第4話 この国の政治状況
「随分と年季の入った武器屋だな・・・」
「この国の中で一番最初にできた武器屋だからな」
「そうなのか?だったら人気とか上々なのか?」
「いや、今は見ての通り閑古鳥が鳴く始末さ」
「そうか・・・」
なぜ、最初の武器屋に人は集まらないのだろうか。
その方が、信用度が高いんじゃないのか?
やはりこの世界の人間が何を考えているのかわからない。
無論、この大男もだ。
「そういえば、刀が見たかったんだっけか?」
「ああ、そうだ。少し見せてくれないか?」
「構わないぞ」
剣二は仕舞えずに右手でずっと持っていた刀を大男に差し渡した。
「これは珍しいな。見たことがねえ」
「ベテラン武器屋でもか?」
「おい、ベテランとかいうなよ。照れるだろうが」
「それで何かわかりそうか?」
「聞いてんのか!おい!」
「なんだよ、聞いてるよ・・・。そんなことよりどうなんだ?」
「そんなことって・・・」
大男が何か言いたげな様子だったが、剣二の正論に何も言えなくなってしまう。
確かに、ここに来たのは刀を見てもらうだけであって、決して褒めるために来たのではない。
そこを勘違いしてはならない。
刀を全方位から観察する大男は、
「そうだな・・・この武器の装備クラスは兄ちゃん以外いないと思うぜ?これ、返すぜ」
「そうなのか?」
刀を大男から受け取り、手に持つ剣ニ。
「正直見たことがねーな。兄ちゃんひょっとして異世界召喚してこっちに来たのか?」
「なんだ、ここの住人はそんな知識まで持ってるのか?」
「当然だろ?だが、見たことのない武器は異世界人が所有する六宝剣だけだと思っていたが・・・こんな武器は六宝剣にあったっけな?」
またも出てきた、六宝剣という単語。
そんなに、あの鉄の塊が偉いのか?
鉄の塊なら今まさに剣二の手元にもある。
その六宝剣とやらと、この刀は一体何が違うというのか。
どちらにせよ、今はその単語を聞くだけでも腹が立つ。
剣二は、六宝剣の単語は無視して話を進めていく。
「俺は今日こっちの世界にきたんだ」
「そうなのか。もしかして七人目の勇者だったりしてな」
「それはないな」
先ほどの王城のあの態度を見て誰が七人目の勇者だと思うのか。
大男は腕を組み、何かを考え始めた。
ぶつぶつと独り言を始め、最終的に行き着いた言葉が、
「まあ、多分ねーだろーな」
「そりゃそうだろ。そんなことはこの俺自身がよくわかってる」
「まあ、そうだな」
何かの心配を拭おうとしているのか、これはまた微妙な顔をする大男。
そんな大男の表情はさておき、剣二には聞きたいことがあった。
「なあ?この世界のことをどこまで知ってるんだ?」
「またスケールがでかい話をするもんだな・・・まあ大抵のことはわかるぞ?」
「それを見込んで聞きたいことがあるんだがいいか?」
「おう、なんだ?」
ここで聞きたいことは断じて六宝剣の話でもなく、王国転覆の相談でもない。
もっと自分に関わる極めて重要なことだった。
「「災い」ってなんだ?」
六宝剣の勇者の情報知っている以上、この手の話を知らないわけがない。
「災い」という単語を聞いた大男は今まで一切変えなかった顔色をガラっと一瞬で変えた。
「「災い」が来るのか?」
「わからないが、この地に降り注ぐ災いに対抗してほしいと言われたからな。まあ、「刀」クラスだと知る前にだけどな」
「兄ちゃん。つくづく不幸な人間だな」
「何の話だ?」
「いや、何でもねーよ」
なぜか涙ぐんでいたその目をこれでもかというぐらい拭っていた。
この男は一体何を考えているのやら。
「それより、「災い」の話だったな。詳しいことはよくわからないが、なんかモンスターが大量発生するらしいぜ?」
「他にはないのか?」
「それ以上のことは分からんな。なんせ、俺は「災い」に赴かないんでな」
「そうか・・・」
「災い」というのは、モンスターが大量発生すると言ったものらしい。
まあ大男は、最前線で戦う兵士ではないから断言はできないのだろう。
この大男から得られる情報はもうないようだ。
「あと、これどうやって仕舞うんだ?」
「「武器庫」の中の、その武器をタップすれば仕舞えるはずだぜ?」
「わかった、ありがとう。それじゃあな」
武器を仕舞い、退店しようとする。
「兄ちゃん!ちょっと待て!」
いきなり呼びかけられ、後ろを振り返る剣二に大男は、
「俺の名前はゴレオン。何かあれば、寄ってけよ」
「なんだ?俺はお得意様にでもなったのか?」
「まあ、そういうことだな」
「全く、勝手に決めつけるなよ」
ゴレオンにはペースを乱されてばかりだ。
だが、なぜだろう。剣二は悪い気はしていなかった。
「また何かあれば寄る」
「おう、待ってるぜ」
踵を返す様に剣二は武器屋を後にした。
時間は正午を回っていた。
異世界に来てまだ何もしていない。
このままでは泊まる宿どころか、飯にすらありつけない。
・・・・・・・・あ
ここで剣二はあることを思い出した。
そういえば、どうやって金稼ぐのか聞くの忘れた・・・
この世界に来て真っ先に考えたことをすっかり忘れていた。
店主のところに戻れば良い話なのだが、そうはいかない。
あんなにかっこいい別れ方をしておいて、この数分でまた尋ねるのは正直恥ずかしい。
さて、どうしたものか・・・
行く当てもなく徘徊を続けていると、ある武器屋で換金している兵士の姿が見えた。
モンスターのアイテムを換金しているのか・・・?
そうと分かればやることは決まってくる。
「仕方がない。外の世界に出てみるか・・・」
剣二は西に位置するサレト草原へと向かっていく。
向かう途中に奴隷のように扱われている子を見かけ、その子は殴られるわ、蹴られるわで見られないほど気の毒だった。
「全てが本当にひどい国だな」
助けたい気持ちはあったが面倒ごとに巻き込まれるのがごめんだ。
だが、自分が面倒ごとに巻き込まれるなど剣二はこの時、一ミリ足りとも思わなかった。
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