風紀委員長ラシルド

 ラシルドは、全身が紫電に包まれていた。

 ラシルドの召喚獣『ライボルトアックス』は紫電を操る。電気刺激で全身を強化し、巨大戦斧を振り回し戦うのがラシルドの戦闘スタイルだ。このことは、ラッシュアウト家にいた頃から変わっていない。

 アルベロは、向かってくるラシルドと真っ向勝負することにした。


「ラァァァァイッ!!」

「ふんっ!!」


 ラシルドの戦斧が縦に振り下ろされる。

 アルベロを殺す気満々の一撃。アルベロは、斧を右手で摑み防御した。


「何ぃっ!? オレの斧を受け止め───なら、これで!!」

「ぬっ、ぐぁぁががががががががっ!?」


 バチバチと雷が全身を駆け巡る。

 アルベロは、痺れて動けなかった。が……耐えられないほどではない。寄生型の耐久力は生身の人間を遥かに超える……ちょうどいい刺激だった。


「ぐ、ぐぎぎ……っ!! たた、耐えられれる……っ!!」

「馬鹿な!? この……バケモノめ!!」

「ふぅぅんぬぅぅぅぅがぁぁぁぁぁっ!!」

「なっ───」


 アルベロは、右腕の力を最大限にして、ラシルドの斧を思いきり掴み、そのままぶん投げた。

 ラシルドは斧を握ったままだったので、そのまま演習場の地面をゴロゴロ転がる。

 斧が吹っ飛んだが、ラシルドはすぐに手元に戻す。


「この、馬鹿力め……お、オレ以上の腕力だと……!?」

「あ~痺れたぁ……うん、慣れれば気持ちいいかも」

「な……舐めるなこのガキ!!」


 再び、ラシルドは紫電を帯びて向かってくる。

 今度は、受け止めるつもりはなかった。アルベロは、一瞬でラシルドの真横に移動し、右腕を巨大化させラシルドに向けて放つ。


「『召喚獣殴打バンダースナッチ』!!」

「ぐぉぶえぇっ!?」


 まっすぐ向かう力は真横からの衝撃に弱い。

 アルベロは、身をもって知っていた。なので、直線的なラシルドの動きは、簡単に読めた。

 ラシルドは再びゴロゴロ転がる。今度は殴られて吹っ飛んだのでダメージが大きく、受け身を取らずに転がったので打撲や打ち身だらけになった。


「ぐ、おぉぉ……い、痛いぃぃ……痛いぃぃ」

「痛いって……あんた、怪我したことないのかよ。俺なんて毎日殴られて修行してるけど」


 ラシルドは立てなかった。

 アルベロは、あまりの弱さに呆れてしまった。まさか、あんなに強そうに見えた兄ラシルドが、これほど弱いとは……。


「俺……こんなに弱い人の弟だったのか」


 正確には、アルベロが強すぎるだけだ。だがアルベロは自分が強くなったとは気付いていない。三人がかりじゃないとタイタンと戦えないなんて、まだまだ弱いと思っているのだ。

 そして、キッドとラピスも合流した。


「こっちは終わったぜ。案の定、お前を狙って攻撃しようとしてたぞ」

「決闘を侮辱する行為、許せませんでした!」

「二人ともありがとな。こっちも終わった」


 キッドは、ラシルドを見てつまらなそうに言った。


「にしても、弱すぎだろ。つーかお前、手加減したんだろ?」

「ああ。能力は使ってないし、殴っただけ」

「B級上位でもこの程度か……つまんねーの。この学園で得るものはなさそうだ」


 キッドがつまらなそうにつぶやいた瞬間───アルベロ、ラピス、キッドは演習場の出口を見た。

 アルベロたちが入ってきた方と反対側に、一人の女子生徒が立っていたのだ。


「一部始終、見させてもらった。風紀委員の粛清を妨害する行為……貴様ら三人、生徒会長の権限により『停学処分』とさせてもらう」

「「はぁ?」」

「て、てて、停学!?」

「罪状は職務遂行妨害。風紀委員長の粛清に逆らい、その行為を妨害した罪だ。貴様らがS級だろうとこの学園の生徒である以上、私の決定には逆らえない。問題行為を起こす生徒は、学園に報告せねばな」


 エステリーゼは勝ち誇っていた。

 つまり、ラシルドの粛清とかいう身勝手な行為を止めたことで、アルベロたちは停学になった。

 確かに、エステリーゼの言う通り。アルベロたちはS級だが、学園の生徒である。生徒会長の決定に逆らえるはずがない。

 キッドは、殺気を漲らせてエステリーゼを睨む。


「おいクソ女……半殺しにされたくなきゃ、舐めた口利くんじゃねぇぞ。オレらにビビッて隠れてた腰抜けが、権力振りかざして悦に入ってんじゃねぇぞ」


 ビキビキと左腕が変化し、銃口となった指を突き付ける。

 だが、エステリーゼは怯まない。


「お前たちの振る舞いは学園上層部に報告する。たとえ校長先生が味方だろうと、お前たちをよく思わない教師たちが、この問題行動を取り上げてくれるだろう。ふん、寮に戻って謹慎しているんだな」


 そう言って、エステリーゼは去った。

 代わりに、ゾロゾロと医療チームが入り、ラシルドたちを運んで行く。

 残されたアルベロたちは、仕方なく演習場を出ようとした。


「フギル兄さん。失礼します」

「…………」


 話しかけられたフギルは、何も言わず俯いていた。

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