああ、ふーん、そう。じゃあわたしは引率で付いて行くわ。どうせあのクソ親父が『ヨルハは連れて行くな』って言ったんでしょ?」
「お察しの通りです」
「ガーネット。わたしも行くから」
「……王族の命令でしたら」
「ふふ、そういうこと」
ガーネットは、ヨルハを連れて行くことに反対しているわけではない。ただ、国王の命令でヨルハを連れてはいけないのだ。だが、ヨルハも王族。王族の命令には逆らえないガーネット。国王の命令はヨルハの新しい命令で上書きされた……屁理屈だったが。
アルベロは、嫌そうな顔で挙手。
「あの、A級って……」
「説明する必要あるかい?」
「いえ、わかりました」
「ふふ、そういうことさね。A級からはエステリーゼ、そしてサンバルト殿下、A級班引率のオズワルド、そして学園所属のA級召喚士ウルブスの四人さ。B級からはラシルド、グリッツ、フギルの三人がA級召喚士の補佐に入る」
「え、グリッツ? あいつ、そんなに強かったっけ?」
アーシェは首を傾げた。
グリッツは一期生の中でも上位の成績を持つエリートだ。将来はA級召喚士になれるかもしれない逸材……と言われている。
「とりあえず、明日の放課後に合同会議がある。いいかい、もめ事を起こすんじゃないよ」
恐らく無駄だろうけどね。ガーネットは誰にも聞こえないようボソリと呟き、ようやく煙草の火を点けた。
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