02 自己紹介

桜井 加奈子視点


私には物心のつく前から一緒に遊んでいた男の子がいた。


鉄と加奈子がまだ、小学校の低学年だった頃、

公園のベンチでのんびりしていると、



「かなちゃん!」



そう言い加奈子に駆け寄ってきたのは、

鉄の妹の彩恵ちゃんだった。



「今日はブランコでも漕ぐか、もちろん立ちこぎでなっ!」



そしてその後ろから鉄が来てそう宣言する。



「さえちゃん! てっちゃん!」



私は笑顔でうなずき三人でブランコに向かうのだった。


加奈子はこんな日々がずっと続くと思っていた。


しかし、現実はそううまくはいかなかった……。








ある日、加奈子はいつものように

公園のベンチで二人を待っていると



「あっ、さえちゃん!」



彩恵が歩いてきたので笑顔で近づくと、



「かなちゃん……」


「ど、どうしたのさえちゃん?」



彩恵はいままで見たことが無いくらいに

悲しそうな顔をしていた。



「お兄ちゃんもう、遊べなくなくなっちゃった……」


「!? どうして?」



加奈子は驚き、彩恵に理由を聞く。


どうやら、親と口論になり家を飛び出していったらしい。



「で、でもきっとすぐ帰ってくるよ!」



加奈子はそう励ました。



「そう……だよね……」



しかし、彩恵の顔色は優れないままだった。


その日、鉄が帰ってくることはなかった。








小学生の時のあの時から一度も会っていなかった憧れの男の子。


あれから松本家と関わることが無くなり、今どうしているのか

まったくわからなかった。


しかし、今目線の先に本人であろう人物がいるのだ。


(きっと彼はてっくんだよね……?)


教室に入ってきた1人の男子を見た瞬間

まるで雷に打たれたみたいだった。


(あの子だ!!)


しかし、話しかけようとしても

恥ずかしくて全然できなかった。


(どうしよう! こんな運命的な再会ができるなんて!!)


確実に本人にばれそうになるぐらいに見つめる加奈子。


しかし、鉄は読書に夢中でまったく気づかない。


一人ドキドキしていると担任らしき人物が教室に入ってきた。



「よ~し! 早速自己紹介するわよ~!」



そう言うと、自己紹介が始まった。


正直、自己紹介どころではなかった。


(また声が聴ける! あっ、でも声変わりしてるか……)


今の彼女にはまわりの自己紹介など全く入ってこなかった。


彼女の頭の中は鉄の事しかないのだから。


(わわっ! 私の番だ!)


上の空だったせいもあり、

いきなり呼ばれかなり動揺しながらも自己紹介をする。



「出席番号8番!! 桜井 加奈子です!!

よろしくお願いしますっ!!!」



元気よくそう自己紹介をするとあの男子と目が合う。



「よろしくねっ!!」



うれしくなり思わず満面の笑みで彼にあいさつをしてしまう。


全体に紹介するはずがたった一人の男子に自己紹介をし、

まわりから様々な目で見られていることに気付くのは

もう少し後のことである。

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