それぞれの能力
アルベロは、姉エステリーゼの戦闘スタイルをよく知っていた。
相棒型召喚獣は、召喚士が命令を出し召喚獣を操作するパターンが殆どだ。相棒型は召喚獣自身が能力を行使するのが殆どなので、召喚士は直接戦わない場合が多い。
だが、エステリーゼは違う。
召喚獣アークナイトと共に、自身が剣を振るうスタイルだ。
エステリーゼは腰の二刀を抜刀、アルベロを両断しようとする。
「『斬』!!」
「らぁっ!!」
右手を『硬化』し、エステリーゼの剣を受ける。
速い───アルベロは思う。過去、ラッシュアウト家の実家で見た速度と桁が違う。寄生型の身体能力がなければ、アルベロでは見きれないだろう。
すると、エステリーゼの背後に大剣を構えるアークナイトが。
三メートルほどの巨体から振り下ろされる剣は圧倒的だ。エステリーゼを巻き込まないよう、アルベロだけを両断しようとする。
『オォォォォォォッ!!』
「───ちっ」
アルベロは舌打ちし、真横に飛んでアークナイトの剣を躱す。
すると、それを読んでいたのかエステリーゼも真横に飛んだ。
「シッ!!」
「っとぉ!?」
そのまま横薙ぎ。アルベロは辛うじて躱す。
さらに、エステリーゼの連斬りは続く。オウガほどではないが攻撃が止まらない。だが、オウガにはない『流れ』を感じる剣だった。
さらに、アークナイトには『能力』もある。
「アークナイト!!」
『───』
エステリーゼが叫んだ瞬間。
アークナイトはすでに剣を横に薙いでいる。アルベロは右腕を巨大化させて受ける。
そして、
「くっ……」
無防備な左側に、エステリーゼの剣が。
アルベロは両足に力を込め、跳躍し回避した。
アークナイトは、いつの間にか手放していた丸盾を引き寄せ、左手に装備する。
「…………能力か」
「知っているだろう?」
「ああ。『
「ふん。出し惜しみはしない」
アークナイトの能力。それは、エステリーゼとアークナイトの位置を自在に入れ替えること。入れ替えにはアークナイトの装備品も含まれ、エステリーゼがアルベロの左側に入れ替わったのは、アークナイトがあらかじめ手放していた丸盾との位置を入れ替えたからだ。
召喚獣と召喚士が共に戦うことを前提とした能力。特殊な能力ではない、ただの《入れ替え》だけで、A級召喚士、さらにアースガルズ召喚学園の頂点に君臨したエステリーゼの戦闘スタイルだ。
「召喚獣と召喚士が躍るように翻弄する剣舞。『
アルベロは素直に称賛した。
だが、エステリーゼには特に響かない。
それに───敵はエステリーゼだけではない。
「オォォォォォォッ!! 『サンダァァァァァァァッ!! ボンバァァッ!!』」
紫電を纏わせた斧を持ち、回転しながらラシルドが突っ込んで来た。
まるで独楽。どう見ても回りすぎだが、ラシルドは笑っていた。
エステリーゼはアークナイトに抱えられ回避。
アルベロは拳を握り───。
「させないよ」
「ッ!?」
真横にいたサンバルトが、レイピアを突き出した。
アルベロは寸でのところで突きを躱す。
サンバルトの気配をまるで感じなかった。身体を向き直した時にサンバルトはいなかったのだ。
「捕獲ゥゥゥゥゥッ!! 『ア・バオア・クー』!!」
「なにっ!?」
右腕に。紫色の『糸』が絡みついた。
ジュワジュワと右腕の外皮に食い込み、何かが沁み込んでいく。
それが、オズワルドの召喚獣である巨大蜘蛛から吐きだされた糸だと気付いた。
「くっ……キモイな!! このっ!!」
「無駄だ。この糸は斬れんよ。それに、我が能力『毒毒』は触れたモノを徹底的に蝕む!! それがたとえ魔人だろうとなぁ!!」
オズワルドが吠えた。
そして、雷光を纏い回転するラシルドが迫ってくる。
アルベロは、糸を巻き込むように限界まで右腕を巨大化させ、身体を右腕で隠す。
「だらぁぁぁぁゃーーーーーーっ!!」
「ぐ、あっ!?」
『硬化』は、どんな攻撃からも守る。だが衝撃までは防げない。
アルベロは、ラシルドの『サンダーボンバー』の直撃を喰らい吹っ飛び、何度も地面を転がった。
「どぉぉぉぉぉぉだぁぁぁぁぁぁっ!! これで借りは返したゾォォォォォッ!!」
叫ぶラシルド。
あんなに回転していたのに、目をまわした様子はない。どうやらラシルドもかなり鍛えているようだ。
転がったアルベロはゆっくり立ち上がり、ポンポンと制服の砂を払う。
オズワルドの糸は千切れていた。
「やるな。でもまだ、ヒュブリスにも及ばない」
「……なに?」
「確かに、あんたらは強い。でも……俺のが強い」
ゾワリと、アルベロの気配が変わる。
エステリーゼも、ラシルドも、サンバルトも、オズワルドも感じた。
アルベロは、本気ではない。
「正直なところ、俺はあんたらなんてどうでもいい。今まで散々俺を無視したくせに兄弟ツラする奴とか、S級S級やかましいA級教師とか、ヨルハの兄貴とか……」
コキコキと首を鳴らす。
アルベロは、ほとんどノーダメージだった。
「でも、許せないことはある。たとえば……F級を見殺しにしたこと。それを謝らないこと。そんなことどうでもいいみたいに話しかけて屈服させようとすること。ああ、けっこうあったわ。はは、どうでもよくないな……」
アルベロは、エステリーゼとオズワルドを見る。
「とりあえず、そういうのを含めて……実験させてもらう」
右腕を構え、ゆっくりと握り締めた。
ビシビシと、右腕が軋むような音が響く。
そして───アルベロは呟いた。
「『
右腕がさらに変異し、右腕だけではなく全身を覆う。
身体も大きくなり、顔が魔獣のような顔つきになる。そして、変異が全身を覆い、アルベロは変わった。
召喚獣ジャバウォック。その真の姿。
変異したアルベロは、右腕の指をゴキゴキ鳴らした。
「じゃあ、相手してもらおうか。殺す気で来いよ」
ここからが、真の戦いの始まりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます