授業開始

 翌日から、召喚士になるための授業が始まった。

 配られた教科書を開き、壇上のオズワルドが厳しい顔で説明を始める。


「まず、召喚士とは?」


 オズワルドが教室全体に問う。

 態度はともかく、教える気はあるようだとアルベロは安心する。

 すると、レイチェルが挙手。指される前に応えた。


「召喚士とは、召喚獣を生み出し使役する者。つまり、この世に生きる人間のことです」

「違う」

「え……」


 オズワルドは、レイチェルの答えをバッサリ切る。


「召喚士とは、『魔帝』一族とその召喚獣を滅ぼすための存在だ。この召喚学園で学ぶのは、魔帝一族とその眷属である魔人を滅ぼすための力である」


 魔帝。

 かつてこの世界を滅ぼしかけた最強最悪の召喚士。

 そして、魔帝が召喚したとされる最悪の召喚獣こそが『魔人』である。

 かつて、『勇者』と呼ばれる召喚士たちによって封じられた魔帝だが、数十年前に封印を破り、失った力を取り戻すべく力を貯めている。

 今、この世界は魔帝の召喚獣である『魔人』との戦いが繰り広げられていた。


「いいか。貴様らに望むのは一つ。召喚士として学び、自らを鍛え上げ等級を上げろ。F級なんてクズ、魔人の前では盾にもならん」


 教室内は静まり返る。

 オズワルドの言う通り、魔人の強さは想像を絶する。


「現在、A級の召喚士は666人。うち、この学園生徒でA級は八人しかいない。B級からA級に上がるための壁を超えられる者は、そう多くないのが現状だ。だからこそ、F級という最底辺の貴様らに割く時間も手間も惜しい……いいか、人並みの対応をされたければ、死ぬ気で等級を上げろ」


 オズワルドはそう言うと、息を吐く。

 生徒たちは、静まり返っていた。


「午後は貴様たちの召喚獣を確認させてもらう。では、授業を続ける……」


 午前中の授業は座学。

 魔帝と魔人の歴史。召喚士の等級から召喚獣の話を徹底的に学ぶ。

 そして、昼食の時間になった。


「配給だ。持って行け」


 教室に、作業員のような服を着た男が、大きなトレイを持ってきた。

 トレイには、山盛りのパンが載っていた。

 これを見てため息を吐いたのは、やはりラッツだ。


「見たか? これがF級の現実だぜ……食事は余りもののパンだとよ。C級とかD級でさえ、学食の利用が許可されてるってのに」


 アルベロはパンをもらい、自分の席へ。

 飲み物は、水道から出る水だ。水は飲み放題である。


「お、このパン、クリーム入りだ。けっこう美味いぜ」

「お前な……」


 ハウルが呆れつつパンを齧る。

 マーロンはすでに完食。だが、物足りなそうにしていた。


「はぁ……足りないよぉ」

「マーロン、足りないときはな、何度も噛んでから飲み込むんだよ。そうすりゃ腹が膨れるって母ちゃんに聞いたことある」


 ラッツがそう言い、自分のパンを半分、マーメイド族に分けた。


「え、え……」

「食えって。オレんちけっこう貧乏だったから、飯が食えないなんてザラだったしな」

「ラッツ……」

「ほら、食えって」


 マーロンは、ラッツにぺこぺこしながらパンを受け取った。

 アルベロはパンを完食し、視線に気づいた。


「ん……」

「あ……ど、どうも」


 桃髪の少女ラビィが、アルベロを見ていた。

 パンをもそもそ食べながら、レイチェルと何か話している。

 アルベロは軽く会釈し、窓の外を見た。


「はぁ……等級を上げろ、か」


 そう呟き、右手にモグを召喚する。

 真っ黒なモグラは、今日も元気いっぱいだった。


『もぐ!』

「モグ、お前の等級上がると思うか?」

『もぐ?』

「はは、何でもない……ま、焦らないで「かわいい~っ!」うおっ」


 なんと、ラビィがアルベロのすぐ隣でモグを見ていた。

 そして、そっと手を伸ばしモグに触れる。


「わぁ……もふもふしてる」

「お、おい、なんだよ急に」

「えへへ。ごめんなさい……わたし、かわいい召喚獣が大好きで」

「か、かわいい?」

「うん。あ、紹介するね。わたしの召喚獣!」


 ラビィは両手を合わせ、小さな桃色のウサギを召喚した。


「『モモちゃん』っていうの。可愛いでしょ?」

「モモちゃん……」

『もぐ!』

『きゅい!』


 モグとモモちゃんは一瞬で意気投合し、互いに身体を擦り合っていた。

 その様子を見ていたラッツ、ハウル、マーロンも混ざってきた。


「おうおう、もふもふじゃねぇか。へへ、ここはオレのかっこいい召喚獣でバランスを」

「やめとけって。ただのトカゲじゃねぇか」

「う、うっせぇ!! おいマーロン、お前もミニブタ出せよ!!」

「う、うん」

「こらそこ! ラビィをいじめんな!」

「うっせーレイチェル、いじめてねぇし!」


 いつの間にか、アルベロとラビィを中心に人が集まっていた。

 

「あはは。なんだか楽しいね!」

「だな……はは、モグもモモちゃんも仲良くなって」

「うん!」

『もぐ!』

『きゅい!』


 これが、アルベロとラビィの真の出会いだった。

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