報告
「新たな魔人……?」
メテオールの元に入った報告は、信じられない話だった。
この話を持ってきたのは、白い教皇服を着た十代半ばにしか見えない少女。『審判』のガブリエルだ。メテオールの戦友であり、最強の二十一人の一人なのだが、メテオールはこのガブリエルが昔からどうも好きになれない。
現在、メテオールは王城の一室で仕事をしている。そこにガブリエルが『遊び』に来て、この報告をしたのであった。
ガブリエルは、白い髪をかき上げ、紅茶のカップを口元へ。
「…………ふぅ。メテオール、紅茶の質に気を配った方がいいわね。ああ、私から伝えておくわ。明日からはもう少しまともな紅茶が飲めるはずよ」
「ガブリエル。そんなことより」
「ええ。魔人ね」
ガブリエルはカップを置く。
メテオールと同年代であるはずなのだが、ガーネットと同じく外見が若々しい。昔、その理由を聞いたがはぐらかされた。
ようやく、ガブリエルは語る。
「最近、小さな集落や村が頻繁に襲われ、いくつも滅ぼされていると報告があったの。その襲撃方法が独特でね。金品は無視、ただ住人の命だけを奪う……何の目的もない『殺し』が続いている」
「…………」
「目撃情報では、襲撃者は合計二人。それぞれ、白い髪に褐色の肌、頭部にツノが生えていたそうよ」
「……魔人か」
「ええ。特徴からして間違いない。でも、その魔人の細かい特徴が、私たちの知る魔人と一致しないのよ……残りの魔人は『色欲』と『強欲』だけど、容姿がどうも違うのよね」
「つまり、別人だと?」
「ええ。恐らく、魔帝が新たに『召喚』した魔人……」
「ふむ、なるほどの」
メテオールは顎鬚を梳く。
「……調査が必要じゃな」
「ええ。ですので……A級召喚士を使います」
「なに?」
「学園にいるでしょう? A級召喚士エステリーゼ……ふふ、あの子は手柄を欲しがっている。この辺りで魔人討伐なんてどうでしょう?」
「馬鹿な。相手は魔人、A級召喚士では」
「なら、S級を?」
「……王国にも人材はいる。等級が高くても、生徒はまだ未熟じゃ」
「ふふ……知らないのですね? アースガルズ王国の召喚ギルドに所属している召喚士は全て、アースガルズ王城の依頼を受けました。王城と貴族の護衛に、ギルド所属のA級召喚士は回ります。調査などで動かせるのは、学園所属の召喚士だけ」
「……馬鹿な」
メテオールは驚愕した。
つまり、魔人は王国に近づかない。その王国を守るためにほとんどの召喚士が国の警護に回る。
魔帝の調査なども遅れているのに、守ることばかり考えている。
「決まりましたね。学園所属のA級召喚士に命令を出します。魔人調査の命令をね……」
「ガブリエル。なぜお前は等級にこだわる?」
それは、全く関係のない質問だった。
メテオールは立ち上がり、ゆっくりと窓際へ向かう。
ガブリエルはクスっと笑うだけだった。
「べつに、等級にこだわりなんてありません。私は……楽しければいいのです」
「…………」
「ねぇメテオール、昔はよかったわね。魔人と戦って、魔獣もいっぱいいて……私だけじゃない。仲間も大勢いて、毎日が新鮮だった。でも、今はとっても退屈。少しでも面白いことが起きそうなら、面白おかしくして楽しみたいじゃない?」
ビキッ──と、メテオールの触れたガラスに亀裂が入る。
「退屈なら、わしが相手してやってもいい。ただし……生徒を、この国を巻き込むな」
「あら怖い。こんな老人の相手をしてくれるのかしら?」
「……必要なら、な」
空気が重苦しくなった。
だが、ガブリエルは笑った。
「とにかく。今動けるのは学園所属のA級召喚士とS級のみ。それ以下の等級は学園の護衛に回ってもらう……ふふ、連絡しなきゃ、ね?」
ガブリエルは立ち上がり、ふわりと流れるように部屋を出た。
その姿を見送り、メテオールは大きくため息を吐く。
「わしは、こんなところで何をしているのか……無力じゃの」
◇◇◇◇◇◇
生徒会室。
エステリーゼの元に報告が入った。
「魔人の捜索任務か……ふふ、手柄を挙げるチャンス。と言いたいが……チッ、S級との合同任務とはな」
王城から、正式に届いた依頼だった。
新たな魔人が現れた可能性あり。S級召喚士と合同で調査せよ。
学園の守護もあるので大勢では行けない。S級は全員参加するだろう。エステリーゼは生徒会役員と使えそうなB級召喚士を思い浮かべる。
「ふん。ここで手柄を挙げてやる」
エステリーゼは、届いた依頼書を強く握りしめた。
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