最弱召喚士の学園生活～失って、初めて強くなりました～

模擬戦②

「やりすぎだ、アホ」

「…………ごめんなさい」

　控室にて。

　リデルは落ち込んでいた。

　結果は圧勝。だが……あまりにも凄惨な試合だった。

　アボイドは重症。回復しても一生寝たきり生活だ。

　カーラも重症。右腕は爆破で千切れ飛び、全身に大火傷を負った。

　レイブンも重症。失血死寸前で医務室へ。

「り、リデル……なんかさ、すっげぇ強かったな」

「うぅ……ダモクレス先生との戦いを思い出しちゃって。その、ダモクレス先生すっごく強いから、アタシも遠慮しないで本気で、その……」

　アルベロも少し引いていた。

　リデルは勝ったのに落ち込んでいる。アーシェとラピスもかける言葉がなく、レイヴィニアとニスロクは退屈だと言って寝てしまった。

　すると、ヨルハが控室へ。

「リデル、お疲れ様。なかなかの試合……どうしたの？」

「見ての通り、やりすぎたって反省中なんだとさ」

　どんよりうつむくリデル。

　アルベロが慰めの言葉をかけようとすると。

「あ、生徒会の三人なら大丈夫よ。リッパー医師が綺麗さっぱり治しちゃったから」

「え！　ほ、本当ですか？」

「うん。あの人、肉片さえあればどんなにバラバラ死体になっても治せるし。死んで一日以内なら死者の蘇生もできるんだって」

「……バケモノだな」

「ま、いろいろ制約はあるみたいだけどね。ってわけで、そんなに落ち込まなくていいわよ」

「……はい」

　リデルはようやく笑った。

　ヨルハは、ヒトの悪そうな笑みを浮かべる。

「まぁ……初戦のインパクトはかなり強烈に残せたわ。記者もドン引きしてたし、Ｓ級がどれほど強いかをアピールできたわ！」

「じゃ、次は……オレの番か」

　キッドはソファから立ち上がる。

　ある意味、リデルより恐ろしい男だった。

　ヨルハは、キッドに釘を刺す。

「いい？　絶対に殺さないでよ。殺したら全部パァになっちゃうんだから！」

「わーってるよ。腹黒お姫様」

「む、それやめてよ」

「事実だろうが。じゃ、行ってくる」

　キッドは帽子をかぶり直し、試合会場へ。

　◇◇◇◇◇◇

　キッドの相手は三人。

　男子副会長、女子副会長、生徒会会計の三人だ。

　男子副会長のセンティアは、装備型召喚獣『イージスガード』をすでに召喚している。同様に、女子副会長のマルネも。相棒型召喚獣の『黒蟻（クロアリ）』を召喚。巨大な軍隊蟻の大群が集まっていた。

　さらに、会計の少年ロキスは、瓶の蓋を開ける。すると、中の水がふわふわと形を変え、まるで蛇のように空中でのたうつ。

「おいおい、まだ開始じゃねぇだろうが」

「いいからキミも召喚獣を出せ」

「へいへい。ったく……リデルのやつ、警戒されてやがる」

　どうやら、リデルのような『速攻』を警戒している。

　キッドは左手をセンティアに向け、人差し指と親指を立てる。

「穿て、『ヘッズマン』」

　翡翠を密集させたような左腕に変わる。

　人差し指が銃口へ、親指が照準器に変わる。

　キッドの相棒ビリーが、キッドと一つになった姿だ。

　これを見た生徒会の三人は、冷たい汗を流す。

　ヘッズマンの銃口が、まるで命を穿つような悪魔に見えた。

「どうした───ビビってんのか？」

　キッドの挑発。

　何気ない、キッドにとってはいつのも一言だ。だが……生徒会の三人には、それが恐怖の声だった。

　リデルとは違う恐怖。

　まだ数例しか確認されていない『寄生型』の脅威。

　それらが今、自分たちに───。

『それでは……始め！！』

　ファルオの合図で、試合が始まった。

　◇◇◇◇◇◇

　盾が砕け、身体中に穴が開いた。

「───がふっ？」

　センティアは、疑問と共に血を吐く。

　なぜ、身体に穴が開いているのだろうか。一瞬で視界が回転、白目をむいてセンティアは倒れた。

「防御なんて意味ねぇよ。オレの弾丸を止められるのは、あのバカだけだ」

　そして、水の紐がキッドに向かって飛んでいく。

　生徒会会計にして自然型召喚獣アクアスネークを持つロキスだ。水を媒介とした蛇は、空中でうねりながらキッドの元へ。

「へぇ……自然型」

　キッドは面白がるように、アクアスネークに向けて発砲。だが、翡翠の銃弾はアクアスネークを貫通するだけで効果がない。

　アクアスネークがキッドに迫る。そのまま顔面を包み込み、窒息させるのがロキスの狙い───だが、アクアスネークがキッドに巻き付こうとする瞬間、キッドは全力で跳躍した。

「『狙撃銃（スナイパー）』」

　空中で狙いを付け発砲───発射された翡翠の弾丸は、ロキスの右足を吹き飛ばした。

「ギャァァァァァ───ッ！？」

　右足の消失に、まだ十七歳のロキスは耐え切れなかった。

　右足を必死に押さえるロキスを、着地したキッドは思い切り蹴り飛ばした。

「残り一人。はぁ……雑魚すぎる。準備運動にもなりゃしねぇ。こんなんじゃ《あの姿》になれるのも遠そうだ」

　そう言って、キッドはマルネに銃口を向けた。

　◇◇◇◇◇◇

「雑魚すぎる」

　控室に戻るなり、キッドはつまらなそうにつぶやいた。

　リデルとは別の意味でガッカリしていた。

　マルネをハチの巣にしたキッドは、つまらなそうに戻ってきた。そして開口一番のセリフがこれである。

「お前、もっとやる気見せろよ……」

「雑魚すぎてつまんねーんだよ。おい、このあとの四人、オレにやらせろよ」

「ふざけんな」

　アルベロは立ち上がる。

　すると、アーシェが少しうつむきながら言った。

「ねぇ、アルベロ……エステリーゼさんだけど」

「ん、いい機会だしな。徹底的にやるよ」

「そっか……その、一応、あたしには優しかったし……あんまりやりすぎないで」

「……わかった」

　アルベロは、初めて冷静に考えることができた。

　自分は、姉エステリーゼ、兄ラシルドをどう思っているのか。

　答えは、無関心だ。

　恨みも憎しみもない。過去にエステリーゼたちがアルベロを無視したように、今はアルベロが兄と姉、そして両親を無視している。

　力を得てわかった。確かにエステリーゼたちの気持ちもわかる。今は本当にエステリーゼやラシルドに興味も関心も湧かないのだ。

　これは、せっかくの機会だ。

　過去に、エステリーゼたちはアルベロに関心がなかった。アルベロは家族に認められようと必死で頑張ったが、結果を得ることはできなかった。

　そして今。アルベロは力を手に入れた。そして、エステリーゼや両親たちがアルベロに向かってきた。

　アルベロはそれに応える。

「───ぶっつぶして、終わらせる」

　姉エステリーゼ、兄ラシルド。

　真の意味で二人に歯向かうのは、これが初めてだった。