最弱召喚士の学園生活～失って、初めて強くなりました～

１２歳のアルベロ

　アルベロは十二歳になった。

　身体も大きくなり、幼少期はサラサラのストレートヘアだったが今は癖の付いた黒髪、目は真紅に染まった、なかなかの美少年に成長した。

　だが、容姿がいかに優れていても、この世界では通用しない。

　アルベロの召喚獣は、手のひらに乗るサイズのモグラの『モグ』のままだった。

　アルベロは、もはや第二の自宅と言っても過言ではない、屋敷の裏庭にいる。

「お前、相変わらず小さいままだなー」

『もぐー？』

　モグは、アルベロの手のひらで丸くなる。

　そんな姿がいとおしく、アルベロはモグを撫でる。

「はぁ……なぁモグ。姉上が『アースガルズ召喚学園』に通うんだ。きっと姉上なら『A級召喚士』になって、ラッシュアウト家を……この領地を発展させていくんだろうな」

『もぐ……』

「はは。そんな顔するなよ。たぶん、俺は家を追い出されるけど……まぁ、農民として暮らしていくさ」

　召喚獣には、等級が存在する。

　幼少期、生まれたばかりの召喚獣は『E級』だが、召喚士の心身の成長と一緒に、召喚獣も成長する。

　F級は最低ランク。現在のモグのランクだ。

「フギル兄さんはD級、ラルシド兄さんはC級、エステリーゼ姉様は十五歳でB級認定……ラッシュアウト家始まって以来の、優秀な三兄弟（・・・）だってさ」

　アルベロは苦笑した。

　そこに自分が入っていないこと。父も母も、他の貴族に家族を紹介するときに『三兄弟』と言っていることを、アルベロは知っていた。

　つまり、アルベロはラッシュアウト家に認められていない。

　モグを撫でながら、空を見上げた。

「召喚士かぁ……いくら貴族の義務とはいえ、俺も学園に通わなくちゃいけないのがなぁ」

　アースガルズ召喚学園には、十五歳から入学しなければならない。

　これは、召喚士の、貴族の義務である。生まれた瞬間から入学手続きは済ませてあるので、いくら父が三兄弟と紹介していても、アルベロは学園に通わねばならない。

「ま、いいや。さっさと卒業してラッシュアウト家から除名してもらって、農民になろう」

　アルベロは、十二歳にして擦れた考えをしていた。

　家族が自分を家族と認めていないことを嘆くのではなく、それならばと自分で生きていく強さを身に付けようと努力していた。

『もぐ……』

「モグ、あと何年かは我慢してくれ。そのうち、美味しい土のある場所に連れて行って、美味しいミミズをいっぱい食わせてやるからな」

『もぐ！』

　そういって、アルベロはモグを撫でた。

　すると、めったに人が来ないこの場所に一人の少女が。

「みーっけ」

「あ、アーシェ……」

　幼馴染のアーシェだ。

　長いエメラルドグリーンの髪、ぱっちり開いた目はとても可愛い。

　アーシェは、アルベロの耳をいきなり引っ張った。

「いでででで！？」

「アルベロぉ～！　な～んで訓練に参加しないのよ！」

「いやいやいや、痛いから離せ離せ！」

　アーシェはアルベロの耳から手を放す。

　耳を押さえるアルベロは、アーシェから距離を取った。

「く、訓練って……俺には必要ないよ。俺はどうせF級召喚士のままだし……このままでいい」

「よくない！　お兄さんやお姉さんは毎日訓練してるのに、なんでアルベロは」

「いいんだって」

　アルベロは、アーシェの言葉を遮った。

「何度も言ってるだろ？　俺はF級、家族からもムシケラ召喚士って呼ばれてる才能ゼロの召喚士なの。訓練をサボったって何も言われないし、最近じゃ父上も母上も俺のこと無関心だし」

　アルベロの二人の兄、そして一人の姉も、アルベロを探すことすらしない。

　上の兄フギルには後で馬鹿にされるだろう。その上の兄ラシルドは無視するだろう。そして……一番上の姉エステリーゼは、昔からアルベロに対し無関心だ。無視する価値すらない、使用人を見るようなどうでもいい目だ。

　アルベロは、アーシェに言う。

「アーシェ、お前も俺に構わないで、訓練に行けよ。姉上に期待されてるんだろ？」

「…………」

　アーシェは上空を見上げた。

　そこには、全長二メートルを超える巨大な隼『グリフォン』が優雅に飛んでいる。

　アーシェの召喚獣はD級。間もなくC級に昇格するところだ。

「ほら、行けって……それと、ありがとな。わざわざ探しにきてくれて」

「……アルベロ」

「よっ！　ラッシュアウト家執事長の娘！　ラッシュアウト家貴族と並ぶ期待の星！」

「そ、それ言わないでよ！　恥ずかしいんだからぁ！」

「あはははっ！」

　アーシェは、アルベロに『べーっ』と舌を出して行ってしまった。

　それを見送り、アルベロは笑みを止める。

「はぁ～……」

『もぐ……』

　ムシケラ召喚士。

　アルベロは、自分で言って少しだけ悲しくなった。