アースガルズ召喚学園

 ラッシュアウト領から出発して数日。

 ようやく、アースガルズ王国が見えた。

 アーシェは馬車の窓を開け、身を乗り出すようにして王国を眺める。


「見えてきた! アルベロ、あそこがアースガルズ王国だよ!」

「見えてるって。それより、危ないぞ」

「大丈夫大丈夫! よーし、おいで『グリフォン』!! 王国の空を飛んでおいで!」


 アーシェが召喚した緑色の巨大隼『グリフォン』は、大空を舞う。

 召喚獣は、基本的にどこでも召喚していい。現に、アースガルズ王国上空にも、鳥やドラゴンのような召喚獣が舞っていた。

 アルベロは、モグを召喚して撫でる。


「着いたかぁ……はぁ」

「なに? どうしたのよ、アルベロ」

「だって……これから学園生活が始まるんだぞ? 俺はどうせ最下級のFクラスだし」

「まーたそんなこと言ってる……」

「そういうお前は、たぶんBクラスだろ。姉上に目を付けられているから、生徒会入りもあるだろうな」

「エステリーゼ様と一緒かぁ~……それもいいなぁ」

「それと、お前は目立つから、学園内で俺に話しかけるなよ」

「はぁ!? そんなの知らないもん。幼馴染に話しかけるのに、目立つとか等級は関係ないでしょ!?」

「お前がよくても、俺が嫌なんだよ……わかってくれ、アーシェ」

「むー」


 アーシェは、幼馴染だ。

 十五歳になり、いろいろ成長した。

 長い髪、エメラルドのような瞳、そしてスタイルもいい……おそらく、人気者になるだろう。

 アルベロのような虫けら召喚士と一緒にいない方がいい。アルベロは、本気でそう考えていた。

 

 アルベロは、アーシェが好きだ。

 ずっと一緒にいてくれた幼馴染。

 でも、アーシェに不都合が生じるなら、離れるべきかもしれない。

 アーシェは、召喚士として成功するだろう。自分のような最底辺召喚士と関わるべきではないし、いずれアースガルズを出るアルベロのことは忘れた方がいい。


「えーっと、最初は学生寮に行くんだよね」

「ああ。その前に、アースガルズ召喚学園で召喚獣の等級検査だ。そこで等級分けして、学生寮が決まる」

「どんなところかなー?」

「……さーな」


 アルベロは、知っていた。

 学園の等級はA級からF級まで。等級が高ければ高いほど待遇がいい。

 入学当初。フルトはC級で、エステリーゼがB級、ラシルドもC級だったはず。

 A級はめったにいない。B級でも立場的には最上級だった。

 ちなみに、現在の等級はエステリーゼがA級、ラシルドとフルトはB級だ。


「アルベロ、これからの学園生活もよろしくね!」

「お前な、俺の話聞いてたのかよ……まぁ、いいか」


 アルベロは、アーシェの笑顔に苦笑で答えた。


 ◇◇◇◇◇◇


 アースガルズ召喚学園に到着した。

 大きな門だ。一気に百人並んでも通られそうな横幅で、アルベロはアーシェと一緒に門をくぐる。

 制服を着た在校生も多くいた。

 そして、嫌でも気付かされる……その制服に。


「……あれが等級か。嫌味な制服だ」


 制服の背中部分に、大きく描かれていた。

 F、D、C……そして、Bを囲むように並んで歩くDとC。

 馬鹿でもわかるような等級分けだ。背中にでかでかと等級が刺繡されている。


「アルベロ、あっちみたい」

「ああ」


 門の近くにある大きな建物で、新入生の等級分けが始まっていた。

 いくつもの窓口と、等級を図る道具が置いてある。その列に並び、順番を待つ。

 そして、アーシェの順番。

 アーシェは、等級を図る水晶玉に手を載せ、召喚獣『グリフォン』を呼び出す。

 すると、水晶玉に『B』の文字が描かれた。


「おめでとうございます! あなたの等級はBです」

「やったぁ!」


 喜ぶアーシェ。

 それを横目で見ながら、アルベロも同じようにする。

 すると……水晶玉に描かれた文字は『F』だ。

 なんの奇跡も起きない。期待通りの等級だった。


「では、あちらで採寸を。では次」


 担当者はぞんざいな言葉をアルベロに投げつけ、さっさと次の新入生の元へ。

 別に、何かを期待したわけじゃない。

 でも……アルベロは、ほんの少しだけ想う。


「まぁ……仕方ないよな」


 少しでも、モグに可能性と言うものがあるなら……と。

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