最弱召喚士の学園生活～失って、初めて強くなりました～

エステリーゼ

　ラッシュアウト家長女エステリーゼ。

　齢十五にしA級召喚獣を操る、ラッシュアウト家期待の星だ。

　十五でA級召喚獣を操るということは、長い召喚士の歴史を紐解いても、そうはいない。

　ラッシュアウト家当主アルバンが現在A級召喚士であるが、彼がA級認定されたのは四十代半ば……つまり、エステリーゼがどれほど規格外なのかよくわかる。

　エステリーゼは、美しい少女だった。

　サラサラの黒髪に真紅の瞳を持ち、十五歳という途上年齢ながら抜群のプロポーション、さらに、剣術に類慣れな才能を発揮し、十五歳でありながらラッシュアウト家の騎士を全員負かすほど強かった。

　それだけではない。

　エステリーゼの召喚獣『アークナイト』は、希少なヒト型召喚獣。

　形状は『騎士』で、全長約二メートル、純白の騎士鎧に蒼いマントを装備し、右手には装飾の施された丸盾、左手には大きな両刃剣を装備している。

　エステリーゼは、アークナイトと並び剣を振うスタイルで戦う騎士だった。

　エステリーゼの名は、アースガルズ王国でも少しづつ広がりを見せている。

　ラッシュアウト男爵家の令嬢が、王国召喚士を相手にし勝利という、前代未聞の出来事があったからだ。

　これは、父であるアルバンがエステリーゼの稽古のために王国に願い出たことで、稽古をつけるためにやってきた騎士がエステリーゼに叩きのめされたのだ。

　エステリーゼの名は、アースガルズ王国でも広がる。

　まだアースガルズ召喚学園入学前の少女が、これほどの強さを持つとは。

　それほど強いのなら、王子の護衛に。

　公爵家の娘も同い年だ。あちらも優秀な召喚士である。

　大公のご子息も同世代───と、王都では盛り上がる。

　のちに、エステリーゼの世代は『最強世代』と呼ばれ、優秀な召喚士が多く輩出された黄金世代とも呼ばれることになる。

　◇◇◇◇◇◇

　ラッシュアウト家の食卓に、家族は揃っていた。

　父アルバン、母サリー、長女エステリーゼ、次男ラルシド、三男フギル。そして四男アルベロ。

　食事の席で、アルバンが言う。

「エステリーゼ。学園へ向かう支度はできたのか？」

「はい。もう終わっています」

「そうか……何度も言うが、ラッシュアウト家の名を背負っていくのはお前だ。情けない姿を見せるなよ」

「はい、父上」

「エステリーゼ、手紙を書いてね？」

「はい、母上」

　父の言葉は期待、母の言葉は思いやりだ。

　エステリーゼもそれがわかっているのか、笑顔だった。

　そして、エステリーゼは弟に言う。

「ラルシドは一年後、フギルは二年後ね。二人とも、私がいないからと言って、鍛錬を怠らないように」

「はい、姉上」

「わかってますって。へへ、姉上より強くなって入学しちゃうぜ～？」

「ふふ……期待しているわ」

　姉と二人の弟（・・・・・・）は、仲睦まじい会話をする。

　そんな会話を聞きながら、アルベロは静かに席を立った。

　ここに、アルベロの居場所はない。

　自室に戻り、窓際の椅子に座って両手を太ももの上に向ける。

「出て来い、モグ」

　そう言うと、召喚獣モグがアルベロの太ももに召喚された。

『もぐ！』

「はぁ～……学園かぁ」

　会話には出なかったが、アルベロも学園に行かねばならない。

　あと三年───アルベロは、大きなため息を吐いた。