第5話 初めての戦闘

 何事もなく、無事に西門に到着した剣二は門の前で立ち尽くしていた。

 それもそのはず、この門は色々とおかしな点があったのだ。


 「ここまで立派な門は見たことねーぞ?」


 剣二が驚くのも無理はない。

 目の前にそびえ立つ西門は、あの陽明門より神々しく、何よりとても大きかったのだ。


 ただの門でここまでするか!?


 だが、ここで立ち止まってる時間はない。

 早く金になるアイテムを獲得しなくては。

 時間にして正午過ぎ。

 いつまで換金を取り扱っているかわからない。

 事は速やかに遂行しなくてはならなかった。


 「それじゃあ・・・行くか・・・」


 西門を後に、剣二は外の世界への一歩を踏み出した。

 さて、王国の外の世界は、一体どのようなものを想像するだろうか。

 綺麗な草原に、綺麗な小川。全てが煌めいて見えてしまうだろう。

 そんな夢のような世界は、夢のまま終わってしまう。

 退屈な人生を生きていくしか無い。

 この時まではそう思っていた。

 理不尽な異世界召喚であったが、そんな前置きもどうでもよくなる世界が眼前に広がっていた。

 視界に隈なく広がるその光景は、今まで見てきた草原よりも圧巻するものだった。

 風にさらさらと靡いたライトグリーンの草原が煌めいている。


 「これはすごいな・・・」


 自然の美しさに疎い剣二でもそう呟いて動きを停止してしまう。

 その光景にしばらく動けなくなってしまうのは当然だろう。

 今までの退屈な人生に急な刺激を受けたのだから。

 だが、見とれている時間は剣二にはない。


 「モンスターは・・・」


 視界の隅から隅まで見落とさないように見渡す。

 すると、視界の隅で上下に動く物体を発見した。


 ・・・・ん?あれはモンスターか・・・?


 距離にして約一キロメートルぐらいだろうか?

 その物体との距離を詰めるべく、駆け足で近づいていく。

 近づいていくにつれてその物体がモンスターということは認識できた。

 だが、剣二はそのモンスターに違和感を覚えた。


 スライム・・・なのか・・・?


 剣二が疑問を抱いた要因。

 それは、特徴だ。


 スライムと言えば、水色のぷにぷにボディが特徴のモンスターだ。

 だが、このモンスターの特徴は、サファイアのようなボディにごつごつした形状だった。

 剣二が思い描くスライムとは対極の存在だった。


 「もう少し近づけばわかるか」


 さらにモンスターとの距離を詰めようと駆け寄る。

 確かにその物体はモンスターで間違いなかった。

 だが、スライムではなかった。


 このモンスターは・・・?


 今までやってきたRPGやオンラインゲームでも見たことがないモンスターに動揺する剣二だったが、モンスターの頭上に英語らしき文で名前が記されていた。


 「サファイア・ミネラル?」


 このモンスターはサファイア・ミネラルというらしい。

 というか、よく考えれば特徴のまんまじゃないか!

 サファイアの鉱物って!

 まあそんなことはさておき・・・


 「確認が取れたところでさっそく戦ってみるか」


 剣二は武器庫から刀を取り出し、構えを取る。

 だが、普通ならあるべきものが、そこにないことに気がついた。

 一度武器を下し、念入りにモンスターの周囲を確認するが、


 「こいつ、HPバーがない」


 一つ違和感に気が付くと、違和感は違和感を呼ぶもので、自分にもHPバーがないと同時に気が付く。

 HPバーとは、その個体の命を絶つまでのダメージ量を数値化したものだ。

 それがないということは、つまり・・・


 「いろんな死に方があるということか・・・」


 大量出血による死や、心臓を突きさされて死ぬことがあるという。

 つまりは、自身の生命活動を止めれば死ぬという単純なデスゲームだった。

 今になって、剣二は現状と向き合い始めた。

 死が間近にあるという恐怖。


 今にも逃げ出したい・・・


 そう思うのは仕方のないことだ。それが人間の本能なのだから。

 だが、現状はそんなこと許されるはずもない。

 この国に「災い」が来たときに対抗できなければ死んでしまう。

 戦わないという選択もあるが、万が一、戦わざるを得ない状況になった時に戦闘能力が低ければ死んでしまう。

 まずそれ以前に、モンスターを倒さなければお金は手に入らない。

 そのための、モンスターにやられない体づくりで力をつけるしかなかった。

 装備ステータスを開き、隈なく探すもこの世界にはレベルの概念もないらしい。

 あるのは五に渡るパラメーターのみ。


 攻撃力

 防御力

 素早さ

 魔法

 テクニックの五つだった。


 そのパラメーターは見るからに異常であった。


 全てのパラメータが高い?

 あながち間違えてはないが、問題なのはそこではない。


 「魔法:0ってどういうことだ?」


 他のパラメーターはそこそこ高いのに、魔法の欄だけ数値が0を示していた。


 「よくわからんが、とりあえずやってみるか」


 そしてもう一度武器を構える。


 「うおおおおおお」


 切りかかろうとしたが、サファイア・ミネラルはその攻撃を綺麗にかわし、剣二の懐に吸い込まれるようにはいった。


 「しまった!」


 気が付いたときには剣二は五メートル先まで吹っ飛んでいた。


 「いっってーー、これだから近距離は嫌なんだ!」


 そんな愚痴をこぼしても今はこの武器でやるしかない。

 早く金を集めて武器を変えてやろう。

 その決意を胸にもう一度切りかかる。


 「うおおおおおおおおお」


 今度は剣先がサファイアミネラルの心をとらえ、真っ二つに。


 「みええええええ」


 奇妙な声と共にサファイアミネラルは消失し、それと同時に装備ステータスのところにNEWマークがついた。


 「なんだ?」


 剣二は装備ステータスからNEWマークがついている「道具」のところをタップした。

 するとそこにはドロップ品が収納されていた。


 「サファイアの雫か・・・」


 説明欄を見るとそこには売却用と一言だけ記されていた。


 「これは都合がいい!」


 よく見ればそこら中にサファイアミネラルが湧いているじゃないか!

 このモンスターからドロップするアイテムが売却用となると話は決まった。


「やるか!」


こうして、陽が落ちるまでサファイアミネラルの討伐を続けた。

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